137 トンボ狩り
「密集し円陣を組め、盾を連ね武器を掲げよ、そのまま壁際まで後退する」
ええっ、『火弾』の魔法攻撃があるのに密集するのか。
「ラッド、固まれば狙い撃ちにされるだけじゃないのか」
遠距離から魔法攻撃をされたら、周りが邪魔で避けにくいだろうし。下手したら仲間が避けた攻撃が隣の誰かに当たるとかも有りそうだよね。
(いや、ここはラッドが正しいのう。飛行型の魔物は容易に死角へと回り込んで来おる、故に仲間同士が互いの背後や左右を守り合う必要が有るのじゃ)
そう言えば『蝙蝠の館』じゃ、そんな感じで袋叩きにされた事が有ったっけ。あの時、他の子達はミーシアが入口で壁になっていったん室外に避難したんだったかな。
(それにのう大型の飛行魔獣では、襲った相手をそのまま抱えて飛び上がり、高所から落とすと言う戦法をよく取るのじゃが、周囲に仲間が居れば魔物に抱えられても、他の者が体を押さえて持ち上げられるのを防いだり、またその引き合いの間に更に別な者が攻撃を与える事が出来るからのう)
なるほどね、これもきっと長年の戦闘で培われてきたノウハウとかなんだろうな。
「悪いラッド、俺が間違ってた、そのまま陣形を組んでくれ」
俺の発言のせいで何人かがラッドの指示通りに行動するか迷いだしてたもんね。うーん、素人が下手に口を出して悪い事しちゃったな、考えてみればこういう陣形ならアラやトーウは真ん中に置いてもらえるから、比較的安全だろうしね。
まあでも、すぐ倒せそうだけど、何しろさ。
「アラ、やれ」
「わーった。『飛行妨害』」
流石はアラだ、俺が何を期待してるのかよく解ってて、しっかり答えてくれたよ。
トンボなんて、空さえ飛べなくなればただの虫だ、怖い事は何もないからね、ん、あれ、おかしいな、何時まで待っても落ちてこないぞ。
(どうやら抵抗されたようじゃのう、おそらくは『風耐性』と『魔法防御上昇』が影響したのじゃろう)
うそ、そんなの有りかよ、今までの対空戦では必勝策だったってのに、やっぱり一つしか手段を用意してないってのはダメなのか。
「キシャシャシャシャ」
「う、うわあああ」
まだ隊列に戻れてない騎士に向かってオニヤンマが急降下してってるけど、あのスピードじゃ合流する前に追いつかれる。
「遠距離スキルを使って彼を支援するぞ『飛斬』」
ラッドの指示に従って、僧兵連中が次々とスキルを放ちだしたか、これで少しは時間が稼げ……
「キュアアア」
うええ、アクロバット飛行で全部避けるって、かなりの数の弾幕だったって言うのに。さすがはトンボって事かよ。
いやいや、今は感心してる場合じゃなかったな、これじゃあ稼げた時間なんてほとんどないんだから、このままじゃあの騎士が追いつかれる。
「くそ、くそ、くるな、くるなー」
「そのまま全力で走り続けろ」
後ろを振り向いてそのまま足を止めかけた騎士に声をかけてから、『軽速』を使って一気に駆け寄る。
「あ、あああう」
騎士の目の前で軽く跳んで、向かってくる肩を足場にして一気に高跳びする。
「そのまま、隊列に合流するんだ」
「クシャアア」
背後を走っているはずの騎士に声をかけながら、一気に迫って来てるトンボの顔を睨みつけるけど。六本の脚と顎を大きく開いてって、もう喰う気が満々ですか。
「これでも食ってろ」
『アイテムボックス』からオーガの死骸を取り出して、目の前に掲げてからそれを蹴って方向転換して隊列の近くに着地する。
「キシャ、クシャ、クチャ」
急に目の前に出てきた獲物をしっかり抱えたトンボがそのまま急上昇して、上空でホバリングしながら食べてるけど、うわあ、グロいよー
ディフィーさんみたいに丸呑みじゃなくて、少しづつ齧りながら食べてるから色んな液体や欠片がボタボタと落ちてきてるんだよね。
ああ、見たくないけど、戦法を考えるには観察するしかないんだろうな。
「ラッド、スキルであれを倒せると思うか」
「難しいですな、先ほどの一斉攻撃も牽制だけが目的では無く、あわよくば深手を与えられればと思い遠隔攻撃を行わせましたが、全て避けられてしまいましたので。騎士殿に意識の殆どが向かっていたと思われる状況で、ラースト卿の投槍も、アラ殿の矢も躱されておりましたな」
複眼だからな、周りの事は良く見えてそうだもんね。向かってくるのが見えてれば小回りの利く飛行で避けられるから、撃ち落とすのは難しそうなんだよな。となると……
「接近して直接一撃を叩き込むしかないか」
「そうなりますな、されども……」
(あのような敵と空中戦を演じれるような能力は、僧兵達にもミムズ達にも無いのう)
(となると、奴の『火弾』を耐えて接近してくるのを待って反撃するしかないか)
カウンター狙いはきつそうだよな、奴の場合だと狙いに気付かれたりタイミングが早かったりしたら直前で反転とかできそうだしさ。後の手段はあんまり考えたくないけど。
(お主の『軽速』ならば、空中を跳ね回って奴と戦うことも出来よう)
やっぱりそうなるのね、でもなー、空中戦が得意なトンボの目の前をぴょんぴょん跳び回るとかさ、食べてくださいって言ってるような物じゃないかな。しかも『切り裂きの短剣』じゃ短いから深手を与えるのは難しいだろうしさ、かと言って『ゴブリンズソード』は効かないし。
「俺が奴を攪乱する、その隙を狙って一撃を当てられるか試してみてくれ」
でも他に手がなさそうだもんな、仕方ないか。
「わかりました、リョー殿、ライフェル神の御加護を」
ラッドに見送られながら、柱の一本に跳び、幾つかの突起に手足をかけて一気に頂上まで上がる。う、オーガの太腿を齧ってるのが間近に見えて、これはかなりエグ……
いや、我慢だ、我慢、食事中の今がチャンスのはずだ。
別な柱の頂上へ飛び移り、それを繰り返して奴の背後に回る、うん、この闘技場は柱が足場代わりになってるから、俺みたいなのが空中戦をするのには向いてるのかな。
奴の真後ろに回ってから空中に跳び上がって、更に小石を使って勢いを追加しながら長い尻尾に向かって『切り裂きの短剣』を振りかぶる。
多少でもダメージを与えて動きを鈍らせられれば。
「ギジギジギジジ」
クソ、気付かれてたか、オーガの肢を捨てながらホバリングのままでこっちへ方向転回してきやがった。
「クシャ、クギャ、クグル」
お口開いてウェルカム状態ですか、喰われてたまるか。
小石を投げて上方に跳び上がるけどやっぱり合わせてくるか、更に横に跳んでも付いて来るよねやっぱり。
「うおおおお」
俺を捕まえようと伸ばされてきた脚を必死に避けると同時に、足を使って蹴りつける。
ダメージは無いだろうけど、これで何とか下方向に逃げれた。
俺の目の前を通り過ぎる脚に掴まらないギリギリの距離で、細長い腹に向かって腕を掲げる。
火や風に耐性が有るならこれでどうだ。
「これでも食らえ」
左手にはめた『氷水の指輪』から冷気の塊りを生み出して、腹に放つ。
左側の後脚一本が多少凍り付いたけど。
(ダメージは全くなさそうじゃのう、魔法防御力が高いのでよもやとは思っておったが)
これでダメって事は攻撃魔法はほとんど効かないって事かよ、てことはホントにガチンコで勝負するしかないって事か、うわあ。
「キュワ、カシャ、ギャラ」
クソ、もう反転して飛んできやがった。避けてもまたしっかりと狙いを合わせて飛んでくるんだろうな。さっきは何とか避けれたけど、この先も逃げ続けられるか。
「リョー殿、支援いたしますぞ『四連飛斬』」
ラッドと一緒に僧兵連中も一気に斬撃を飛ばしてくるけど、威力よりも命中を優先したのか、かなり弾数が多いな。
「リャー、行くよー『制圧射撃』」
アラもか、一気に十数本を放ってくれてるけどスタミナ大丈夫かな。前みたいに無理をして倒れたりしないと良いけど。
「自分らも行くぞディフィー、プテック、『殺槍投』」
「解った、『速投擲』」
ミムズとプテックの攻撃は単発か、まあ遠隔攻撃スキルがほとんどないって前に言ってたもんな。
「遠距離スキルではありませんが『打尾』」
足元の大きめの石を軽く投げながらその場で回転して尻尾で打ち出すとかって、貴方の尻尾はバットか何かですかディフィーさん。
いやいや、そうじゃなかった。これだけの弾幕なら一発くらい当たってくれる、よね。
「カシュ、クシュ」
おいおいおいおい、回転しながら不規則に飛んで全部躱しやがったよ。お前はロボットアニメの主人公機か何かなのかよ。
さすがに今のを避ける為にいったん距離を取ってくれたけど、ああ、もう戻ってきやがった。さっきみたいな弾幕を、すぐにもう一回やるって言うのは無理だろうな。確か威力のあるスキルを打った直後は隙や硬直が出来るはずだし、疲労なんかもあるだろうから。
「ガリ、シャリ」
クソ、何とか避けないと、このままじゃ。
「リャーーー」
「旦那様、そんな」
腕を掴まれたか、左腕が四本の脚で抑え込まれて振りほどけない。
「クシャ、カシャ、キシャ」
ああ、気持ち悪い口に手首まで咥えられて嫌な音を立ててるよ。振りほどこうにも右手を伸ばして届く範囲じゃ目には届かないし、刺してもほとんど嫌がらないし、痛覚が無いのかこいつは。
腕を掴んでる脚を切り落とそうとしても、短剣を向けた脚を腕から放して器用に避けるし、他の脚を狙えばすぐに俺の腕を固定し直してくるから、振りほどけないし。
こうなったら、このまま指輪の魔力を食らわせてやる。体の中ならいくらかは効くだろう、それに電撃なら麻痺効果だって狙えるはずだ。
「食らえ虫野郎」
奴に咥えられた左手にはめている『雷炎の指輪』から最大限の雷撃を放つ。
「ぐああああああ」
く、くそ、奴と、触れてる、せ、せいで、こっち、にもでんげきが。
「ぐっ、く、くうううう」
必死に『切り裂きの短剣』を振って、左腕を切り離すと、重力に引かれて俺の体がそのまま地面に落ちていく。ああ、くそ、いてええ。
「ぐはあ」
痺れと痛みのせいで、『軽速』を使って着地する余裕も無かったから、直接背中から地面に叩きつけられ……
「リャー、めー」
「アラ様、いけません」
アラが俺の方に向かって隊列から抜け出そうとしたけど、トーウが抑えてくれたか。
痛みを堪えて上体を起こし、残ってる右手をアラの方に向ける。
「アラ、俺は大丈夫だから、そこでトーウ達と一緒に居ろ」
痛みはまだあるけど、『超再生』のおかげで電撃のダメージや痺れは大分無くなって来てるし、腕からの出血もだんだん治まってきた。たまたまだけど『長命の魔法輪』を右手に填めててよかったわ。もしも、これごと切り離してたら『超再生』はどうなるんだろ。
とりあえず、この状態ならまだまだ戦えるな、奴はどうだ。
「ガジ、ガリ、ゴリ」
ピンピンしてるよ、元気に俺の手を齧ってるし、片腕を犠牲にした攻撃だって言うのに効果なしかよ。
(こう見ると、魔法での攻撃は完全に無意味という事じゃのう)
ああ、やっぱりそうなるよね。口から直接体内に電撃を叩きこんだのにほぼノーダメージだもんね。ところで俺の腕回収できるかな。
『超再生』が有るからすぐに腕が生えて来るとは思うけど、やっぱり気分的にはあれだし、何より『風砂』『雷炎』『氷水』の三つの指輪は、魔法もスキルも使えない俺にとっては貴重だし。
最悪食われても、消化は無理だろうから腹から取り出せるかな。
「ガジ、ギリ、ぺっ」
ああ、おれのうでええええ。
(吐き出されて捨てられてしもうたのう)
帰ってくるのは嬉しいけどさ、もう少し丁寧に扱えないのかよ。
『軽速』を使って駆け出し、地面に落ちた腕を拾う、うえ、なんか変な液体でベタベタしてるよ。
(ふむ、どうやら『青毒百足』の殻で作った籠手を噛み砕けなかったのが、食らわずに吐き出した原因の様じゃのう、む、来たぞ避けよ)
上空から急降下するみたいに俺を狙ってきたトンボの攻撃を地面を這うように走って必死に避けながら、右手で拾い上げた腕の切り口を肩に当てる。
よし、腕が繋がりだしてきた。
ホバリングしながら追いかけてくる奴が、俺を捕まえようと振って来る六本の脚を必死に避けてるけど、いつまで避け続けられるかな。とりあえず正面とか真下はやばそうだから奴の左側面に回るか。
「キュアア」
振り下ろされてきた二本の脚の攻撃を必死に避けるけど、三本目が、この姿勢じゃ避けきれな……あれ。
「クワア、キャガ」
なんで今の一撃は当たる直前で止まったんだ。
(どうやら、先ほどの『氷水』の一撃で関節が凍ったままの様じゃな)
それで脚が伸びきらなかったのか、てことは耐性の無い魔法ならダメージは無くても、物理的に動きを止めることは出来るって事か。
「ラッド、ミムズ、いったん退却する、俺の方に奴が向かってる間に通路に戻れ、俺もすぐに行く」
ヒントが取れたんだからいったん仕切り直しだな。
なんかスランプ気味です。
仕事が忙しく疲れのせいで、なかなか文章がまとまらず……
今回も、一話で戦闘を終わらせるはずだったのに。
H27年12月23日 誤字修正しました。
H28年6月26日 誤字修正しました。




