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149 奇襲

ホントは、もう少し進む予定でしたが、文量が増えたので二話に分けます。

「クソ、暇だな。せっかくこんなとこまで来たってのに、見張りだなんてついてねえよな」


「まったくだ、狩が出来ねえから金にならねえし、暇を潰すにも酒も女もねえってのに」


「どうせ中に入ったって大した魔物も採集品もねえんだ、だからこの『迷宮』には誰も来ねえんだろが、中に入ったって無駄に戦闘して、骨折り損のくたびれ儲けになるくらいなら、ここでのんびり待ってても取り分は変わらねえよ」


 やっぱり見張りがいるよね。多分俺を警戒しているって言うよりは、サミュー達が中に入った連中をやり過ごして逃げ出して来た時に備えてるんだろうな。


 とりあえず、馬を離れた所に止めて、隠れながら近づいたのは正解だったって事か。


「それでも俺は中に入りたかったね。狙ってるのは女奴隷ばかりだってんだろ、なら引き渡す前にタップリ楽しめるじゃねえか、どうせなら一番乗りしてえからな」


 この野郎、うちの子達をなんだと思ってやがるんだ。


「馬鹿が、知らねえのか、今回の獲物は出来るだけ無傷で引き渡すって事になってるんだ、手なんて出そうものなら価値が無くなって袋叩きにされるだけだぞ」


 無傷で捕えたい、これだけじゃ何が目的か解らないか。まあ、こんな所で見張りをさせられるような連中じゃ大した情報は持って無いだろうな。


 なら、早いところ排除して中に行った方が良いか。とはいえ意外とレベルの高い奴がいるから、正面から仕掛けるのはちょっと危ないかな。


 うん、アラなら一人で何とかしちゃいそうだけど、正面から戦うには俺だと結構キツイし、再生能力の無いトーウだと危険そうだからね。それに万が一でも『蝙蝠の館』の中に逃げ込まれて、中にいる本隊に警戒されたら困るし。


 気は進まないけど、やっぱりあの作戦で行くか。うんマンガなんかじゃ結構成功してるからたぶん上手く行くはずだ。







「しかし暇だな、なんか変化がないと、うん、今何かそこで動かなかったか」


 暇そうにしていた、冒険者の一人が立ち上がってこっちの方を見てくる。


「気のせいだろう、入り口はここしかないんだ、それで誰も出入りしてないんだからよ、誰かいるはずないだろう」


 おお、きちんと三段論法になってる。とは言えそれじゃあ結論間違ってるだろ。


「そりゃあ『迷宮』の中から誰か来たわけじゃないだろうがよ、どっかの馬鹿がこの『蝙蝠の館』に狩りに来たかも知れねえだろう。こんな所を見られたんじゃ生かしておけないからな、秘密ってのはどんなところから漏れるか解んねえものだからな」


 だよね、さっきの論法は『迷宮』の中からしか人が来ない、って前提がないと意味がないもんね。


「ちょっと行ってくる」


 一番レベルの高い冒険者が剣を抜きながらこっちのほうに歩いてくる。『軽速』を使って木の上に隠れてるからたぶんバレないだろうけどさ。


「手伝うか」


「ふん、こんな辺鄙な所に来るような素人だ、俺一人で十分だろう」


 他の連中に手を振って、剣で藪を切り分けながら進む冒険者に気付かれないように、樹上を跳び木の陰に隠れながら追いかける。『軽速』のおかげでほぼ体重がゼロだから、枝もしならないし葉っぱも揺れないから音はほとんど無いよね。


「どこにいるんだ、出てこいよ」


 威嚇の為か大声を出しながら、手当たり次第に藪を切り分けてるから、多少音がしても気付かれないだろうし、下ばかり見てるから頭上がおろそかだ。


 枝の上に乗って、相手との距離を測りながら、『アイテムボックス』に手を入れて武器を取り出す。


 結構ゴツイ鎧を着ているけど、針で突く分ならいくらでも隙間があるからな。


 枝につかまったままで逆さになり、両足で枝を思いっきり蹴って冒険者の背後に跳びかかる。


「っつ、あえ」


 鎧の隙間から差し込まれた針先が、首筋に軽く刺さるだけで冒険者の体がその場に崩れ落ちる。『薬殺長針』の威力は凄いな、トーウの『麻痺毒』を塗ったんだけど、ほんのちょっとで高レベル冒険者が抵抗も出来ずに一瞬で動かなくなったよ。


「な、な、なふは、おはえ」


 呂律の回らない口調で問いかけてくる相手の装備を剥ぎながら、『眠毒』に浸した針を刺し直す。


(『切り裂きの短剣』を使えば手っ取り早かろうに)


(鎧の隙間に入れた時に下手に捻って、折れたら困るだろ)


 それに、『切り裂きの短剣』じゃ、何人か殺しちゃうだろうしさ。


(じゃがのう、これではのう、ならばもっと殺傷力のある毒に代えぬか)


 なんだ、なんでいきなり好戦的になってるんだよこの首飾りは。まあどっちにしても。


(悪いが、今は別な毒を用意している時間がない、トーウ達が動き出してるはずだからな)


 残りも削れるように、待ち伏せれそうな場所へ早く移動しないと。多分そろそろ……


「きゃあーーー」


 離れた所からトーウの叫び声が響き、反対方向から冒険者連中の声が聞え出す。


「おい、今女の声がしたぞ、やっぱり獲物が逃げたんじゃないのか」


「な訳ねえだろう、多分さっきあいつが見つけた素人冒険者が女だったんだろうよ」


「ああ、なら喰い放題じゃねえかよ、野郎が一番手か上手くやりやがって」


「まあいいじゃねえか、やったって減るもんじゃなし、俺等にも回してもらおうじゃねえか」


 勝手な事を言いながら、門の前にたむろしていた冒険者連中がそれぞれ立ち上がろうとするが、一人が片手を上げてそれを止める。


「おいおい、全員で行ってここを空にしてどうする。俺達が楽しんでる間に獲物の奴隷達が『迷宮』の外に逃げ出したら、中にいる連中に全員殺されるぞ。それにな、これだけの人数が一度に群がったら、その女は壊れるどころか死んじまうだろ、美味しい思いをしたければ順番を守れ順番を」


「仕方ねえな、後で良いから壊すんじゃねえぞ、何の反応もしねえ女じゃ詰まらねえからな」


 残った十人弱の連中に手を振りながら冒険者達が森の中へと入っていく。


 多数の相手を少数で破る時は分散させるのがセオリーだし、その為に色仕掛けを使うのもよくある手だよね。


「あの野郎、何処で楽しんでやがるんだ、まさか独り占めする気で隠れてるんじゃねえだろうな」


「あり得るな、奴は最初から女だって気付いてたからあんな言い方して、一人で行ったんじゃないか。おい、散開して探すぞ」


「小さな音も聞き逃すなよ。見つけたらすぐに声を出して仲間を呼べ、幾らあいつが強くてもこの人数で囲めば、独り占めなんて馬鹿な考えはやめるだろうからな」


「間違っても、抜け駆けなんて考えるなよ」


 よし、上手い具合に分散してくれた。


 端の方に居る一人の背後へ音を出さないように回って、一気に針を差し込む。


「は、はへえ」


 すぐに力の抜けた体が崩れ落ちようとするのを支えて、音をたてないように地面に横たえてから、次の相手に向かう。


 一人一人順番に周りから気付かれないように倒している最中に、また大きな悲鳴が響く。


「いやー、おやめください」


「あっちだ、行くぞ」


 トーウには冒険者から離れたところを移動しながら、間隔を空けて声を出すように言ってるから。冒険者連中はそれに合わせて、それぞれの方向へ走りだし、徐々にばらけていくから更に狙いやすくなる。


「今度はこっちか、あの野郎、普段は自分の強さを自慢してるくせに、女ひとり満足に捕まえられねえのか」


「もしかしたらワザと逃がして楽しんでるんじゃねえか」


「あり得るな、おい何人か向こうから回り込め、俺等が先に捕まえれば、奴も文句は言えないだろう」


「解った、行くぞ」


 よし、更に分散した。これで……





「クソ、遅えな、いつまでやってるんだよ」


「さっきからたまに悲鳴が聞こえてるが、もしかしてまだ捕まえれてないのか」


 森の中に入ってきた冒険者全員を麻痺させてから、トーウ達と合流し『蝙蝠の館』の近くまで戻って確認すると、残っていた冒険者連中がつまらなそうにたむろしている。


「折角の機会だって言うのに、居残りに回されるなんてついてないな」


「まあ、お零れにあずかれるだけ、中の連中よりましだとおもえよ」


「まあな、そう言えばお零れと言えば、あの奴隷の乗ってた馬車の中身はどうするんだ」


 馬車、そうか『蝙蝠の館』には乗り入れられないから、前みたいに近くに止めてるのか、中身って事は『アイテムボックス』に入りきらないくらい荷物が有るのかな。ハルの事だから買い物し過ぎたのかも、結構お小遣いも渡したからな。


 うーん、サミューとミーシアが財布のヒモを締めてくれると思ったけど、ハルに押し切られちゃったか。生活費とか大丈夫だったのかな。


「そりゃあ、山分けだろう肉は無くなってたが、フロアボス級の魔物の毛皮に爪、牙、骨、どれも金になる、しかも干してあった内臓は薬としても高値が付くからな。それが数頭分、この頭数で割ってもそこそこの額になるだろうさ」


 え、フロアボスの採集物、それが数頭分って、話の内容だと俺の馬車に乗ってたみたいだけど、もしかしてサミュー達が狩ったのか。ちょっと待ってくれよ、俺が居ない間に一体何やってたのあの子達は。


 ま、まあそれは合流した後で聴けばいいよね。とりあえず今やる事は。


「トーウ、頼む」


「承知いたしました。きゃああああ」


 近くで上がったトーウの悲鳴に、冒険者連中の視線が一気にこちらの方に向かうが、藪の陰に隠れている俺達を見つけた様子は無い。


「おい、聞こえたか今の」


「ああ、あいつ等あれだけの頭数揃えて、逃げられたのか、運の無い連中だな」


「一番運がないのは、そこにいるお嬢ちゃんだろう、せっかく逃げ切ったって言うのに俺等に掴まるんじゃよ」


「俺らが一番ついてるって事だな」


 数人の冒険者が立ち上がって、こちらの方へ歩いてくる。


「おい待て、ここを空にする気かよ」


 余計なこと言ってるんじゃない、来い、そのままこっちに来い。


「離れなきゃ大丈夫だって、すぐそこで捕まえてやっちまえば良いんだ、扉が開けば音がするからすぐに解るさ。それよりも時間が経てば経つほど遠くなるぞ」


「クソ、行くぞ」


 よし来た、トーウとアラは既に後方に下がっている。もう少ししたらまた声を出すはずだから、そうすれば一気に駆け出して。


「来ないでください」


「あっちだ、近いぞ、逃げられる前に行くぞ」


 一気に駆け出し、それぞれの素早さや装備でばらけだした冒険者達を背後から追いかけながら、一人ずつ針を刺して倒していく。


「よし、これで全員だな」


 今の戦闘で倒した冒険者から装備品をはぎ取っている俺に、軽い足音が二つ近付いてくる。


「リャー、怪我してない」


「お疲れ様でございました、こんな事で旦那様のお役に立てましたでしょうか」


 茂みの奥から、それぞれ心配そうな表情を浮かべたアラとトーウが駆け寄ってくる。


「ああ、俺は大丈夫だアラ、トーウもお疲れ様、おかげで上手く行った、ありがとう」


 片手を上げてお礼を言ったら、トーウが両頬を押さえて俯いちゃったけどどうしたんだろ。


「そのような御言葉、勿体のうございます。旦那様の御命令どおりにするのは当たり前の事でございますので。御命令さえあればたとえ火の中水の中、何処であろうと向かう所存でございます」


 うん、そんな無茶な命令はする気ないからね。


「リャー、アラはー」


「ああ、アラがトーウを守ってくれたから、俺は安心して戦えたんだ、ありがとうアラ」


 足元に掴まって見上げて来たアラの頭を撫でるとそれだけでうれしそうに微笑んでくれる、ああ癒されるなー


(それで、お主はこれからどうするつもりなのじゃ)


 なんだ、そんなの決まっているだろう。


(多少休憩は取るが、準備が整い次第、『蝙蝠の館』に入って、サミュー達を助ける)


 その為にここまで急いで来たんだからな。


(そうではない、この者達をどうするのかと聞いているのじゃ)


 ラクナの言葉に、足元に倒れている冒険者を見下ろす。うん、完全に麻痺してるな。これでどうするってそんなの。


(このまま寝かしておけば良いだろ、もう抵抗は出来ないだろうから)


 あ、それとも、麻痺が解ける事を心配しているのか、それなら縛っておいた方が良いのかな。


(やはり解っておらぬか、お主はどの位の期間で『迷宮』から戻るつもりなんじゃ)


 何日って、そんなの解らないだろう。これから敵とサミュー達を探して、状況を確認して対策を立ててから実行、それからここまで戻って、その間に魔物との戦闘も有るだろうし、場合によってはそのまま『迷宮』を探索するかもしれないよね。


(解らないな、とはいえ数日はかかるだろうな)

 

 食料は十分あるしね。


(その間、ずっとこのままにしておけば、こ奴らは三、四日で渇いて死すじゃろうて)


 な。


次は早めに更新できると思います。


H28年1月24日 誤字修正しました。

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