148 奴隷娘達のかくれんぼ
お久しぶりです。
「あっちだ、あっちを探せ、この辺りに居るはずだ」
「この部屋はどうだ、クソッ、鍵が掛ってやがる、ぶち破るぞ」
「よ、よせ確認しないでいきなり開けるんじゃねえ、誰か斥候職を持ってる奴は居ないか、ぐああ」
「クッ毒矢だ、このバカ野郎がこれで何個目の罠だと思ってるんだ。おい、二人やられた、解毒剤と回復薬を持ってこい」
「おい、それよりこっちに来い、血の匂いにつられてブラックウルフがきやがった」
「とっとと倒せ、早くしねえと他の魔物も来るぞ、この『迷宮』はどうなってやがるんだ、蝙蝠や鼠はちょこまか動いて攻撃が当たりにくいってのに、わんさか出て来るし。罠は多いしほとんどの扉が鍵がかかってる。空虚の鎧が居るのは聞いてたがなんでゴーストまで居るんだよ」
「クソ、いてえ、クソ、それもこれもあのアマ共のせいだ、見つけたらただじゃ置かねえ、ボロボロになるまでヤッてやる」
「馬鹿野郎、金のなる木を潰す気かおめえは、無傷でとらえるんだよ」
「おい、後退するぞ、これだけ罠や魔物が残ってんだ、こっちには来てねえだろ、これ以上ここらに居たら俺らがやべえ」
壁の向こう側から、冒険者達の声が聞こえますが、戦闘に夢中でこちらに気付く様子は無さそうですね。
「どうやら大丈夫そうですわね」
壁に耳を付けて外の様子を覗っていたハルさんが、離れていく足音や怒声にほっとしたようにため息を吐きます。
「そうですね、ミーシアちゃんのおかげですね」
部屋の奥で休んでいたミーシアちゃんを振り向くと、慌てたように両手と首を振っていますが、本当にこの子は可愛らしいですね。
「そ、そんな事なんて無いです、わ、わたしなんて、サミューさんとハル様に比べたら」
わたしの方が何もしてないような気がするんですが。
「そんな事はありませんわよミーシア、貴方が罠を解除しているおかげでわたくし達はここまで来れたのですし、通った後で再設置しなければ、すぐに後を付けられていましたわ。それに魔物の増えたこの『迷宮』では、貴方の鼻と耳が無ければもっと多く戦う事になっていたでしょうし」
「ハルさんの言うとおりです、この隠し部屋もミーシアちゃんが居たから隠れられたんです」
わたしもハルさんも御世辞を言っているつもりは無いんですが、どうもミーシアちゃんは自分に自信が持てていないんですよね。
「で、でも、この部屋も罠も、前に来た時に、リョ、リョー様が教えてくれた場所だったから」
そう言えばそうですね。あの時は確かに御主人様が罠の位置を教えて、ミーシアちゃんに確認と解除をさせていました。ミーシアちゃんの経験の為と言っていましたが、もしかすると、こうなる事を予想していたのでしょうか。
いえ、それよりも、それだけの指導ができるご主人様は何者なんでしょうか、色々な『魔道具』を使われていますが、『スキル』は全く使われませんし、あの短剣に、足環と指輪、どれも凄い効果です。
おそらくあの火や水を操るのも何か特殊な『魔道具』の効果なのでしょう、ハルさんが非常識な現象だと言ってましたから。
それにあの腕輪、わたしは自分の『HP自動回復』がかなり高性能だと思っていましたが、御主人様の回復速度とは比べ物になりませんから。
御主人様は戦闘用のスキルの分を『魔道具』に頼られているという事は、その分別なスキルを取られているという事なのでしょうか……
特殊な職種ではそう言った場合もあると聞きますし、戦闘職に就いていない可能性もあるのかもしれません。
「そんな事はありませんわミーシア、罠の再設置や隠し扉の閉鎖は、貴方が自主的にしていた練習のおかげじゃありませんの、貴方はそれを自慢するべきですわ」
今のハルさんの声で気付きましたが、少し考え込んでしまっていたようですね。これではまるで御主人様のようです。
もっとも御主人様がそんな事をしていれば、すぐ悪戯をしてしまいますけれど。
「え、え、ええっと、ご飯取ってきます」
慌てたようにミーシアちゃんが外に出ていきますが、彼女に任せた方が良いでしょうね。斥候系の能力も上がって来たそうですし、敵をいち早く見つけて隠れるにしろ逃げて来るにしろ彼女一人の方が確実でしょうから。
「無理はせず気を付けるんですのよミーシア、多分冒険者の倒した魔物の死骸がそこらへんに落ちているはずですわ、今夜だけならそれで十分ですもの」
「は、はい、行ってきます」
戸が閉められてミーシアちゃんの姿が消えると、ハルさんがまたため息をつきます。
「はあ、昔から変わりませんわねあの子は、あれだけ能力が有りますのにまったく自信が持てなくて」
本当にハルさんの言うとおりですね。ミーシアちゃんは戦闘でも強いですし斥候としても優秀なのに、どうしてあんなに自分に自信がないんでしょうか。
「それにしても、サミューの狙い通り上手く行きましたわね。確かにここの『迷宮』ならわたくし達だけで来れますし、リョーも道を知っていますわ。それにここの地形でしたら、隠れるにしろ逃げるにしろ、少数で敵を迎え撃つにしろ、幾らでもやりようが有りますもの。立て籠もってリョーを待つには最適ですわね」
実は他に候補がほとんど無かっただけなのですが。
「ですが、それもハルさんの作戦あってです。そうで無ければここまで上手く行ったかは解らないですから」
「そんな事は、ありますけれど」
入り口の大広間の先で待ち伏せて、敵の第一陣が蝙蝠と戦っている所を『溶岩密封』と『水魔法』の組み合わせで一気に吹き飛ばすなんて。普通はやらないでしょう。
おかげで敵の第一陣に与えた被害は甚大で、態勢の立て直しに時間を要したでしょうし、その後は進攻も慎重になりました。
更に無数の死者が出た事で『迷宮核』に霊気が補充されたのか、魔物の数や種類が増えて、より進行速度が落ちましたから。
そこまで全部を計算して、待ち伏せを提案したハルさんの思い切りの良さには驚きました。
「それでもいつまで持つかしらね。それまでにリョーが来ればいいのですけれど」
「御主人様ですか」
確かに手紙を出しましたけれど、何時届くのかは解りませんし、それに御主人様御一人が来られただけで、これほどの状況がどうにかなるのでしょうか。
こういっては何ですが、御主人様の戦闘能力はハルさんやミーシアちゃんと比べて、それほど高いとは思えないのですが、『魔道具』の相性が悪い相手だと苦戦されていたみたいでしたし。
「ああ、そうでしたわね、サミューはアレを見ていませんでしたわね」
「あれ、ですか」
何の事でしょうか。
「ユニコーンの里が襲われた時の戦闘ですわ、わたくしやヤッカも多少手を出しましたけれど、ほとんどの敵をリョーが一人で殺してしまいましたもの」
そんな事が、それで御主人様はあの後、しばらく様子がおかしかったんですね。
「確かにリョーは戦闘能力自体はそれほど高くないですけれど、対人戦、と言うよりは密集戦での駆け引きが上手いんですわ。相手の混乱を誘ったり、同士討ちをさせるような戦い方をしますから。よくもまあ、戦いながらああも上手く立ち回れると思いますわ」
そう言えば、ゴーレムとの戦いでも、的確に倒し方を見つけていましたね。御主人様は頭を使って戦うのが得意なんでしょうね。
「まあ、わたくし達はリョーが来るまで、少しずつ撃退しながら逃げ続けるしかないんですけれど、もう一つ考える事が有りますわ。あの冒険者達の狙いが何なのかですわ」
狙いですか、と言ってもすでに分かっているのではないでしょうか。
「それは、わたし達を攫うことでしょう」
「わたくしが言いたいのはそうではありませんわ、わたくし達を攫ってそれからどうするつもりなのか、ですわ」
攫ってからですか。そう言えば、逃げている時に確か冒険者の一人が……
「シルマ家の者が手配したとは思えませんわ、こんな形でわたくしやミーシアを取り戻しましても、何の意味も無い事はすぐに解るはずですもの、となると……」
「多分狙いはわたしでしょう。馬車で逃げている時、わたしが矢で撃たれた後に仲間を殺した冒険者は、わたしがお金になると言っていましたから」
ですから、いざとなったらわたしが……
「それはわたくしも聞こえましたわ。だからと言って貴方が囮になるなどと言う話は認めませんわよ。今話し合うべきなのは、なぜあなたが狙われているかですもの、心当たりは有りませんの」
「心当たりですか」
わたしが幼い頃にお世話になっていた男爵様は父の友人でしたから、わたしを取り戻そうとされるかもしれないですが、これだけの事が出来る権力や財力は無いでしょう。
「あの貴族、『寒暑の岩山』に居た貴族ならどうですの、貴方に執着していたようですし、あ、ごめんなさい、答えたくないのでしたら、別にいいですわ」
「いえ、大丈夫です、ですがマイラス様は考えにくいと思います。あの方にとって女奴隷は使い捨てる物ですから。たとえ一時的に執着されても、他に目移りをすればすぐに忘れてしまうでしょうから。もしも襲ってくるのなら、あの『迷宮』で出会った直後にしてくるでしょう。わざわざこれだけ期間を空けるとは思えません」
ですが、わたしとしてはこれがマイラス様による物だった方が良かったかもしれないですね。
マイラス様がわたしにこれほど執着しているのなら、他に目を向ける恐れは少なくなりますから。あの町に居るのなら。
「それでしたら、一緒にいた赤毛の貴族はどうですの」
「レネル様はもっとあり得ません、マイラス様の所に居たわたしが生き残れたのはあの方のおかげですから」
あの方がわたし達奴隷にお金を恵んでくださっていたから、傷を治す薬や体力を付ける食べ物を買う事が出来ました。あれが無ければきっとわたしも死んでいたでしょう。
それにわたしの売却話を持って来て下さったのもレネル様です。マイラス様がわたしに飽き出し、わたし自身にも理由が有ったとはいえ、あの時に売られていなければ処分されていた事でしょうし、あの幸せな期間を過ごすこともできませんでした。
あの方が居たからこそわたしは……
「そう、ですの、でしたら一体、他には心当たりは有りませんの」
他ですと、もしかするとネーザル様やラリンゲ様、テック様なら、わたしを取り戻そうとされるかもしれませんが、あの方達ならこんな乱暴な事はしないでしょうし、その前にわたしや御主人様に接触されるはずです。
それに、わたしはもうあの方達とは無関係なんですから。今更取り戻そうとされるなんて、あり得ないでしょう。
おかしいですね、候補であの方達を考えるなんて、まるで期待しているみたいです。これも未練なのでしょうか、もう忘れたつもりだったんですけど。
それ以外ですと、わたしの隠しているスキルに気付いた誰かが襲ってきた可能性ですが、それだと相手が誰なのかうかがうのは難しいですし、そもそも、どうやって知られたのかが問題でしょう。
熟練度の高い『鑑定』でも見抜けないはずだと聞いていますし。
「ここまでの事になるような心当たりはないですね」
「そうですの、解りましたわ、ずいぶん話し込んでしまいましたわね」
そうですね、そろそろミーシアちゃんが帰って来るでしょうから、料理の用意をしておいた方が良いでしょうね。きっと、お腹を空かせているでしょうから。
アイテムボックスから鍋などを取り出そうとしたところで、外から大きな物音が響いてきます。
「なんですのこの音は、またですわ」
ハルさんの言うとおり、また大きな音が響き、しばらくしてから再度響いてきます。
「ミーシアに何かあったのかもしれませんわ、行きますわよサミュー」
「はい」
何事も無ければいいんですが。
やっと、忙しい時期が一段落しました、と言っても今週中はまだちょっとごたつくんですが……
H28年1月24日 誤字修正しました。




