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128 防衛線

「よいか、アンデッドに斬撃や低威力の魔法は効かぬ、魔法職は時間がかかってもいい、確実に仕留められる魔法を使え。決定打を持たぬ前衛職は足止めと貼り付けを徹底せよ。やり方に有っては、このカター・ナーシが率先して見本を見せてくれようぞ、続けー」


 馬上から宣言した後で、顔を真っ赤にした騎士が槍を頭上に掲げて開けられた門を一気に駆け抜け、騎乗の騎士達や徒歩の冒険者が続いていくけど、皆なんであんなにやる気満々なんだろ。


「仕方ない、俺達も行くぞ、アラはパルスの近くにいて魔法と弓で支援してくれ、トーウはアラの護衛だ、お互い離れるなよ」


「分かったけど、リャーも怪我しちゃめーなんだからね」


 よしよし、これで二人の安全は大丈夫かな、アラの『出血の細剣』もトーウの毒攻撃もアンデッドとは相性が悪いもんね。


 飛び出そうとするアクラスを言葉巧みに宥め、自分の近くに置いているパルスの近くに向かっていく、うん、ここなら安全そうだな、ディフィーさんやサーレンさんだけでなくエルフ族の騎士や冒険者が周辺を固めてるし。


「はあああ、シルマ殿ご安心召されい、我ら一同が救援に参りましたぞーーー」


 先頭の方じゃ、突っ込んでったカター・ナーシがシルマ家の連中とすれ違いざまにそんなこと言ってるけど、あんたついさっきまで、敵ごと吹き飛ばすから諦めてくれって言ってたよね。調子よくね。


「おお、ナーシ卿、私どもなどの為にこのような御助勢かたじけない、何と御礼すればよい事か」


 ええ、そこで納得しちゃうの、ついさっきソイツに殺されかけたんだよ、いやでもこれは社交辞令みたいなものなのかな、ここで下手に文句は言えないだろうし。うーん騎士や貴族の思考は解らないな。


「そのような事はお気になさるには及ばぬ事、それよりも今は伴に力を合わせ、不死者どもを撃退いたそうではないか、行くぞー」

 

 エル・シルマと数言を交わしただけで、カター・ナーシは一気に馬を加速させて槍を小脇に構える。


「ハアアアア、一番槍いいいいいい」


 一撃で密集していたゾンビ五体を串刺しにして、そのまま槍先を地面に付き立てて深々と突き刺すって、無茶苦茶だろうそれ、この辺りの地面は結構硬かったはずだぞ、それなのに長い槍の三分の一近くって。


「見たか、このようにして敵を地面や壁に貼り付けるのだ」


 騎馬で付き添っていた侍従から予備の槍を受け取りながら叫んでるけど、普通はそれ無理じゃないのかな。


「ナーシ卿、御見事、皆の者ナーシ卿に遅れるな、続けー」


 うわー皆もう、ガンガン行こうぜって感じだな。


「ミムズ、プテック、手柄を立てて来たらどうですか」


 前線を見ていたパルスがいきなり言い出したけど、いいのかよそんな事して。


「ですが、自分達が前に出れば御身の安全が」


 うん、そうだよな。なんでわざわざそんな……


「構いません、クレ侯爵領騎士団のナーシ卿が全軍の先頭に立って一番槍の手柄をたてられたんですから。私達リューン王国の方でも目に見える功績を挙げなければ、釣り合いが取れなくなります」


 何だろう、やっぱり手柄で主導権の争いとかが有ったりするのかな、偉い人は大変だな。


(まあ、合同での開催じゃからの、片方のみが功績で突出すれば後々の外交交渉に影響するじゃろうし。名目だけ参加して働かないなどとあらぬ噂が立てば、色々と面倒じゃろうて)


 うわあ、そんな事も考えなきゃダメなんだ。そのうちパルスの胃に穴開くんじゃないかな。 


「リョー様も、行ってこられたらどうですか、騎士達の守りが有りますから。たとえアンデッドがここまで到達するとしてもまだ時間が有るでしょう、それに前線が持ち堪えてくださればこちらも安全になりますから」


 それなら、なんでわざわざ俺を指名してここに連れて来たんだろ。


(まあ、アラとトーウがここに居れば、何かあればお主はすぐ戻って来るじゃろうし。ここからお主が出撃すれば、先日のアクラスとの一件も和解したと周囲に見せられるじゃろうて)


 う、これ以上余計な事を考えてると俺も胃潰瘍になりそうだな。まあいい、アラ達が安全圏に居れるって事が重要だもんね。


「分かった、それじゃあ少し行って来よう」


「待たれよリョー殿、自分も行こう。ではアクラス殿下、パルス殿下、行ってまいります。この場にて、ミムズ・ラーストの槍働きを御照覧いただけますよう」


「うむ、期待しておるが、くれぐれも無理はするでないぞ」


 さりげなくパルスに押さえられているアクラスに一礼したミムズが俺の後について来る。


「姉さま、プテックも、いく」


「ミムズ様、お供いたします」


 プテックとディフィーさんも来るのか、相変わらず凶悪なメンツだなー


「サーレンも行き……」


「駄犬、待てお座り」


「はうう」


 一緒に付いて来ようとしたサーレンさんがディフィーさんの一言で、その場にしゃがみ込んだけど、勢いが良かったせいでスカートの中が……赤か……じゃなくて。


「アンデッドに有効な火系統の魔法が使える貴方まで姫様達の傍を離れてどうするのですか。大人しく残っていなさい」


「で、でも、エアやブリーズも居るし……」


「貴方がアンデッドになったら、問答無用で『食葬』しますけれど、それでもいいの」


 しょ、食葬ってまさかそんな……いやディフィーさん実際やってたもんな。


「は、はいいい、サーレンはこの場でお二人をお守りしますううう」


「よろしい」


 うわー、サーレンさん涙目で直立不動してるよ。






「ミムズ、解ってると思うが対アンデッド用の装備や魔法がないのなら、カター・ナーシみたいに釘付けにする方法を選べ」


 ほんと頼むよ、いきなり斬撃でバラバラにして取り返しがつかないとか止めてくれよ。


「もちろん解っておる、パルス様より予備の鉄槍を数本戴いている、これを使うつもりだ」


 それなら大丈夫か、あれでもプテックとディフィーさんはどうするんだろう、二人とも打撃系メインだし、プテックの短剣投げじゃ縫い付けるには短いだろうし。


「行く」


 アイテムボックスから斧の代わりに、建て壊しで使うようなデカいハンマーを取り出したプテックが、そのまま振り上げて一気に振り落とす。相変わらずのパワーだな、あれ多分うん十キロあるよね。


「あああ、おおお、ぶべえ」


 ゆっくりと歩いてきたゴブリンゾンビの頭が海岸のスイカみたいに一撃で粉々に砕けて、しかもハンマーの平らな先端が腹近くまで食い込んでるし。


「関節、粉々、グチャグチャ、なら、動かない」


 な、なるほど、ミンチにしちゃえば倒せないけど危険は無いって事か、でも上半身が潰されても立ち上がってるよ、しかも胸の真ん中の支えを失った側胸部と両肩が左右にダラーンて広がって無茶苦茶気持ち悪いんだけど。


「なるほど考えましたねプテック、アンデッド最大の武器の噛み付きは封じましたし、こうなっては両手もほとんど使えないでしょうから、それではわたくしも『撲殺拳』『破砕蹴』」


 続けざまに繰り出されたディフィーさんの手足がオーガゾンビの頭を砕き、更に四肢の関節を砕いていく。


「膝と股関節それに肘と肩、肩甲骨を砕けば、ほとんど動くことは出来なくなりますよね」


 ああ、確かにやられたオーガゾンビは身体を支えられずに転んじゃったし、手も動かせないみたいだから腰と背中を曲げて必死に這ってるよ。これなら誰でも逃げ切れるよね。


(見ておらぬで、お主も戦わぬか、お主の『ゴブリンズソード』はこの場では主力となりうるのじゃぞ)


 言われなくても解ってるよ、『軽速』を発動させて一気に距離を詰めて上昇した速度のままに剣を振るう。


 長剣の刃が当たったオーガスケルトンがバラバラになって崩れ落ち、トロルゾンビがその場に倒れる。


「おお、すげえぞあの剣、まさかアンデッドを倒せる『魔道具』なのか、あんなもん持ってるなんて」


「あいつは『百足殺し』じゃねえか、なんだよ不死者にも有効打が有るってのか」


「百足と言い不死者と言い、奴は気色悪い化物を好んで狩るのか、気持ち悪い、どんな精神してやがるんだ。まあ、だからあんなヒデエ決闘が出来るんだろうが」


 ちょっと待て、なんでそんな評価になっちゃうの、普通ならアンデッドを浄化するのは、神聖だとかカッコいい光だとかそう言うイメージじゃないの。


「おお、流石はリョー殿、よし、このまま中央突破を図り、敵を分断しようではないか」


 魔法でオークゾンビの足を地面に凍り付かせたミムズがそう言ってくるけど。


(確かに、敵勢を分断して各個撃破した方が、効率が良いじゃろうし全体の士気も上がるじゃろうてな)


 ラクナがそう言うなら、やってみるか。


 剣を振り回しながら、アンデッドの集団のど真ん中に突っ込んでいくと、ミムズ達もついて来る。


「おお、すげえぞあの四人組、どんどんアンデッドを倒して行きやがる」


「うん、『百足殺し』の後に付いてるのは奴の娘と奴隷じゃねえぞ、あの野郎いつも連れ歩いてる二人だけじゃ飽き足らず、あんな美少女を三人も手え付けやがったのか」


「よく見ろ、ありゃあリューンの王太子付き騎士と従者、それに侍女じゃねえか。クソッタレ、この『大規模討伐』に参加した連中が高嶺の花と諦めてた美少女を纏めて持っていきやがって」


「まさか、あの美少女双子の王女様達まで……」


 待て、それは誤解だ、なにが悲しくて暴走熱血バカ×2や、凶暴ワニメイド、ドジッコわんこ、無口怪力猛獣、腹黒王女なんぞとそんな関係にならなきゃいけないんだ。


 この連中と付き合ってきて得したことなんて、多少金儲けになったぐらいしかねえぞ、なのに。


「もげちまえハーレム野郎」


「テメエなんざアンデッドに喰いちぎられちまえ」


 うん、俺たちを支援するために背後から魔法やスキルが飛んできてるんだけど、その何割かが俺の擦れ擦れを狙ってるような気がするのは気のせいだよね。


(ふむ、今朝まではお主と目を合わせるだけでも避けようとしていたと言うのにこの行いとは、それだけ凄まじい嫉妬という事かのう。とは言え士気高揚にはちょうど良かったかもしれぬの、見てみよ)


「テメエら、あんな外道野郎だけにいい顔をさせてちゃ、冒険者の評価が下がるってもんだ、やったるどーーー」


『うおおおお』


 なんだ、一部の集団が一気にアンデッドを押し返しだしたけど、あれって俺のせいなのか。


「おお、これならばアンデッドの撃退も早まろう、兵達の先頭に立って戦い士気を鼓舞するとはさすがはリョー殿」


「さ、さすがですね。わざとではないのでしょうが」


「あれは、士気、かな」


 うん、素直に感心してるのはミムズだけだな。今は余計な事は考えないでおこう、重要なのは『ゴブリンズソード』のレベル上げだ、うんそうだそうしよう。


「もうすぐ突破する、敵中を抜けたら反転して突出した冒険者連中とアンデッドを挟み込むぞ」


 まずは有利な所から敵を全滅させていけば一気に全体が有利になるよね。


「うむ、それが良いだろうな、行くぞディフィー、プテック」


「承知いたしました」


「分かった、姉さま」


 目の前にいる最後の一体を切り倒してから方向転換して、またアンデッドの集団に突っ込む。


(ふむ、浄化属性と聖属性のおかげで苦労なく倒せては居るが、やはり剣一本で斬るだけでは時間当たりで倒せる数は限られるのう)


 そうなんだよな、広範囲を一気に薙ぎ払えるようなスキルで一気に数十体を倒せるならともかく、俺じゃあ一撃で倒せるのはせいぜい三、四体だもんな。


『軽速』を使いっぱなしで戦えるからまだましだけど、それでも倒しながら進むとなるとやっぱり多少は時間がかかるし。


「まずいぞリョー殿、向こう側が崩れかけているぞ」


 ミムズが指差す方では、アンデッドの集団を押さえこんでいた侯爵領軍の兵達が、それぞれ数体のアンデッドに掴みかかられて押し倒されている。


「ミムズ様、リョー殿、すぐに転進して救援に行きませんと。あそこが抜かれますと姫様達も危うくなりかねません」


「むう、確かに、リョー殿」


「解ってる、だがこの状況だと」


 俺達は再度アンデッドの集団を突破しようとしている最中だ、突破してきた背後を除けば前方と左右はアンデッドだらけ。


 突出し過ぎたか、まさか領軍がこんな簡単に崩れるとは思わなかったからな。


H27年12月5日 誤字修正しました。

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