138 トンボ落し
後書きで、お知らせがあります。
「リャーのばかー、痛いのめーなの、リャーが怪我しちゃめーなんだから、なのに、なのにまた、リャーは痛い事して、めーなんだから」
何とかトンボを振り切って通路に戻ったけど、いきなりアラが泣いて飛びついて来ちゃった。うーん今回もアラが見てる前で腕を切り落としたりしちゃったもんな。
「ごめんなアラ、でももう痛くないから、大丈夫だからな」
左手でアラを抱き上げて背中を軽く叩いてあげる。
「ほんりょ、ほんりょにりゃーいたくないの」
あ、このちょっと舌ったらずな感じ懐かしいな。
「ああ、もちろんだ、ほらっこうやってアラを抱っこしても全然大丈夫だろ」
「……うん」
お、泣き止んでくれた、アラは泣いてても可愛いけど、やっぱり笑ってるのが一番だもんね。
「うん、あ、ごめんなさいリャー、ほんとはアラが弓でトンボさんをやっつけて、リャーを守らなきゃめーなのに。なのにリャーをめーって……」
あ、やっと泣き止んだのに、また涙が瞳に溜まり出してる。ま、まずい。
「アラ、気にしなくていい、ほら俺はこうやってぴんぴんしてるんだからさ」
(まったく、過保護な事じゃのう)
ほっとけ、うん、何とか泣き出さずに済んだかな。
「旦那様、本当に大丈夫なのですか」
トーウも心配そうな表情をしてるけど、もしかしてアラに気を使って今まで声をかけてこなかったのかな。
「ああ大丈夫だ、もう腕は完全に繋がってるし痛みも無い」
「もうでございますか、いくら自己回復系のスキルが有りましても、魔法薬も回復魔法もない状態で、あれほどの傷が……」
やべ、なんかディフィーさんが怪しがってるよ。
「俺のスキル構成は少し特殊なんだよ」
うん、前もこんなこと言った気がするけど、嘘は言ってないぞ嘘は『魔法系』と『闘気術』のスキルを一緒に持ってるとか俺以外には居ないと思うから。
「特殊、そうですかもしよければスキル名を……」
「ディフィー、それは無礼であろう。自らの手腕を頼みとしている相手に対して、手の内を晒せなどと」
うん、この流れも前に有った気がするけど、とりあえずディフィーさんは俺の『超回復』を『勇者の武具』の効果じゃなくて、俺独特のスキルだって勘違いしてくれてるみたいだし。
(常識外に高い効果がある『魔道具』となれば、確かに『勇者』の可能性を疑われるじゃろうし、最悪それを奪おうと狙われる恐れもあるじゃろうしな。とはいえお主も人をだますのが上手いのう)
なにを人聞きが悪いこと言ってるんだよこの首飾りは。
(この件に関して嘘はひとつも吐いて無いぞ、ただ言わなくてもいい事を言ってないだけだ)
その言っていない部分を想像力で補填するのは、向こうの勝手だからね。事実と違っていても文句を言われる筋合いは無い、はずだよね。
うん、日本でこんな営業の仕方をメインにやってたら、悪徳業者って言われちゃうかもしれないね。
「失礼いたしましたリョー殿、それでこれからどうなさるのですか」
軽く頭を下げたディフィーさんがそのまま聞いて来るけど、他の連中もそれを聴きたかったのか、こっちに視線を向けてくる。
「ああ、さっきの戦闘で解ったんだが、奴には魔法攻撃がほとんど効かないが、体の表面や周りを固形物で固めれば、動きを止められそうなんだ」
「それは冷却系の魔法であの魔物を凍りつかせるという事か」
お、ミムズが予想外に物わかりが良いぞ、今の説明で何を狙ってるのか解るなんて。
「そうだ、今までも鬼との戦いで似たような事をしてきただろう」
今までに同じやり方で成功経験が有るって言うのは、自信を付けるからミスをしにくいし、提案に対して周りも納得しやすいからね。
「ふむ、確かに今まで上手く行っていたが、一つ問題が有るのではないか」
「どういうことだ」
別に誰かを見捨てるとか、犠牲にするとかいう内容じゃないし、消極案でもないから、ミムズが反論して来るとは思わなかったんだけど。
「僧兵団の御坊等は魔法職ではないはず、それはクレ侯爵騎士団の諸卿も同じはず。となると後はリョー殿の『魔道具』か、自分とアラ殿の魔法になる、ディフィーは水系統しか使えぬからな」
おお、ミムズがきちんと現状を把握して発言してるよ、一体どうしたんだ今までの戦闘で頭でも打ったのか。
「自分の攻撃魔法では、あのように速く動く相手に当てるのは難しい上に、凍りつかせられるのはおそらく脚が一本と言ったところだろう。おそらくリョー殿の『魔道具』もそれは同じであろう。それともアラ殿にはあの巨体を凍りつかせる魔法が有るのか」
難しいだろうな、アラの使える冷却系で一番強力なのは『吹雪』だけど、あれは氷じゃなくて雪で覆うんだから動きを止める効果は氷ほど高く無さそうだもんな、『青毒百足』の時に効果が有ったのは体温を下げれたからだろうけど、魔法防御が高い相手に効果が有るかは微妙だし。もう一つの『氷陣』は一定範囲に氷の弾をばらまいて相手にぶつける魔法だから、凍りつかせる効果は低いし。
「いや、アラの魔法では難しいだろうな」
「ならば、シルマ卿の御一党に来てもらうのか」
(ふむ、確かにそれならば確率は高くなるじゃろうな、じゃがそうなれば……)
そんなつもりは無いんだけどな、ん、ラッドも何か言いたそうだな。
「ミムズ卿、御言葉ですが、それでは後背の守りが手薄になりますな。左右に移動が出来ないこの一本道で、前面にあれ程の敵を抱え、後方からアンデッドや鬼に追い立てられるのは、いささか……」
(ラッドの言うとおりじゃろうな)
なるほど、前門のオニヤンマ、後門の大鬼って訳か。さっきラクナが言いかけてたのはそれだったのね。
まあ、ミムズの言うとおり魔法が得意なシルマ家の連中が居れば、あのトンボを凍らせるのはやり易いだろうけどね。
「一つ試したい事が有る、それ次第で一度後退するかどうかを決めよう」
一旦シルマ家の連中と合流してやり直すだけにするのか、それとも『拠点』まで一気に後退して戦力を整え直さなきゃダメかまで考えとかないとね。
「ミムズ、今回の作戦はお前が鍵だ頼んだぞ、お前にこの討伐の成否がかかっているんだ」
「な、なんと、リョー殿が自分を頼ってくださるとは。このミムズ・ラースト、家門の名誉にかけて、リョー殿の期待に応えて見せようぞ」
うんうん、ミムズみたいなのを乗せるにはやっぱりこの手のセリフが良かったみたいだな。
「リョー殿、本当によろしいのですか、あの魔法は以前使ったように、溝のある場所などでしたら離れていても威力が有りますが、こういった開けた場所ですとすぐに広がってしまい近距離以外では威力が……」
ディフィーさんが珍しく自信なさそうだな、うん珍しい物を見た、普段強気で怖そうなワニメイドさんがこんな表情を浮かべてると、ギャップ萌えって感じでちょっとくるものが……
いやいや、いかんいかん、今の瞬間だけはしおらしく見えても、ディフィーさんの本性は返り血まみれの俺を見て『食欲が』、なんて言い出すような猛獣さんなんだから。
「大丈夫だ、期待しているのは威力じゃないからな」
「承知いたしました『水流波』」
俺の背後に回ってきたディフィーさんの放った魔法が産んだ水の流れに、『軽速』を使っている俺はあっさりと流されてそのまま闘技場の中に戻されるが、出口を中心にして水が放射状に広がって勢いが弱まり出した事で、泥の中に尻餅をつくように取り残される。
「カキ、カキ、カキ」
俺と言う餌が戻ってきたことがうれしいのか、トンボ野郎が小刻みに顎を鳴らしながら急降下してくる。
そりゃまあ、尻餅ついてる俺なんて狙いやすい餌に見えるだろうからね。
「そう簡単に喰えると思うなよ」
素早く体を起こしてそのまま通路方向へ走る。
「カキッ、ガキッ、カッ」
逃げ出した俺を捕えようと、トンボが顎の音に重低音な羽音を被せながら飛んでくる。
「リョー殿、こちらですぞ」
ラッドが必死に手を振っている所に駆け込むと、通路の中にトンボがデカい頭を突っ込んでくる。トンボは羽をたためないから、頭が入って多少スペースが余るくらいの広さじゃ、体ごと入って来れないんだろうな。
とりあえずチャンスだ、奴の注意を引くためにアイテムボックスからオーガの死骸を取り出して通路の途中に置く。
「ガキ、キィシャ、キャシャ」
奴の脚がギリギリ届くかどうかの距離に置いたから、悔しそうに顎を鳴らしながら、前足を通路に差し込んで何とか死骸を引っ掛けようとしてるけど、必死になってるせいか、それとも通路の位置が低いせいか飛ぶのを止めて、完全に着地してる。
「今だミムズ」
「解っている『氷結の軍路』」
ディフィーさんの魔法で泥々にぬかるんでいる地面にミムズが手を当てて魔法を発動させると、闘技場の方向へ向かって一気に泥が凍り付いていく。
ミムズのこの魔法は、攻撃魔法じゃないからダメージこそないけど、軍勢が通っても大丈夫なくらい堅く凍らせるから、この状態で足を凍りつかせればそう簡単には抜け出せないだろう。
「追加でもう一発行け、他の連中はそれが終わり次第、迂回して胴を叩け、間違っても凍り付いてる脚を切り離すなよ、空に逃げられたら終わりだからな、優先して羽を叩け」
地面に縫いつけられ、よける事が出来なくなったトンボの顔に左手を向けて『氷水』で冷気を放つ、これで危険な顎を凍りつかせれば奴に攻撃手段は無くなる。
「ガジャ、カ、カ、ケ」
顎が固まったせいで、途切れ途切れの音しか出せないトンボの前にディフィーさんとミムズが呪文を唱えながら並ぶ。
『水流波』『氷結の軍路』
ディフィーさんの放った魔法が氷の上に有った足の上部や胸の下部を濡らしだした直後に、ミムズの魔法で凍り付き完全にトンボの体を地面に縫い留める。
「突破ーーー、拙僧に続けー」
ラッドが駆けだしてトンボの手前で半身になると、トンボの頭と壁の間の隙間をすり抜けて闘技場へ抜けていく。
「行くぞ、アラ、トーウ」
「うん」
「お供いたします、旦那様」
俺やミムズ達も僧兵連中と一緒に闘技場へ抜け出て、そのままトンボの体に斬りかかる。
「羽だ、羽を潰せばタダのデカい虫だ」
細長い腹に剣を突き立てている連中に叫びながら、『軽速』で飛び上がりながら『切り裂きの短剣』を抜く。
「はああああ」
気合を入れて、短剣を振るい、片側の二本を纏めて切り落とす。
「よし、これでもう逃げられる恐れも、空から狙われる恐れも無い、後は倒すだけだ」
俺の言葉にその場にいた全員が歓声を上げて武器を掲げて答えてくれた。
「はあ、これほどに巨大なトンボを揚げましたら、どれほどの量になるのでございましょうか」
「食べるなよ、ボスモンスターの死骸だ、売れば結構な金になるかもしれないからな」
完全に動かなくなったオオオニヤンマを『アイテムボックス』にしまう為に、凍った脚を引き剥がそうとしてたら、トーウがお約束な事を言って来たけど、ダメだからね。『青毒百足』みたいに街で売れば大金になるかもしれないんだからさ。
しかしまあ、トーウと言いディフィーさんと言い、少しは食欲から離れられないのかな、ん、あれ。
「あれ、そう言えばミムズとディフィーはどうしたんだ」
こういう時だと、一番最初に食べたいと言ってくるワニメイドさんが、何も言ってこないし。戦闘直後で興奮してそうなミムズの声も聞こえないよね。
どうしたんだろ、今回の敢闘賞はあの二人だっていうのに。
「済まぬ、リョー殿、こっちだ」
ん、トンボの頭の向こう側って事は、通路から出てきてなかったのか、どうしたんだろ。お、丁度脚が取れたな、このまま『アイテムボックス』に放り込めば向こう側が見えるか。
「どうしたんだ、ミムズ、え……」
トンボを片付けて向こう側を覗くと、ディフィーさんが倒れててミムズに抱きかかえられてる。
どうしたんだよ一体、まさか奴の魔法攻撃を受けたのか、確か『火弾』のスキルが有ったはずだから、氷を解かすために何かしてきたのにディフィーさんが巻き込まれたんじゃ。
「ミムズ、ディフィーはどうしたんだ、大丈夫なのか」
慌てて二人に駆け寄るけど、ディフィーさんの顔色が悪そうだよ、呼吸も凄くゆっくりだし。
「リョー殿か、ディフィーは大丈夫だ、問題は無い」
いや、どう見ても問題ないって感じじゃないんですけど。
「こうなるとは思っていなかったので、着替えを用意しておらず薄着だったからな。狭く密封された空間で大量に氷を作ったために、室温が下がり、体が一気に冷えてしまったのだろう」
あ、そっか、爬虫類だもんね、変温動物だから寒さには弱いんだっけ。
てことはこれ、冬眠しかけてるだけなのかな。
活動報告でも書かせていただきましたが、櫻井真琴 さんにお願いして、サミューさんの絵を書いて頂きました。
下書きの段階でも、とても素敵なサミューさんだったんですが。
ミニスカのとてもかわいいメイド服を、小説で書いていたサミューさんの服装に直していただいたり。
『これは、少し修正して頂ければあのシーンになる!!』と思い、ずうずうしくも絵に台詞を追加するなどの修正をお願いしたところ、快く受けて下さり。
サミューさんが登場直後にかましてくれた、あの迷シーンが再現できました。
こんな短期間で、とても素敵な絵を書いて頂き本当にありがとうございます。
シーンの合う15話の後書きにも載せさせていただきましたが、下記のURLに行って頂き皆さんもぜひ見てください!
↓
http://12580.mitemin.net/i129200/
トオルはあまりに素敵な絵に悶絶しました。
H27年12月23日 誤字修正しました。




