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103 巨獣

(なあラクナ、ここを作った『勇者』ってのはどんな奴だったんだ)


 最奥に有った二つの武具を鑑定しながら、一番気になった事を聞いてみる。一つ目の宝物庫までは日本人なら解けるだろうけど、ここまで来るにはオタクじゃなきゃ厳しいよね。


(アキエかの、アキラの四代前の『勇者』でこちらに来た時の年は二十四、五であったの。最初の職は『弓兵』で敵に気付かれるより先に遠距離よりの狙撃で撃破する戦い方を好んでおったの。そのせいか二つ目の職は『暗殺者』となってしもうたが、接近戦を好まぬゆえ持て余しておったの)


 ふーん、まあどんな戦い方をしてたかはあんまり興味がないんだけどね。


(それで、人となりはどうなんだ)


(そうじゃのう、比較的明るい性格じゃったが初対面の者と打ち解けるまでは時間がかかったの。パーティーメンバーは若い男のみで統一しておった、わざわざ高い金を払って本来なら買えぬはずの男の戦闘奴隷を買ったり、戦闘用以外の男奴隷を買って一から育て上げたり。なぜそこまでこだわるのかと思ったほどじゃ)


 それはまた念の入った話だな。


(それでなんでこんな所に武器を隠したんだ)


(さてのう、『勇者』を引退した後は何処へも仕官せずにこの辺り一帯で冒険者をしておったと思ったが)


 ん、てことは。


(ここを作った『勇者』は日本に戻らないでこの世界に残ったのか)


 カミヤさんと言いここの『勇者』と言い、意外と『勇者』が帰還する率って少ないのかな。


(その通りじゃ、『リアルでイケメン逆ハーなんてマジ最強、マジぱねっす。今のあたしにはスイーツもビッチも目じゃないわ、見たかリア充共、あたしこそが真の勝ち組よ』と言っておったが意味が分かるかの)


(いや、わからん)


 と言うか解りたくない、なんだよこの欲望とコンプレックスが駄々漏れのセリフは。


 これは筋金入りだな、ほんとにそれだけの為にこの世界に残ったのか。いやでも普通に考えれば日本じゃ実現不可能だろうからな。


「『勇者』殿、『鑑定』結果は出ましたかな。これらが目的の武具で間違いありませぬか」


 あ、そうだった、待たせたままじゃ申し訳ないよね、ええっと。


暗殺者の毒殺刀 LV14

付加効果 毒 猛毒 麻痺 全感覚障害 確率上昇 耐性無視 解毒抵抗


 うわ凶悪だな、四種類も異常状態が付いてるし、『耐性無視』って事はラッテル家の連中やサミューなんかにも効果が有りそうだな、『解毒抵抗』は薬や魔法で治りにくいって事だろうから。食らったらアウトって事だよね。


属性付与の弓兵弓 LV126

付加効果 魔法吸収及び射撃時付与


 なんだよこのレベルは無茶苦茶高いじゃねえかよ、一体どこまで上がるんだろレベルって。効果は吸収した魔法を矢に込めて放つのか、上手く使えば攻撃と防御どっちにも使えそうだな。


「この二つで間違いないな、って何をやってるんだ」


 ラッド以外の連中は持ってきた荷物や『アイテムボックス』から、どんどん中身を取り出してるし外の連中からも受け取って運び込んでる。


「何をしてるんだ」


(あれらは武具に代わってここへ仕舞う物じゃろうな)


 へー、硬貨や宝石、いろんな金属のインゴットっていかにも隠し財産って感じだな。いいのかな俺これ見てて。


 ん、あんな物も仕舞うのか、薬類ってしかも精力剤や媚薬に病気の治療薬なんてなんでわざわざ、後は魔物の剥製やアルコール漬けに、採集依頼が結構入る植物の鉢植え、戦闘用じゃない『魔道具』、なんであんなもんをしまうんだ。


(ラクナ、これは隠し財産をしまってるんだよな)


(いやそうではない、これらは『迷宮の型』に神殿が登録したい物品や魔物じゃ、ここにしまって置けば持ち去られる事もないゆえ確実に『型』が出来るじゃろう)


 ええと、『型』ってあれだよな、『迷宮』内に長期間存在した魔物やアイテムがそのうち自然発生するようになるって奴だよね。


(こうして換金性の高い物品や魔物が『迷宮』内で発生する様になれば、それを目当てに冒険者がたびたび訪れるようになり、魔物の数も調節されるじゃろう。また『迷宮』での生成物は確率で無作為に作られるのじゃ、それゆえに鬼に利用されそうな『魔道具』が出る確率が下がるじゃろう、その上、『迷宮核』から漏れる霊気の量は有限で強力な物や魔物ほど必要とする霊気が多い、こういった物で霊気を消費すればなおさら強力な物が出にくくなる)


 なるほどね、でも『迷宮』でどんどん貨幣や金塊なんかが生み出されたらインフレになるんじゃないかな。まあ経済学は専門じゃないから自信がないけど。


「さて、作業も終わりましたし引き上げますか」


 大量の荷物を設置し終えたラッドが声をかけてくる。そうだな何時までもアラ達を待たせておけないしね。いやーそれにしても収穫だったな、大量の装備品と『魔道具』、売れば幾らになるかなー




「あ、リャーお帰りー」


「旦那様、御無事の御帰り何よりです」


 一つづつ仕掛けを戻しながら地上に戻った俺達をアラとトーウが出迎えてくれる。


「すまない、待たせたな」


「いいえそのような事はございません、それよりも旦那様こちらをどうぞ」


 微笑みながらトーウが差し出してきたのはオーガの角、ゴブリンの爪、オークの牙、トロルの胸骨どれもこの迷宮の魔物から取れる採集部位だけど、なんだろこの量は、結構あるというかこれだけ有れば十日以上狩をしなくてもノルマ達成できるな。


「リャー、アラね頑張ったんだよ」


「旦那様の入られた地下室に鬼が入っては一大事でしたので近づいてくる魔物だけでなく、周辺にいる個体全てを排除いたしました」


 つまりはこの周辺一帯でサーチ&デストロイをしまくって、文字通り皆殺しにしたってか。


 まあ、さっきのオークを倒した戦いを見る分には少数への奇襲が成功すれば瞬殺できそうだもんね。


「オーガや、トロルも大丈夫だったのか」


 さすがにこの二種類は強いだろうし。


「ええ、幸いどちらも一、二頭でしか行動してませんでしたから。毒に抵抗される場合も有りましたが、その場合もアラ様の魔法で動きを止めている間に数回切り付ければ何とかなりましたので」


(確かに異常状態は強い相手ほど抵抗されるが、回数を重ねれば確率が上がるからのう)


 てことは、下手をすれば毒が効かなくて反撃される可能性も有ったって事だよね。


「あまり無茶をしないでくれ」


「も、申し訳ありません、わたくしのせいでアラ様を危険な目にあわせてしまい」


 あれ、なんか勘違いされた。怒ったつもりは無かったんだけどそう取られちゃったかな。


「あのねリャー、アラがね、やろうっていったの」


 あ、アラが庇ってる、ひょっとしてアラにも俺が怒ってるように取られちゃったのかな。


「怒ってるわけじゃない心配しただけだ、二人とも女の子なんだから怪我をしたら大変だろう」


「二人ともという事は、わたくしもですか」


「当り前だろう」


 なにを言ってるんだろうこのお嬢さんは、心配するに決まってるだろうに。


「そんな、旦那様もったいのうございます。わたくしごときに旦那様の御心を割かれるなど」


 いや、そんな赤い顔してちょっとどうしたの。


「と、とりあえずミムズ達と合流しよう、まだ戦ってるみたいだからな」


(やれやれ、相変わらずじゃのうお主は)


 






「おお、リョー殿、戻られたか、して首尾はいかがだった」


 ミムズが槍でオーガを突き刺し、壁に貼り付けて動きを止めてから剣で止めを刺す。俺等に気付いて声を掛けながらこれかよ、ずいぶん強くなった気がするな。


「この先は行き止まりで特に何もなかった。魔物が幾らか居たが、あらかた片付けた」


 主にアラとトーウがね。


「そうかさすがはリョー殿だな、それと先ほどは済まなかった」


 ん、こいつに謝られるようなこと何かあったっけ。


「リョー殿が我らを残して先に行かれたのは、ここで我らがオーガの相手をする事で大型の鬼との戦い方の確認と、先日の戦闘で出来た苦手意識を払拭するためなのであろう」


 え、なにその俺に都合のいい解釈、しかもこいつに苦手意識なんてあったの。


「確かにこの場ならばリョー殿達が先行して前方の魔物を排除すれば、我らは後方のみを警戒するだけで済むゆえ」


 まあここは広い一本道だから、俺らが先に行けばミムズの言うとおり後ろからくる敵だけだろうけど、そんなつもりこれっポッチもなかったんだけどな。


「おかげでこの通り」


 二頭のオーガに迫られたミムズが姿勢を低くして攻撃を躱し、そのまま槍の二連突で一体の両膝を潰して動きを止め、崩れ落ちる相手の体を目隠しに使ってもう一頭の死角に回り、氷の矢を三本放って致命傷を与える。


「オーガが二頭でも容易く倒せるようになった」


(ふむ、戦い方が上手くなったのう、スキルやステータス自体はこの短期間で上がったとはいえ高が知れておるじゃろう、お主の戦い方を見て学んだのかもしれぬのう)


 うーん、脳筋が少し賢くなったって事か。


「プテックも、慣れた」


 プテックの持つ斧が黒味を増して地面を打つと、それだけで爆弾が爆発したかのように辺り一帯が大きく揺れる。


 その隙にプテックは一気に駆けて揺れで転倒した鬼達との距離を詰め、重量が増したままに見える斧を振るう。それだけで攻撃を受けた鬼の半身が吹き飛ぶって、なんだろこっちは脳筋がさらに増したような。


「敵全部、動きを止めれば、大技も、全部、当たる」


(ふむ、これもお主の戦い方を参考にしたのかの、閃光の代わりに揺れを使ったようじゃの)


 ああ、夜間戦闘でゴブリンの視力を奪ったあれか。


「リョー殿のおかげでミムズ様達が成長する事が出来ました。御礼申し上げます」


 ディフィーさんがオーガの首を素手で捻じり折りながら言ってくるけど、普通それは素手で折れないよね。


「ですが、これ以上戦いが長引けば『拠点』に帰るのは夜になってしまいますね」


 確かにオーガはもう残ってないけど、オークやゴブリン、それにトロルがまだ結構な数残ってる。


 ラッテル領の連中はもう大分へばって来てるな。


「もういいでしょう、サーレンお行きなさい」


 崩れ落ちたオーガの死体に片足をかけながらディフィーさんが右手を大きく振るう。


「え、え、それって、サーレンがアレ全部ですか、サーレンだけでやるんですか」


 反論していたサーレンさんの声を別な音がかき消す。


「二度は言わせないで頂戴、サーレン」


 音の原因はディフィーさんの足元、一撃でオーガの頭部を踏み砕いた音だ、てか服を汚さないとか言ってなかったっけ。いやでもスカートは汚れてないか、黒のブーツにしか血が付いて無いよ、狙ってやったのかな。まあ威嚇には最高だろうけど。


「は、はいいい、サーレン行きますー」


 うん、サーレンさんには効果大だったみたいだね。


「行きますよ、サーレンはやっちゃいますよ。うおおおお、オオーーーン」


 サーレンさんがかけながら四つん這いになっていく、これは『獣態』か、サーレンさんだと狼かな、てえええ。


「グルルルル、ガアア」


 でかい、確かに狼だけどサイズはゾウかサイかって感じだぞ。ミーシアやプテックもでかかったけど、あれは種族的に大型の猛獣だったし、それでも三メートルくらいなのに、サーレンさんは明らかにそれより一回りはデカい、狼ってどんなに大きくても二メートル行かないよね。


「ガルアアア」


 サーレンさんがトロルに圧し掛かって数回ハムハムすると、それだけで回復力の高いはずのトロルが動きを止める。動かなくなったトロルに興味を失くしたサーレンさんは、また次のトロルへと飛びかかる。


 もうこれは猛獣と言うよりも怪獣だよね。


「さて、サーレンだけだと不安ですしわたくしも行きますか」


 俺の隣でディフィーさんが変身して鬼の集団の中へ四足で駆けていく、尻尾の一振りで数匹のゴブリンが血反吐を吐きながら吹き飛ばされ、悲鳴を上げて必死に抵抗するオークが巨大な口の間に消えて行く、うん、咀嚼する牙の間から片手と両下腿だけが出てるのがとってもホラーと言うかダイナソー、うんほとんど恐竜だよね、もしくはモササウルスかな。


(しかし、これは信じられぬの)


 おお、首飾りが驚いてるよ。お、プテックも変身したけどサーレンさん達と比べると小さく見えるな、ほんとはとんでもなく大きい猛獣なのに。


(それで何が信じられないんだ)


(サーレンとディフィーじゃ、あれほど大きな『獣態』は普通ならばあり得ぬのじゃ、げっ歯類や鳥のような小型種の『獣態』が人よりもやや大きくなることは珍しくないが、元々が大型の種族は本来の獣の大きさをそこまで超えないはずなのじゃ)


(ミーシアはどうなるんだ)


 確かミーシアのサイズも普通の白熊よりも大きいよね。いくらなんでも三メートルは無かったはずだから。


(あれはお主の『成長補正』の影響じゃ、言い方を変えればそう言ったスキルなどの補助が無ければあそこまで大きくなることはありえないのじゃ)


 うーん、他のリューンの連中が実年齢より成長してるのと関係あるのかな。


(今にして思えばプテックとミムズも異常じゃ、『重砕』の装備は強力なだけに攻撃力を上げればそれだけ重くなる、スキル無しで地面があれほど揺れるとなれば斧の重量はトン単位じゃぞ、それを走りながら片手で易々と振りまわすなど『剛力』や『金剛力』が有ったとしても相当レベルを上げねばならぬ、少なくとも『斧騎士』と『獣戦士』程度の職では種族特性が付いたとしてもそこまで腕力が上がるとは思えぬ)


 ミーシアでもさすがにそこまでの重量は無理かな、でも『成長補正』で強くすればいけるのかな。


(ミムズにしても『氷陣構築』など本来は一人でできる魔法では無かろう、少なくとも『魔術騎士』ごときでは不可能じゃ)


 このバカ首飾りそんな重要な事に今まで気付かなかったのかよ。でもそれだと。


(という事は、ミムズ達を始めとしたリューンの連中は通常のレベル上げよりもステータスの上りが良いって事か)


 まあゲームなんかじゃそう言った方法も有るよね、成長率アップとかステータスアップとか。


(もしくは何らかの薬物や儀式などでステータスを無理やりにあげたかじゃろうな、ディフィーとサーレンのステータスは『偽装』されておるのかもしれぬ)


 ああ、主従がみんな『隠蔽』じゃ怪しすぎだもんね、それにしても有るのかドーピングアイテム、それなら俺も強くなれるんじゃねえか。


(じゃが、そういった物はどれも貴重で高価じゃ、使い捨てになる分『魔道具』よりも貴重かもしれぬ、それに一つ当たりの効果はそれほど高くは無い)


 ああ、それじゃあ厳しいかな、ゲームとかならドロップ出来る魔物がいたりするんだけど。でも。


(それだとおかしくないか)


(そうなのじゃ、王族の護衛とはいえ実績の無い一騎士や使用人にこれほどまでつぎ込むとは思えぬ、儂ならばより実戦経験の高い即戦力に使うの)


 そうだよな、ステータスが同じならスキルや判断力なんかが実力の差になるんだから俺でもそうするかな、でもこれはゲームなんかでの判断だしな、政治とかが絡めば違うのかな。


(例えば、王族に無私の忠誠を払えるように、幼少期から英才教育と思想教育をしたとかはあるか)


 世界史とか戦国時代とかでそんなのを聞いた事が有るかな。


(ふむ、それならばあるかもしれんのう。特にディフィー達があれ程規格外の大きさになっている事を考えれば、胎児期からそう言った薬が投与されていたのかもしれぬからの)


 胎児期から薬って、それはもう人体改造に近い物があるんじゃないかな。


「さてと、無事終わりましたね、それでは野営地に引き上げましょうか」


 何かをかみ砕く音と共にディフィーさんが発した言葉に周囲を見回すと既に生きている鬼はいなかった。



次は25日に更新予定です。


H27年9月21日 誤字、鉤カッコ修正しました。

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