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147 首飾り先生の奴隷制講座

今回は、ストーリーがほとんど動かない説明会です。

 人通りのほとんどない夕方の街道を馬に乗って走ってるけど、そろそろ暗くなってきたな。


(これ以上は無理じゃろう、馬も疲れておるし、お主の腕では夜間の早駆けは難しいじゃろう)


 そうだな、急いではいるけど、下手に無理をしてトーウやアラが落馬したら大変だもんな。


「トーウ、この先の水場で野営するぞ」


 確か、来る時に水場が有ったのを見たはずだから、そこなら馬にも水をやれるしね。


「わたくしでしたら、まだ大丈夫ですが」


 俺が急いでるのを知っているからか、トーウは俺が休もうとすると、自分に気を使ってペースを落としてるんじゃないかって心配するんだよね。


「ここまでくれば、明日の昼前には『蝙蝠の館』に着ける。そうなれば戦闘になる恐れがあるからな。ここで無理をして、体力が尽きたまま行っても助けにはならないからな」


 ほんとはすぐにでも助けに行きたいけど、数十人の冒険者がいる所に行くんだから万全の態勢じゃないと。俺はともかくアラはクタクタだろうから。


「ん、リャー、着いたの」


 馬が止まったのに気付いたのかな、今まで俺に掴まりながら寝てたアラが目を擦りながら見上げてくる。


「ああ、今日はここで休むからな」


 紐を解いて先に降りてから、アラを抱きかかえて降ろす。


 馬たちに水を飲ませてから、適当な立ち木に繋ぎ順番にブラシをかけていく。その間にトーウは手早く火を起こして夕食の用意を始める。


(それにしても、まさか冒険者の集団が他人の奴隷を奪おうとするとはのう)


(そんなに珍しい事なのか)


 ファンタジーの小説なんかだとたまにありそうな話だから、別に違和感は無かったんだけど。


(そうで無くば、お主が別行動を取ろうとした時に警告しておるわ。奴隷は財産とみなされる以上、攫えば盗賊扱いとなり事が公となれば御尋ね者じゃ。他人の奴隷を許可なく連れ回せば、捕縛されても文句は言えぬ。体が目当ての盗賊団等ならともかく、普通の冒険者が行うには割の合わぬ話じゃろうて)


(だがサミューが仲間になった時に、一人にしていると危ないと言ってただろう)


 それが有ったから、戦闘職じゃないサミューを『迷宮』に連れていく事になったってのに、自分の言った事を忘れてるんじゃないのかこいつは。


(当時のサミューは自衛手段がなかったからのう、あの容姿に惑わされた愚か者が暴走して一人でいる所を襲ったり、攫ってどこぞに閉じ込める恐れがあったのじゃ。本来ああいった種類の奴隷は、主の傍に常時置くのでなければ、護衛や管理者を付けたり、屋敷の奥に住まわせて外に出さぬ物でのう)


 そう言えば、あの時はサミューを宝石と同じだって言ってたもんな。


(じゃが戦闘奴隷などであれば、抵抗されて返り討ちにあう可能性もあれば、逃げられて役人へ訴え出られる場合も十分にありうる。普通の冒険者が手を出すには危険が大きいじゃろう。トチ狂った個人の犯行ならばともかく、集団が組織的に行うとは考えにくいの)


 それでも実際に、サミュー達が襲われてるのはどういうことだ。


(転売なんかの目的って事は無いのか、高ステータスの戦闘奴隷なら相当な価値になるんだろう)


 サミュー達は俺の『成長補正』の効果でかなり強く成っているから、実際にサミュー達から貰った手紙を見ると、他の冒険者なんかからスカウトまがいの事をされてたみたいだし。


(常識では考えにくいのう、『隷属の首輪』を外したり、登録内容を書き換えたりする事が出来るのは、通常では最後に登録された主のみじゃ。性奴隷ならば、指示を聞かずとも十分役に立つじゃろうが、戦闘奴隷では主となって言う事を聞かせられねば買っても価値がないどころか、戦闘中に裏切られかねぬ)


 てことは、俺を脅すなり買収するなりして書き換えをしないと無駄ってことだから、別行動中にこんな襲い方をするとは思えないって事か。


(もっとも、ひとつだけ例外が有るが、これは公的機関のみが行える儀式魔術での、行うには正規の手続きを踏まねばならぬ上に、厳格な審査が有るのでな。遺産相続か借金の差し押さえぐらいでしか行われぬ。それもしっかりと書類が調っておればの話じゃ)


 攫ってきた奴隷を無理やり自分の物にするってのは無理って事か、いやでも。


(公的機関って事は、貴族とかなら強引に書き換えができるんじゃないのか)


 サミューを欲しがっていたマイラスは子爵だし、ハルを取り戻したがってるシルマ家も地方貴族だ。


(お主が、誰を意識してそう考えたかは解るが、考えにくいのう。子爵領風情では術式の保有を認められては居らぬじゃろう。たとえ持って居ったとしても、不正に使ったと判明すれば子爵家の信用はガタ落ちとなる。奴隷を多く有しているのは、王族や貴族、豪商等じゃ、不正な手段で奴隷の所有権を書き換えていると噂が立てば、彼らの財産権を侵害しかねないと疑われても文句は言えぬ。また地方貴族でしかないシルマ家ごときでは、それすらできぬ。たとえハルを奪っても解放できぬのなら、次期当主の妹が奴隷であるという事実は変えられぬし、露見すれば再興の話も吹き飛ぼう)


 つまりは、シルマ家の連中はやりたくてもそもそも出来ないし。マイラス達はやれない事は無いかもしれないけど、リスクがデカすぎるからやらないだろうって事か。


 普通に考えるなら多少金を多めに出せば手に入る物を、わざわざハイリスクな方法で手に入れるバカは居ないだろうからね。


 いやでも、変態の考えは解らないか。まともな分別が有ればあんな追放騒ぎになんてなってないだろうし。いやそれとも『迷宮』で証拠隠滅しようとして失敗しただけなのかな。


 それに戦闘奴隷としてでなくて、女性としてマイラスが狙ってるとすればあり得えるんじゃないか。


 マイラス達にとってリスクのある行為は、奴隷の所有者の書き換えだから、攫ってサミュー達を嬲り者にするだけなら、書き換えの必要はないし、冒険者を使って攫うならバレにくいかもしれない。


 ただ身体が目的なら、書き換えなんてしなくても縛っておけば良い事だろうし。


 とは言え、マイラス達だけを疑うのは危ないかもしれないな、万が一他に犯人が居た時に対処できなくなるかもしれないし。


(他に可能性は考えられないか)


(そうじゃのう、あの娘達にそれほどの危険を冒すほどの価値があるとは思えぬからのう、可能性があるとすれば、ハルの持つ『溶岩密封』の呪文を聞き出したい魔法職や、あるいはお主に用件が有るのかもしれぬのう)


 そういえばハルに教えたあの魔法は結構貴重な呪文なんだっけ。でもなんで俺に用が有ってサミュー達を襲うんだ。


(例えば、三人を人質にしてトーウの身柄を要求する。あるいはお主が『勇者』だと気付いた者が何かさせたい事が有る、もしくは『迷宮踏破』で入手した物品等が狙いかもしれぬ、それとも、そこそこ名の売れて来た『虫下し』を倒して名を売ろうとする布石という事も考えられるの)


 う、なんかどれも有りそうな気がするな、特にトーウ狙いとか……


 でも俺の知識じゃ、これ以上の事は解らないしな。そもそも奴隷の主人の書き換えがそんなに大変だって事も今まで知らなかったし。もしかしたら俺の知らない事で何かヒントになる事が有るのかも……


 この際だから聞いてみるか。


(なあ、ラクナ、そもそも奴隷ってなんなんだ)


(奴隷の主とは思えぬ質問じゃのう)


 いや、そう言われたってさあ。なんとなく今まで読んだネット小説とかと状況が似てたから、そのままにしてたんだけど。


(まあ良い、説明して進ぜよう。奴隷の定義とは『隷属の首輪』をはめられて、金銭もしくは同等に価値がある物で取引され、登録された主に服従する者じゃ)


 ここら辺は、俺の考える奴隷と一緒だよね。


(公式な身分制度上では人では無く財物として扱われ、平民以下とされるが、実質的には主の社会的立場に依存する)


 ん、なんかおかしいよね、それじゃあ主人が偉ければ奴隷も偉いって事かな。


(単純な労力としての雑役夫や農奴等なら別じゃが、貴族や富豪が身の回りに置く奴隷の場合、容姿や能力にこだわりを持ち金を掛けると言う話をした事が有ったじゃろう)


 ああ、同じ見た目で揃えたり、逆に被らないようにしたりするって話だったっけ。


(これは、貴族にとって自らの財力や美意識を周囲に示すものである以上、奴隷を傷付けたり貶める行為はその主を侮辱したと捉えられるのじゃ)


 なるほどね、金持ちのコレクションとか高級車みたいな扱いって事かな。


(もちろん王宮などの公的な場ではそうではないが、大抵の場合、貴族の奴隷に対して平民はそれなりの敬意を払う物じゃ、とはいえあくまでも物としての扱い故、貴族などからは人としてはみなされぬ場合が多いがのう。故に高位の貴族が他者の奴隷を殺しても、その主との関係次第では謝罪と賠償程度で済む場合が多いのじゃ)


 うわあ、いいのか悪いのかわからない話だな。平民や地方貴族がやったら盗賊扱いだって話なのに。


(次に奴隷になる理由じゃが、まずは、奴隷の子として生まれた場合じゃな。この場合では、主が出生時に特別な手続きをしなければそのまま奴隷となる。主の御手付きによる庶子の場合などでは、まれに解放される場合があるのう)


 まあ、性奴隷なんかがあればそう言う場合もあるか。


(二つ目が戦争奴隷じゃな、戦場で敵を捕虜として捕えた後で身代金の要求をし、叶わねば奴隷として売るというものじゃが、元が貴族や騎士などの場合、実家が何とかして解放しようと買い取った主に圧力をかけてくる場合がある故、面倒が多いのう)


 まあ、シルマ家を見ればなんとなくわかるな。


(次が身売りじゃな、これは親が子を売る場合も有れば、借金の返済が出来ずに奴隷にさせられる場合もある)


(ラクナ、そう言った場合で家族が借金を返せば、奴隷は元の身分に戻れるのか)


 そう言う設定の小説も有ったよね。


(ふむ、お主とラッテル家のように特別な契約を交わしているなら別じゃが、通常はそのまま奴隷商へ売られ、その額が借金の返済に充てられ、返済しきって差額が出た場合は二割が手数料に取られ、残りが家族や本人に渡される。普通に売った場合は手数料はかからず本人と家族で分配されるの。家族が奴隷となった者を取り戻したければ、その時の主と交渉して買い戻すしかないの)


 うーん、感じ的には不動産の競売みたいなものかな。考えてみれば、ハルが思いっきりこのケースなんだから、わざわざ聞かなくても解った話だったね。


 あれ、でも今変なこと言わなかったか。


(なあ、奴隷は財産の私有が出来ないはずじゃなかったか、家族はともかく本人に金を渡しても仕方ないだろう)


(奴隷商に支払うのじゃ、奴隷は持っているだけで食費などの金が掛る為、奴隷商はよほどの事が無ければ早めに売ろうとする。奴隷商に金を払う事で店頭に出されるのを遅らせ、更にその間に教育を受ける事が出来るのじゃ。読み書き計算、事務仕事、家事、歌舞音曲、行儀作法、床技、場合によっては戦闘技能、そういった物を身に着けておけば、自らの奴隷としての価値を高めて、売られた先での待遇を高めることも出来よう)


 えっと、就職に向けて資格を取るような感じなのかな。


(この制度を利用して、流民や貧民などが自分自身を奴隷として売る事が有るが、この世界ではそれを弱者救済の一つとみなしておる。もっとも奴隷の需要が無かったり、商品価値がないと判断されれば買い取りを拒否されるがのう)


 うーん、スラムなんかで飢えるよりは、資格なんかを身に着けて奴隷になった方がマシなのかな、なんとも言えないとこだけど。


(四つ目が、犯罪奴隷じゃのう、盗賊などの重罪犯への刑罰として奴隷にして売り、その代金を捕えた者に支払う事で、治安維持に役立てるのじゃ。とは言え盗賊上りではまともな買い手はつかぬので、大抵は軍隊や鉱山に買い叩かれて使い潰されるがの、また更に罪が重い者は経験値として売られる)


 ん、意味が解らないんだが、どういう事だろう。


(人であっても殺せば経験値が入るじゃろう、なので処刑する首切り役の権利を売るのじゃ。高レベルな犯罪者の場合、危険なく多くの経験値が入る故に貴族や騎士の子弟が高値で買うらしいぞ)


 あ、相変わらずこの世界はブラックと言うかハードと言うか……


(今回の場合ならば、サミュー達を襲っている者達を捕えれば犯罪奴隷として売れるじゃろうな)


 うん、マジか、でもいいのかな。


(確か『迷宮内』は基本治外法権で犯罪は取り締まれないんじゃなかったか)


 なんかカミヤさんにそんなこと言われたような気がするんだけど。


(確かに基本はそうじゃが、よほどの事をした御尋ね者や、『迷宮』の安定管理や地域経済に影響しかねぬほどの犯罪を行った者、『活性化』しそうなほど大量に犠牲者が出た場合などでは、軍や騎士団が捕縛に当たる。実際マイラスは『迷宮』での罪で追放になったであろう。また個人が捕縛した場合は、明確な証拠さえあればそのまま裁かれる)


 明確な証拠って無理だろうそれ、『迷宮』の中じゃ証人なんていないだろうし、物的証拠なんてのも無理だよね。その気になれば人相の悪い冒険者を捕まえて、盗賊に襲われたから捕まえたとか言えそうだし。


(お主には奴隷が居るからの、あの者達の証言ならば明確な証拠となろう)


 普通、奴隷の証言って採用されないってのがお約束じゃないのかな。こういう場合だと身分が高い方が信用があるとかってなると思うけど。


(『隷属の首輪』に縛られている奴隷ほど嘘の吐けぬ者は居らぬからの。公的な場で証言させる場合には、審問官は主にこう命じさせるのじゃ『たとえ主の不利となろうとも、汝がその目で見、その耳で聞いた事実のみを答えよ。どのような理由が有ろうとも偽りを述べる事を禁ずる、汝が我が命に背き偽りを申せばその首輪が締まり、汝のみだけでなく我もが偽証の罰を受ける事を忘るるな』とな)


 ああ、これだと嘘は吐けないよね。命令で主を庇う事も含めた嘘を禁じてるし、更に何かあれば主が罰を受けるってことは、主を傷付けないって言う部分にも該当するもんね。主の為に何かしようとするなら正直に話すしかないって状況だから。


 万が一嘘を吐いても、首輪が締まるからすぐにわかるもんね。


(この状況でも、奴隷は主を貶める為にあえてウソを吐く場合がある為、こう命じた後に取り調べ役は『事実のみを述べる意思が有るか』、『主を貶める為にあえて偽りを述べる意思がないか』を問いただし、首輪が反応しないことを確認したうえで、査問を行うのじゃ)


 うん、これは確かに明確な証拠だわ、命令でガチガチに縛って嘘を吐けなくしてるんだからさ。奴隷自身が何らかの形でだまされていない限りは、間違いようがないよね。


(こう言った方法があるのでな、一部の組織などでは重要な施設などに奴隷を隠れさせておいて、絶対に動かない様に命じ、何か有った時の証人として使う場合等があるのじゃ)


 それって監視カメラの代わりにしてるって事か、うーんこの世界の奴隷制は奥が深いと言うべきかなんというべきか。


(もう夕食の用意が出来た様じゃ、今日はこの位にしておこうかのう。お主も明日に備えて休んでおいた方が良いじゃろう)


前回のマイラスのセリフをヤバい方向に少し修正しました。


H28年1月16日 誤字修正しました。

H28年1月24日 追加で誤字修正。

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