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132 渡河

「これで終わりか、思ったよりも掛かったな」


 川辺の戦闘で倒した鬼達の死骸の殆どを、やっと『アイテムボックス』にしまい終えたよ、残ってるのは今ディフィーさんが食べているのだけか。


 大きく開けられたディフィーさんの口の中にプテックがどんどん投げ入れてるけど、まるでゴミ収集車みたいだな。


「ディフィー、食べ過ぎ」


「もう少しで終わりですから、ファイターやメイジ、ポイズン等の変異種や上位種は通常の個体よりも食べた際の経験値が良いですが、時間がたつと劣化してしまいますから、プテックもどうですか。美味しいですよ」


「いい、人型は、いや」


 うん、それが普通だと思うな。まあ俺としても助かるんだけどさ、鬼の死骸なんてどれだけ『アイテムボックス』に有っても腐らすだけだから、採集部位さえ取れれば残りはどっかで処分しないといけないからさ。そうだ。


「そう言えば、倒した魔物や見つけた採集品、アイテムなどの権利はどうなるんだ」


 ラッドやミムズ達と一緒の時は依頼料や教育料の一部って事で、基本的には俺の総取りになってたけど、今はシルマ家やクレ領の騎士もいるからさ。


 今回取れたのはオーガの角が1000組、ゴブリンの爪が約5400体分、オーガの角は一組で銀貨4枚だから4,000枚で金貨40枚分、ゴブリンの爪は一匹当たり銅貨50枚だから、銅貨270,000枚で金貨27枚分、あれ、こう考えるとずいぶん値段が安くないかあれだけ倒してこれだけって。


 ゴブリン一匹当たりの単価が銅貨50枚、日本円で約500円くらい、オーガで4000円って言う時点でおかしいんだろうけど。


(なあ、ラクナ、鬼の部位の採集額がかなり低いんだが、これで大丈夫なのか)


 この額じゃ冒険者がいくら狩っても、生活費と消耗品の補充や装備の減価償却でカツカツになれば良い方じゃないか。下手すりゃ普通に狩ってるだけで破産しかねない、ワーキングプア一直線じゃないかな。


(採集品の額は、その生産物の市場価格から加工の手間賃を引いた物じゃからの、ありふれた物や利用価値の無い物は、たとえ強い魔物の部位であっても安い事が有るの。じゃからこそ『鬼族の街』は不人気なのじゃが。とは言え、放置されておればそのうち『迷宮』から溢れ、人里近くで見かけるようになる、そうなれば増える前に駆除依頼が出始めるからの。その時の額はそこそこじゃから何とかなっておるのじゃろ)


 ふーん、まんま害獣みたいな感じなんだな。まあいいやそれより今は取り分をどうするかだ。数が狩れた分、そこそこの額になるからね。


「拙僧らの目的はあくまでも、『迷宮』の維持管理、銭金に拘るつもりは毛頭ありませぬ」


 流石ラッド、清貧って言葉が似合うね。


「ディフィーの成長の為に死骸の殆どを貰っているのだ、それ以上を主張するのは筋違いであろうな」


 ミムズもOKと、まあこっちとしては使い道がないくせに、適正に処分しないとアンデッドになって苦労しかねない、殆ど産業廃棄物みたいな鬼の死骸を引き取ってもらってるから、逆に助かってるんだけどさ。


 とはいえ、この二人の答えはほぼ解ってたから問題ないんだけど、残りの二つのグループはどう来るかだな。


「此度の『大規模討伐』での取り分については、申請時に取り決めが有ったであろうが。主命で参加している我ら三名は公務中である故、自ら倒した魔物以外の権利を主張する気はない」


 そう言えば受付の時にノルマ以外は冒険者の取り分ってなってたもんね。


「もっとも、シルマ家の御一同は領軍の一部としての軍役では無く、あくまでも一門としての自主的な御参加故、この限りではないが」


 騎士がエル・シルマに目配せしてるけどどうしたんだろ。


「我らが参加したのは微力ながらも侯爵閣下の為に功を上げ、お怒りを鎮めて頂くため。そのような場で取り分を主張するなど本来なら出来ぬ事であるが……」


 な、なんだ急にエル・シルマが頭を下げて来たけどどうしたんだ。


「恥を忍んで、頼ませていただく、倒した魔物の採集部位の一部だけでも譲っては頂けまいか。一家の再興の為にはどうしても先立つものが……」


 あそっか、そうだよなシルマ家は借金漬けなんだよね。だからさっきの騎士は目配せしてたのか、分け前を貰っても問題ないから遠慮するなって意味だったのね。


 まあ今回の『大規模討伐』では十分稼がせてもらったし、今の目的は出来るだけ早くボス退治を終わらせて、この面倒事からオサラバする事だから、多少の額をケチって下手に波風立てるよりは、円満に話を進めた方が良いだろうな。


「解った、取り分は直接倒した場合は本人の物、今回みたいに作戦で倒したものや誰が倒したか解らない場合は俺達とシルマ家で折半、それとアイテムは最初に発見あるいは入手した奴の物、これで良いか」


「承知いたした、拙僧等の倒した分はリョー殿に進呈しよう」


「自分達も、死骸さえ貰えればよいので、リョー殿にお譲り致す」


「我々も異存はない、倒した分だけは頂こう」


「半分も頂けるのなら、ありがたい事だが『百足殺し』殿はそれでよろしいのか」


 シルマ家以外は問題なしと、エル・シルマは俺が気前良すぎたせいでちょっと不安そうだな。


「道案内の手間賃だと思ってくれ、その代わり『迷宮核』は俺に『鎮静化』させてもらう」


 なにしろ『魔力回路』の書き直しや、次の武具を取る為のノルマなんかが有るからね。


「それはもちろん、我々はあくまでも道案内役、『鎮静化』の名誉も、『迷宮核』の『魔道具』も主張する気はありませぬ」


 お、てことはボス倒した後のアイテムは俺の総取りに出来るって事かラッキー。


「なら、これで決まりという事で良いな、それじゃあディフィーの方も食べ終わったようだし、進むとするか」


 あれ、でもどうやって川を渡るんだろ。橋は落ちてるし、川幅は結構広いよね。


 俺だったら『軽速』で水面を走ったりして向こうまで行けそうだけど、それでロープを向こう岸まで渡せば……


 いやダメだな、アラやトーウみたいな小柄な子だとロープを掴んでても危ないだろうし、シルマ家の鴉人達は羽が濡れたらまずそうだし、いや奴らは『鳥態』になって飛べばいいのか、アラも背中に乗せて貰えば、ハルも出来たんだからいけるかな。


 あ、ディフィーさんの背中に乗ればいいのかも、あのサイズなら何人か乗せて泳げそうだよね。


「ふむ、この川幅では重装の者は渡るのが辛いであろうな、リョー殿、ここは自分に任せては頂けないか」


 お、ミムズに何か策が有るのか、安全に渡る方法が有るならぜひやってほしいけど、ミムズの手じゃ怪しいかな。なんか脳筋の力技でやっちゃいそうだし、プテックと二人で対岸に一人ずつ投げ飛ばすとかさ。


「それでは行くぞ『拓け我らが征路よ、凍りつけ我が軍勢を阻む波涛よ……』」


 川辺にしゃがみ込んだミムズが、水面に手を当てて呪文を唱えてるけど、なんだろうこの魔法は。あんまり聞き覚えがないんだけど、頭の中を調べて見ようかな。


(ほう、『行軍魔法』とはなかなか通じゃのう)


 ん、聞き覚えのない名前だな。


(ラクナ、それはなんだ)


(軍隊等でよく使う攻撃用では無い魔法じゃ、以前にオーガに襲われた村で使ったような『氷陣構築』のような、野戦陣地の構築や、兵糧の保存などの、一定以上の部隊が効率よく進軍・展開するのを助ける魔法じゃな。便利な反面、実戦では役に立たず戦果として評価されにくいため修める者が少ないのじゃが)


 縁の下の力持ちが使うような魔法って事か、うーんミムズには似合わないような似合ってるような……


 お、有った有ったこの魔法か、なるほどたしかにこの場にはちょうどいい魔法だ。


『我が魔力により水上を歩む道を築かん、氷結の軍路』


 魔法が発動すると同時に、水面が一定の幅で凍り付いて対岸へと延びていく、うん、この幅なら馬車でも通れそうだから、渡る時も怖く無さそうだね。


「すごい、ねー」


「このような事が出来るとは、魔法とは便利な物ですね。ラッテル領でもこう言った魔法士が居れば糧食の輸入もしやすくなるのでしょうか」


 アラと、トーウが感心してるけど、こんな広範囲の魔法を使ってミムズは大丈夫なのか、まあ戦闘は槍のスキルがメインだから良いんだろうけどさ。


「ミムズ様、お疲れ様でした」


「姉さま、大丈夫」


 いつの間にか、『人態』に戻っていたディフィーさんとプテックが駆け寄ってるけど、そんなに疲れてはなさそうかな


「攻撃魔法と比べれば魔力消費が少ないとは言え、流石にこの距離は少しきつかったな。とは言え戦闘に支障が出るほどではないが、さてリョー殿、進もうではないか。氷ゆえ多少滑るが、足を置けるように窪みを一定間隔で配置しているのでそれの上を歩めばよかろう。強度にあっても心配されるな、氷とは言え装甲馬車を渡すことも出来る頑丈さが有るゆえ」


 それなら大丈夫かな、よし渡るか、早くしないと溶けちゃいそうだし、ここでのんびりしてても仕方ないからね。


「それにしても凄まじい魔法ですな、当家は攻撃魔法ばかりを修めて来た為にこう言った魔法はあまり縁がないのですが。領軍の一部として働くには、習得した方が良いのかもしれないな」


 近くを歩いてたエル・シルマが呟いてるけど、確かにそうかも、俺達みたいな冒険者が普段使うにはやり過ぎな気がするけど、軍隊みたいな大人数だったらこっちの方が効率いいだろうし。


「失礼した、呟きが大きかったようだ」


 俺の視線に気づいたエルが、頭を下げるけど別に問題は無いんだよね。


「いや気にする必要はない、俺には関係の無い話だ」


 そう言って、エルに向き直ったけど、そういえばコイツの装備って……


『魔石の杖』『強化布の服』、うーん、安物じゃないけどそんなに高価な物でもないよね。前に見たガル・シルマの装備やハルの金銭感覚を考えると、ずいぶん見劣りがするような。


「ああ、これですか。この装備は領軍に参加した魔法兵に支給される物で、使いやすい上に官品なので差し押さえの対象にならなかったので」


 おいおい、ずいぶんと世知辛い話だよね。


「ガルの装備とは、えらい違いだな」


 やべ、思わず口に出ちゃった。


「ああ、『シルマ家の魔杖』ですか、あれは一度差し押さえられたのですが、外で金を稼いでくるには良質な装備品が必要だとガルが強く主張したので買い戻したもので。本来なら奴隷に身を落とした家人を買い戻すのが優先なのだが」


 やっぱりガル・シルマはハルの買い戻しより装備品を優先したのか。だけどそれだと。


「家宝なんだろう次期当主が装備しなくていいのか」


 普通は目上から順に良い装備をしていくものだよね。


「あの杖は、確かに我が家に伝わる物ではあるが、当主の持ち物ではないから。当主が本来持つ装備品は『迷宮』の中だし、私ならこの杖でも十分に戦えますから」


 なるほど、当主の証みたいな装備は、前当主が死んだ『地虫窟』の中って事か。


 しかし、今の言い方だと、装備に拘るガルやハルより、エルの方が強そうだな。確かにステータスは若干高いけど、戦い方とかが有るのかな。


 まあ、それは戦ってれば解るかな。


「この先も鬼が大量に居るはずだ、周りの警戒は怠らないでくれ」


「お任せください旦那様。『暗殺者』のわたくしなら『索敵』や『気配察知』のスキルが有りますので」


 そうだった、元々トーウの家は毒味兼護衛をしてたんだから、そう言うのは得意なのかも。


「は、そこです」


 何かに気付いたトーウが草むらに爪を突き込むけど、敵か。


「ご覧ください旦那様、一撃で二匹もトンボが取れました」


「わあ、トーウ、すごいよー」


「アラ様、おやつを楽しみにしててくださいね」


 ああ、トーウのせいでアラがどんどんゲテモノ好きになって行ってる……



お忘れの方もいるかと思いますが貨幣価値は

金貨が十万円

銀貨が千円

銅貨が十円


それと、先日のアンケート結果を26日の活動報告で集計しました、よろしければご確認ください。ご協力ありがとうございました。

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