140 迷宮核の前で
ちょっとピンクです。
伸ばされた指先が『迷宮核』の滑らかな表面に触れた直後に、なじみとなった衝撃が全身に広がる。
「くううう」
解ってたことだけど、やっぱりキツイなこれ。
「はあ、はあ、はあ」
「リャー、大丈夫なの」
くっ、もしかして数秒くらい気を失ってたのかな、固まったまま立ち尽くしてた俺へ心配そうに声をかけて来たアラに、意識して笑顔を浮かべながら振り返る。
「ああ、大丈夫だ、『迷宮』を『鎮静化』するのは久しぶりだから、ちょっと感動してな」
「これで本当に『鎮静化』されたのですね。旦那様、御武勲おめでとうございます」
「リャー、おつかれさまー」
嬉しそうに声をかけて来る二人に手を振ってから『迷宮核』に向き直り、その下を覗く。
「さて、どんな物が出たかな」
うん、『魔道具』っぽいのがいくつかあるな、一個づつチェックしていくか。
「これは、イヤリングか」
先端に小さな赤い石が付いたイヤリングが一つ、どれどれ。
命の耳飾り LV1
付加効果 強再生
(どうやら、お主の『超再生』の劣化版が出た様じゃのう。MPを消費し一定の速度で傷を治す効果じゃが、回復速度は『超再生』に比べると遅い上に、『異常状態』は治せない場合が有るようじゃな。とは言え永続的な自動回復効果となれば、かなり役に立つじゃろう。また『飢え』や『脱水』、『疲労』等の軽度な体調不良などには無条件で有効なようじゃから、これだけでも強行軍などの際には便利じゃろうな)
おお、一発目からいい装備品が出たよ、これは絶対売らないぞ、これが有れば俺以外のパーティーメンバーの安全度が上がるし、『癒しの短剣』みたいな無茶をしなくて済むし。
次は何かな。
「もう一個の、イヤリングか」
こっちは、黄色い石か。
魔力泉の耳飾り
付加効果 MP大幅回復 食時回復(MP)
(フム、こちらはお主と変異種オーガのスキルが影響したようじゃの、付けているだけで消費したMPが時間とともに回復する効果と、肉に係わらず食事をする事で回復量が上がる効果じゃの)
これは、魔法スキル持ちが多いうちのパーティーには、ベストな装備品じゃないか、ハルはほぼ魔法オンリーだからMPが無くなるとピンチだし。アラは強力な魔法を使うけど最大MPが少ないし。ミーシアしか回復役が居ないから、負傷者がたくさん出た時はMPが間に合わなくなりそうだもんね。さすがにうちの子達に『癒しの短剣』を使うのは最後の手段にしたいし。
俺だって『超再生』を連チャンしたら、すぐにMPが危なくなるし。いや考えてみれば、この二つの耳飾りをセットで装備すれば、『強再生』で消費したMPをそのまま『魔力泉の耳飾り』が回復してくれるから、回復なしで突っ込めるもんな。
ミムズみたいな突撃バカにはちょうど良さそうだな、あいつは『耐性系』のスキルを幾つも持ってるせいか、危険を無視して突っ込むからな。そりゃ『狂槍士』なんてバーサーカー職持ってるんじゃ、仕方ないかもしれないけどさ。
まあ、どれだけミムズにちょうど良くても、これは売らないけどね。さすがにここまで使える装備品は手放せないよね。
そう言えばサミューも、『狂戦士』の職に就けそうなんだっけ。今までは危険だろうからそっち系への転職は除外してたんだけど、ミムズを見てれば最近はそこまで暴走しなくなってきてるし、まるっきり判断力が無くなる訳じゃないなら、身体ステータスの増加率も高いらしいから、この先の選択肢に入れてもいいのかもしれないな。
まあ、それはだいぶ先の事だろうから、今は良いか。
「他にめぼしいのは長い針の束ぐらいかな」
まあ針って言うよりは、バーベキューの串を太くした感じのが二十本くらいか。
薬殺長針 LV1×26
付加効果 耐性無視 解毒抵抗 効果増大
これは間違いなく『暗殺者の毒殺刀』の効果だろうね。でも肝心の毒の効果がないんだけど。
(ふむ、おそらくは、直接毒を塗り付けて使うのじゃろうな。状況に応じて使う毒を使い分けられるが、薬が無ければただの針なため、ある程度の量と種類を用意せねばなるまいの)
あ、そっか、あれでも、トーウなら毒を出し放題じゃないかな、てことは凄く相性のいい『魔道具』になるんじゃ。
うん、これは良い物を拾ったぞ、よしよし。
うーん、後は全部宝石とかの換金アイテムだな、ちょっとした『付与効果』が付いてるけど、どれも大したことないから『アイテムボックス』で持ち運べるのがメリットみたいなものか。
(これだけの量が有れば、それなりの値段になるじゃろうな)
いやー、今回も稼がせてもらいました。
回収した物を全部『アイテムボックス』にしまってから、立ち上がってアラ達にふり返る。
「終わったぞ、これでこの『迷宮』は『鎮静化』された」
「おめでとうございます旦那様、それでは失礼いたします」
ん、トーウがゆっくりと近づいて来たけどどうしたんだろ、あれ、いつの間に装備品を外してたんだ、爪や防具なんかを外して隅に上着と一緒に畳んで置いてあるし。
て、なんで暑くも無いのに上着を脱いでるんだ、しかも、アラはいつのまにか寝てて、トーウの装備品の近くで横になってるし、うん、疲れちゃったのかな、いやいやそうじゃない、トーウはどうしたんだ。
「すー、はー」
深呼吸をした後でトーウの白くて細い指がシャツのボタンに、おいおいおいおいおいおい、なんで脱ごうとしてるんだよ。
「ト、トーウどうしたんだ」
ちょっとどもった俺の質問に、トーウは何かの覚悟を決めたような目で見上げてくる。
「『迷宮踏破』という偉業の祝いに、わたくしのような貧相な体では不適当とは存じますが、どうぞ御随意のままに……」
い、一体何のことを言ってるんだトーウは、てかドンドン脱ぎだしてるよ、このままじゃまずいって。
「トーウ何が言いたいのか解らないのだが」
そう言ってる間もどんどんトーウは服を脱ぎだして、最近うっすらと肉が付いてきた胸元が……
「はい、わたくしが旦那様の物となりご寵愛を戴いた翌日のことですが」
お、俺の物になった、相変わらず凄い言い方をするなこのお嬢さんは。
「旦那様は、なまぐさと酒類は取らず、本来は女禁もしてるので、わたくしの相手は昨日の一回だけ、とおっしゃられました」
そ、そうだよね、俺は『禁欲』しないとダメだって言ってあるもんね、なのになんでトーウはこんな事してるの。
「古い武門の家柄や流派では、大きな戦等を目前に控えた時期には願を掛けられて、色や酒類を遠ざけられると」
い、色ってあれだよね、性欲って事だよね。
(ふむ、確かにゲンを担いだり、縁起を気にする者は『勇者の従者』でも過去には居ったし、大きな『迷宮攻略』の前ではそういった行動をとっておったのう)
ま、まあ、日本でも聞いた事が有るからな。ミサンガなんかもそういう物だし、受け持ってるプロジェクトが終わるまでは禁煙とか禁酒、パチンコ断ちとかやる人もいたな。
トーウも俺がそんな事をやってると思ってたのか、でもなんでいきなり脱ぎだしたんだ。うわ、もう下着しか残ってないよ。
「そう言った方々は、大願成就の暁には、祝いの意味も込められて、それまで我慢なされていた事を、そ、その、一夜に、は、吐き出されると」
つまりはあれか、俺が我慢していた分をここでトーウにぶつけろって言いたいのか。そ、そんな事が出来る訳……
「あの夜からすでに一月近く経とうとしております、その間ずっと我慢なされていたのでは、御身体にも毒でしょうし。どうぞわたくしの事などお気になさらず、旦那様の御随意に」
こ、こんなスレンダー美少女が、下着姿でウェルカムだと。
う、そんな上気した顔で下から覗きこんで来るとか反則だろう。い、今下着の間からちらっと見えたピンク色の何かは、ひょっとして……
も、もう、これは仕方ないかもしれないよね。据え膳食わぬは男の恥って昔から言うし、こんな美少女とのチャンスなんて、一生に一度あればラッキーって話だよね。
うん、少なくとも日本じゃ絶対にこんな事は……
「お、おおおお」
慌てて『軽速』を発動させて後方に跳び、そのまま『迷宮核』の下に有る浅い泉に頭から跳びこむ。
「だ、旦那様、一体どうなされたのですか」
あ、あぶねえ、何考えてるんだよ俺は相手はトーウだぞ、14歳だぞ、日本で言えば中学生、JC、厨二だぞ、手なんて出そうものなら、お巡りさんあいつですと指差されて即タイーホで、翌日のニュースで十数秒くらい名前と会社名が流れて、新聞も地方版あたりに数行載って、会社中抗議の電話が鳴りまくって、取引先からも苦情が来て、下手すりゃ進みかけてた契約も白紙。
やった人間は普通ならそのまま懲戒免職か、運が良ければ当日付で依願退職、でもって裁判の時は『都内在住の無職、坂木良被告(37)』って感じになるんだぞ。
そんな年齢の相手に手を出せる訳ないだろうが、そもそも俺には『禁欲』が有るって言うのに。
なにを一瞬でもクラッと来てるんだよ俺はバカか、あれだなきっと、もう『禁欲』生活も半年以上になるし、ここ最近は鬼だゾンビだ決闘だって命の危険を感じまくってストレスや疲労も溜まってたし、『大規模討伐』の間はテントや野営生活でアラやトーウ、ミムズなんかの目が有ったから、なかなか自己発散が出来なかったもんな。
後はあれだな、サミューと別行動をしてたから、誰かに誘惑されるような事態がここ二ヶ月はほとんど無くて、最近は油断してたってのも有るかもしれないから。
よし、落ち着いた。
水の中から立ち上がって、一度深呼吸してからトーウに向き直る。目線は顔だけに固定だ、そっから下には絶対に落とさないぞ。
「旦那様、あの……」
「ほ、ほら、ここにはアラも居る事だしな」
うん、これが一番有効な言い訳だよね。
「それならば問題はございません、アラ様には眠っていただきましたので」
ね、眠って、まさかアラが寝ているのは、疲れたからじゃなくてトーウが……
(おい、ラクナ、奴隷のトーウが何でアラに『眠毒』を使えるんだ、おかしいだろう)
確か奴隷の禁止事項には『主の敵以外を許可なく殺傷してはならない』ってあったよね。
(おそらくじゃが、アラが見ている前で事を致した場合のアラに対する教育面や精神衛生上の害の方が、ただ眠らせるだけの『眠毒』の害よりも大きい、そう判断したのじゃろうな)
まあ確かに、あんな小さい子の前で変な事する訳には行かないだろうけど。
(あるいはアラが居ては、お主がここで我慢し体を壊すと心配したのではあるまいか。以前言ったであろう、奴隷の禁止事項は奴隷が心から『命令に反したりした方が結果的に主の為になると判断すれば懲罰を発動させない』そう言った柔軟性が有ると。他者への危害にも、それが主の為ならば同じようにある程度の裁量が出来る場合が有るのじゃ)
そ、そう言えば、サミュー達を買ったばかりの頃にそんな事を言われたような気がするな。
「御心配はいりません、少量の『眠毒』を水に混ぜただけですので傷も有りませんし、アラ様の御身体に眠気以外に毒の影響は有りません、声を掛ければすぐにお起きになられるはずです」
つまりは、アラをダシにするのは無理ってことか、そ、それなら。
「ほ、ほら『鎮静化』したとは言え、この『迷宮』にはまだ大量の鬼がいるだろうし、アンデッドもうろついている。そこを何日もかけて『拠点』に戻り、更に街まで撤収するんだ。ここで気を抜く訳には行かないだろう」
ね、ね、『家に帰るまでが遠足』ってよく言うでしょう。
「そうでございますね『勝って兜の緒を締めよ』や『九十を半ばとす』と言った言葉もございますから。旦那様の油断を戒めるお気持ちを察せず、身勝手な真似を致し、まことに、まことに……かっ」
ん、あれなんか今変な声が漏れ、って、不味い首輪が締まり出してるよ。トーウの顔色が赤くなってきて。
(どうやら、お主の油断を誘い危険に晒しかねない事態を招こうとした、そう考えた様じゃのう。罪悪感を首輪が感じ取ったのじゃろうな)
「トーウ、別に怒ってはいない、トーウの気持ちはありがたいくらいだからな、だから気にするな」
よ、よし、首輪は元に戻り出したな、あれ、まだ顔が赤いままだな。
「旦那様の御言葉、わたくしごときにはもったいのうございます」
と、とりあえず、アラを起こしてミムズ達と合流だよね。
(どうでも良いが、問題を先送りにしただけじゃと、お主は気付いておるかのう)
ふう、久々にお色気が書けた。
H28年1月1日 誤字修正しました。




