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142 商売人

「それで商談ってのはなんだ」


 まあ大体想像はつくけどさ、とりあえずサーレンさんには後で行くって言付けをお願いしたから、ここの話が終わったらパルスの所に行かなきゃ、ああ、考えるとちょっと気が重いな、パルスと話すと疲れる時があるから。


「お分かりでございましょう。ボスの死骸の事です、よろしければ私どもに売っては頂けませんか、もちろん十分なお礼は支払います。この『拠点』に居る商人・職人で出し合えばそれなりの額は用意できます」


 やっぱりその件だよね。


「ああ、あれか、街に持って行けばそれなりの値段になると思うが」


 まあ、普通に考えれば、ここで売るのがベターなんだろうけどさ、それでも吊り上げ交渉は出来るだけしないとね。最近はこの手の交渉は負けてばっかりだから、たまには上手くやらないと。


「そうは言いましても、ボスを倒してから何日が経ちましたか、また、ここから街まで何日かかりますか。魔物肉は足が早い物、腐っても鯛とは言いますが、果たして腐って食せない肉にどの程度の価値が付きますか」


 あー、やっぱりそこを突いて来るか、そうなんだよね、生ものだからね。多少は分量のサバを読まれて損をしてでも、腐る前に全部売り捌いた方が良いのかな。いやいや、ここは強気で売りに行かないと、第一こっちはめったに出ない貴重品を持ってるんだ売り手市場なんだから攻めないと。


「切り分けて干せばそれなりに持つでしょうが、あの巨体を一人で処理するとなれば、どれだけ日数がかかる事か、そうなると……」


 そりゃあ処理しきる前に腐っちゃうよね。でもまあそう言って仕掛けてくるなら。


「なら肉だけを売るとしよう、殻や顎はこちらで貰う、そのあたりの部位は腐る物じゃないからな」


 さてどう出てくるか。


「ようございますよ。あれほどの肉ならそれだけでも十分に稼げますし、逆に私どもの腕ではあんな素材を加工は出来ませんから、買い取れと言われても困るところでした」


 あれ、いやにあっさりだな、ここは全部欲しければ納得のいく値段にしろって行くところだったのに。


「なんでしたら、フロアボスの大型オーガの剥ぎ取りも一緒にしましょうか、流石に人型である鬼の肉は食用に出来ませんが、皮や角は装備品の強化に使えるでしょう。かと言って、あれほどの上物は私達では加工できませんので、どうですか私達に肉を譲っていただけるのなら、両方の剥ぎ取りを無料で致しますが」


 ぐ、向こうにカードが有ったか。剥ぎ取りをして貰えるのはありがたいけど、これは不味いな、で、でも取りあえず値段を確認した方が良いかな。


「それで、幾らになるんだ」


「そうですねこの量ですし金貨三百でどうでしょうか」


 三百枚か確かに大金だけど、最初から出してくるって事はまだ行けるよね。


「話にならないな、フロアボスの『青毒百足』ですら九百五十枚の価値が付いたんだぞ、同じくらいの値段でもいいんじゃないか」


「いえいえ、『鬼族の街』と『地虫窟』では『迷宮』としての格が違いますし。それにあの値段は殻や爪、牙など全部込みでしたが、今回は肉のみ、また鮮度も違うでしょう。『青毒百足』の時は一泊で戻られたはずですが、今回は行き帰りで十日近くかかっているでしょう。三百でご不満でしたら三百五十枚でどうでしょうか」


 く、あの時の詳細もリサーチ済みか。なら……


「この魔物は、珍しい種類だと聞いている、この先また出て来るかどうかも分からない貴重品だ。その分の価値は付かないのか八百枚でどうだ」


 ラクナの話だと、迷宮に居たトンボの『型』と、魔物や『魔道具』の『型』が変な具合に混ざって出来た新種みたいだから、希少価値だけは高いはずだ。


「だからですよ、見た事も聞いた事も無い素材ですので、ただ食べるくらいしか利用価値も解らないんです。私達としても、肉にどの程度の効果があるかはっきり解らないのに大金を払うと言うのは、なかなかの賭けなんですよ。とは言え、そのような対策法すら解らない、未知の魔物を倒された武勇に敬意を払わせていただいて、三百八十では」


 そう言えば、採集物なんかの価値は、それを使って作れる物が幾らで売れるかで決まるんだよね。てことはこれはまだ定価が確定してないのも同じなのか。


「そうは言っても、『迷宮ボス』だ、強さは保証するし珍しいスキルも持っていた、食べてそれなりの経験値になる事は保証するぞ、七百」


 こんなんじゃ、吊り上げるネタとしては弱いだろうな。


「では、『迷宮踏破』の御祝儀価格という事で、四百枚丁度でどうでしょうか、これ以上は私達も難しいかと」


 まあ、純粋な値上げ交渉じゃここら辺が限界か、ならそろそろこっちから行くか。


「もう少し上げてくれるなら、これらを定価ですべて売るが」


 

『アイテムボックス』から取り出した物を無造作にテーブルの上に並べていく。


「オーガの角ですか、この『拠点』では珍しくも有りませんが、いや、これはまさか、これも、こっちも」


 流石は商売人だな直ぐに気付いたか、まあ違いは結構あるから、知ってれば気付くのは難しくないんだろうけど。


 どんどん商人の前に変異種の角を積んでいく、エル・シルマと折半しても、倒した数が数だし奥に行けば変異種の比率も高かったからね。


「さっき小耳に挟んだんだが、需要が増えたのにだいぶ供給が減って来てるらしいな」


 俺だって何の情報収集もしないで商談に来るようなへまはしないよ。短時間だったけど、他の冒険者とか手の空いてそうな職人と雑談して、俺が居なかった期間の大きな話題について調査してからここに来たから。


「メイジやヒーラーの角を加工すれば、低威力の魔法石と近い効果が出るらしいな。それに、ポイズンの角を粉末にすると短時間だが軽い『毒耐性』の薬になるそうだが」


 どれもいい効果だよね、魔法石は安くても金貨数枚になるもんね。


 薬の方はそれ以上の価値があるよ、効果を考えれば毒のある敵と戦うのにもいいし、毒殺を怖がるような立場の人間なら大量購入したいだろうな。


 トーウの実家が狙われた原因を考えれば、貴族や王族がどれだけ毒を警戒してるかが解るってものだから。たぶん加工した薬の末端価格は天井知らずに跳ね上がるだろうし。


 そういった事が解って一気に角の買取価格が高騰したって言うのに、肝心のオーガ達はアンデッドを恐れて『迷宮中央部』に逃げ込んで、殆ど狩れなくなったところを、俺達が倒しまくっちゃったからな。


「どうする、この『迷宮』は『鎮静化』したばかりだ、新しい個体が『型』から生まれるのはかなり先、それもごく稀だろうな。別に腐る物でもないし価格がもっと跳ね上がるまで寝かしておいてもいいんだが」


 角の山に固定されていた商人の視線が持ち上がって、俺の顔の位置で止まり、また角に落とされる。


「ほ、ほんとうに、これを現在の価格で売ってくださるんですか、全部ですか」


「そちら次第だがな」


 余裕の笑みに見えるように口元を歪めて答える。まあ本音は、すぐに売るつもりなんだけどね。


 変異種の角を加工する方法は、この領地の職人達が協力し合って見つけた物だし、大金を産むことが分かってる技術を他に漏らすはずは無いだろうからさ。


 しかも、他の『迷宮』で変異種オーガが出ない限りは、なんとかして情報を入手しても、この地域以外では使いようの無い知識だから、たとえ漏れたとしてもわざわざ習得する職人は殆どいないだろうし。


 つまりは、他の地方じゃ変異種の角は大した価値にはならないから、値上がりを期待するなら侯爵領の近くに留まって、市場の動向を見守るか、定期的にこの地方を訪れるかしなきゃならないんだけど。


 そうなると、サミュー達との合流が更に遅れるか、トラブルに成るのを覚悟してハルをシルマ家の近くに連れてくるかになるもんね。それに、この地域を中心にして行動することになったら行ける範囲も制限されるし。


 それならさっさと売っちゃった方がすっきりするよね。


「解りました、ボスの肉は五百で買いましょう。角は多少色を付けさせていただいてメイジとヒーラーは一体分当たり金貨三枚、ポイズンは一体分につき六枚で買いましょう」


 悪くない話だね。肉だけで五百ならいい稼ぎだし、角だけでも六百枚くらいにはなる。何せジェネラルが大量に変異種の部下を抱えてたからな。


「もう一声くれるなら、もっといい商品を出すが」


「こ、これ以上に良い物と言いますとまさか」


 よしよし、完全にこっちのペースになったな。


「この『拠点』の外に生きた変異種が数十体眠らせてある、これが目録だ」


 トーウのスキルで眠らせたら、僧兵団が見張りを買って出てくれたからね。安心して置いとけるよ。


「こ、こんなに、生け捕りに、買います、ぜひ、ぜひ買わせて下さい」


 よし、俺の勝ちだ。


「なら、ボスの肉の買い取りは」


「よろしいでしょう。肉は金貨六百枚、変異種は五百枚で買いましょう。角は今計算させていただきましたが全部で六百数十枚。目録にある鉄や銅の武器やその他の採集品が約四百枚程度ですから全部合わせて端数を切り上げて二千二百枚ピッタシ、これがこちらの精一杯です。これでダメでしたら諦めましょう」


 まっすぐに見てくる商人の眼をしばらく見つめ返してから頷く。うん男同士で見つめ合ってるってちょっとね。


「いいだろう、それですべて譲ろう。今日は良い取引が出来た」


「正直に言わせて頂ければ、肉の値段は加工費も入れれば少ししか儲けになりませんが、その分は角や変異種で稼がせてもらいましょう。これだけ有れば相当な数の商品が作れますし、放出量を調整すればいい儲けになるでしょう。それに、生きた個体が居れば定期的に角が取れます。あれは自然に伸びるらしいですし、上手くすれば繁殖も狙えますから。今回はなかなか緊張しましたが、最終的にはお互いに利益のある、気持ちのいい取引をさせて頂きました」


 商談成立を祝ってか、商人が差し出してきた手を握ると、感極まったのか両手で思いっきり握り返して来たよ。うん、やっぱり商談ってのはWINWINが一番いいよね。


「そうだ、今回の『ボス攻略』では俺とシルマ家で倒した魔物の採取部位を折半したんだが」


 シルマ家が持ってる分の角をどうするかで、価格が大きく動くかもしれないから、教えておいた方が良いよね。


「それは良い情報を頂きました、情報料は必要ですか」


「いやいい、もし加工済みの角が残ってるなら、幾つか売って欲しいが」


 ハルは、魔法石が好きだし、サミューも魔法の練習してるし、ヒーラーの角ならミーシアにも効果があるだろう。お土産にはちょうどいいよね。


「それでしたら、無料で幾つかお譲りしましょう」


 うん、ほんと今回はお互いにいい取引が出来たみたいだね。


話が進みませんが、もう1、2話我慢下さい。


H26年11月11日 誤字修正

H27年1月18日 商人の計算を修正

H28年1月13日 鉤カッコ、一部表現を追加しました。

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