101 チョロイン?
「リャー、こっちこっちー」
アラが手を振って俺を呼んでるけど可愛いなー、足元にゴブリンの死骸が大量に転がって無けりゃね。雷魔法で攪乱して、細剣で一気に切り刻むって……
「旦那様の行く手の邪魔はけっしてさせません」
向こうじゃトーウが戦ってたけど、今はもう周りに立ってる鬼はいないし。全部地面に倒れて、小刻みに痙攣しながら口から何かどす黒い物を吐き出してるから、あ、痙攣が止まった、死んだのか。
「旦那様に頂いた、この爪のおかげで、とても戦いやすうございました」
うん、とってもいい笑顔なんだけどさ、その凶悪な鉤爪を撫でながらってのはちょっと。
あの鉤爪、トーウにも武器が必要だって言うラクナの勧めで買ったけどさ。アニメやマンガなんかでよくある、手首や手の甲から爪が生えてるんじゃなくて、とある街の怖い夢に出てきそうな、指先から細長い刃物が生えてる手袋だもんな。
(なあラクナ、他に装備なかったのか)
もうちょっとお嬢様らしい、かわいいやつとかさ。
(仕方あるまい、トーウの戦闘スキルの半数は毒爪じゃろう。ああいった生爪や指先と触れ合う武器じゃと、スキルで作られた毒が鉤爪の表面に浸透していくのじゃ)
ああ、それでか、トーウの爪が掠ったゴブリンが、しばらくすると悶絶しながら崩れ落ちていった理由がよく解ったわ。
うん、『毒士』とか『暗殺者』にぴったりの武器だったんだね。でもやっぱり怖いかな。
「それで、旦那様これからどちらに向かわれますか」
痙攣してるゴブリンに止めを刺して、採集物の爪を切り取っているトーウが聴いてくるけど、血まみれの鉤爪をこっちに向けないでほしいな。
(現在地じゃと第二拠点と、第三拠点の中間あたりじゃろうが、どちらに行くかのう)
うーん、とりあえずノルマ分は狩ったし、どうするかな神殿とミムズ達か。
(今受けておる用事は、武具の回収及び『活性化』の防止、変異種オーガの捕獲もしくは情報収集、ミムズ達の戦闘訓練、後は『魔道具』の売却および奴隷情報の収集と言ったところかのう)
うーん、やっぱり普通に考えるなら、確実にできそうな仕事から片付けるべきかな。
変異種オーガはどこにいるか解んないし、もしかするとあの三匹しかいないかもしれないから。第一どこを探せばいいのかもわからないし、普通にエンカウントする可能性もあるんだから、無理に探さなくてもいいか。
(神殿の依頼からだろうな)
報酬が宝物庫に有る『勇者の武具』以外の物だから、『魔道具』が有ればそれでパルスの依頼を一部達成できるし、ミムズの相手は面倒だから後回しにしたいし。
よし、決定だな、でもこれがゲームとかなら、こういう何時行ってもいい固定イベントを始めると、ストーリーが進んだりするけど、まあ現実でそんなことは無いよね。
「これから第二拠点に向かうぞ、実は神殿から依頼を受けていてな」
「わーた、たしかあっちだよね」
「まあ、神殿からの依頼を頂けるなんてよほど信用がないとありませんのに、流石は旦那様です」
(実際はそれほど珍しい事ではないのだがのう)
「ではリョー殿、まだ二日目だが、さっそく依頼の遂行をして頂くという事でよろしいか」
なんだよその訊き方、引き返せなくなるイベントの開始みたいじゃないかよ。
「ああ、そっちも早々に済ましたほうが安心できるだろう」
「確かにそれはありがたい話ですな。それでは不肖ラッド以下十名がお供いたします」
ああ、これでしばらくはマッチョに囲まれるのか、でもまあ夜よりはマシかな、何しろ狭いテントの中にアラとトーウの三人で押し込まれて、なにかあるたびにトーウの肌がふれて全然寝付けなかったし……
「目的の場所はこの『拠点』の近くですが、斥候の話では目的地までの途中に、幾つか魔物の巣が有るとの事なので、それらを撃破しながらになると思います。場合によっては一日での強行軍はせず、ここと往復しながら、徐々に排除していくことになるかもしれません」
まあ、そうだよね。直ぐ行って帰れるようなところにお宝を隠す訳ないもんね。
「解った、確かに無理をして被害が出るのは得策ではないだろうからな」
それが原因で、『活性化』が近づいたらもっと面倒なことになるもんね。フルメンバーじゃないのにボス戦とかできればしたくないから、『青毒百足』の時も大変だったし。
「さて、それでは行きますか、リョー殿がどのような強さを手に入れたのか見るのが楽しみですな。『勇者』と共に戦えるなどめったにない僥倖ですから」
あれ、ひょっとして、俺の半端な戦闘力の事を知らないのかな?
(まあ、『勇者』が弱いなどと発表すれば大事になるじゃろうからの、もしかすると、僧兵などには知らされてないのかもしれぬの)
(という事は、ラッド達にもばれない様に戦わないとならないって事か)
おいおい、マジかよ、シャレにならんぞそれは。
(そうなるのう、お主が得意とする『軽速』と『切り裂き』で誤魔化すよりないかもしれぬの。あるいは、アラ達の特訓中という事にして、お主は前に出ないかじゃの)
ああ、それは面倒だな、まあもうすぐ出発だし、歩きながら考えるか。でもなんか『拠点』の外が騒がしいな、戦闘って感じじゃなさそうだけど、どうしたんだろう。
「リャー、あえ、ミムズだよ」
げ、なんでここに居るんだよ、せっかく違う『拠点』にしたってのに。
「おお、リョー殿見つけたぞ、貴殿がこちらに居ると聞いてな。どうせなら昼間だけでも共に行動しようと思ったのだ」
おいおい、俺狙いなの。
「姉さま、早すぎ、少し眠い」
あれ、プテックが眠そうにしてる、普段表情がない分めずらしいな。この言い方だと、ひょっとして俺が出発するより先にここへ着けるように、早起きしてきたのかな。
「おはようございますリョー殿。ミムズ様がどうしてもと仰いますので、どうかよろしくお願いします。もちろん内容に応じて授業料は支払わせていただきます」
授業料か、相手が相手だから額も期待できそうだな。でもな、今日は神殿の仕事が有るからな。
「頑張りますよー、サーレンは頑張って誉めてもらいますよ」
深々と頭を下げているディフィーさんの隣で、サーレンさんが飛び跳ねてるけど、元気だなー。というか二人ともメイド服で戦うつもりなのかな。まあサミューも似たような格好だったし、メイドさんてそういうものなのかも。
「お、おやリョー殿ではありませんか」
ん、後ろから声かけられたけど、この声は、まさか。
「い、いや偶然ですな、我々は偶々こちらに来ていたのですが、まさかリョー殿とお会いできるとは」
偶然っておかしいだろ、ミムズ達もそうだけど、他の『拠点』にいるはずのこいつらが、こんな時間にここに居るはずないだろ。探索中とかならまだ解るけどさ、プテックの言ってたみたいに早起きして、まっすぐに来ないと無理だろ。ほんと何やってるのこいつ等、こいつ等の目的は少しでも多く戦果を挙げる事だろうに。
「おや、そちらに居られるのはキッシュ卿ではないか」
あ、そう言えば、ミムズはムカデの件でキッシュ達への心証は最悪だろうな。
(儂としては、平然とキッシュ達の相手が出来ておる、お主の方が変だと思うがの)
(もう済んだ事だろ)
まあ、実際はそうかもしれないけど、お互い事情が有る事だし、今になって変な態度を取るとトーウに悪いしさ。
「こ、これはラースト卿、御無沙汰しております」
ああ、キッシュ達が緊張してるよ。まあそうだよね、あの時の一件から会うのは初めてだろうし。
「気になさることは無い、ラッテル領の事情についてはうかがっている。それにあの一件については、不問にすると決まった以上、それを蒸し返すつもりはない」
ああ、キッシュ達があからさまに安堵してるな。
「それじゃあ俺はこれで」
うん、こいつらと一緒だと碌な事にならない気がするし、ラッド達を待たせてるからな。
「ま、待たれよリョー殿」
「我らもお供しよう」
ああ、やっぱそう来るよね、どうするかな神殿側としても、この件は秘密にしたいだろうし、どっかで撒かないと。
「いやはや、流石はリョー殿のお知り合いですな、皆さん優秀だ」
感心したようにラッドが眺める先では、大量のゴブリンの群れと戦っているミムズ達がいる。
「はああああ、『連刺陣』」
うわ、一本しかない槍が何十本にも見えたよ、一瞬で周りにいたゴブリンが穴だらけになってるし。
「邪魔」
プテックはスキルも使わずに、力任せに斧を振り回してるけど、その度にゴブリンが血しぶきを上げながら吹き飛んでってるし。
まあ、あの二人が強いのは前から見てたもんな。でもな……
「いきますよ、いきますよ」
振り降ろされたゴブリンの剣が、サーレンさんの剣とぶつかると同時に弾き飛ばされ、返す刃がゴブリンの胸元を切り裂く。
「まだまだ行きますよ、やっちゃいますよ」
サーレンさんの剣が光を弾くたびに、ゴブリンの持っていた武器が手から離れて、その直後には持ち主が斬り倒される。
先に相手の攻撃手段を潰してから、止めを刺すのがサーレンさんの戦い方なんだな。性格的にもっとガンガン行くのかと思ったのに、意外と堅実なんだな。ミムズも彼女を見習えばいいのに。
「まったくサーレンは、あんなに返り血を浴びて、お国より頂いた侍女服を汚すだなんて。あれは徹底的に洗濯をさせないとダメでしょうね」
そう言いながら袖まくりをしたディフィーさんが拳を振るう。右の拳を受けた一匹が、腹を押さえて口から大量の血を吐きながら崩れる。あれは内臓をヤッたな。
同時に左の手刀を側頭部に食らったもう一匹は、鈍器で殴られたように頭蓋骨が陥没し、殴られたままの勢いで吹き飛ぶ。
「やはり素手ですと、返り血を浴びる事もほとんどありませんし、仕留めたかどうか手応えで解るのでいいですね」
なんだろう、多分合理的な考えなんだろうけど、ディフィーさんが言うと、とっても物騒に聞こえるな。
「後ろからですか、獣らしい考えですがわたくしには効きません」
ディフィーさんの尻尾が跳ね上がり、彼女の後ろに迫っていた二匹のゴブリンが鈍い音と共に左右へ吹き飛ぶ、どっちとも首が有りえない角度に曲がってるんだけど、即死だろうな。まあそれよりも……
「黒でしたな」
ラッドの野郎、坊主なのにガン見してやがった。でもまあ仕方ないよね、尻尾の動きのせいで思いっきりスカートが跳ね上がったから。しかし、レースのガーターベルト付とは。
「これはお恥ずかしい所をお見せしました」
スカートの後ろを押さえて、こっちを振り向くディフィーさんはかわいいけど、なぜだろう『見た者を食い殺す』と目が語ってるように見えるのは、多分罪悪感のせいだよね。
さ、さて、ラッテル領の連中はどうかな。
「臆するな、我らが力を合わせればこの程度の数のゴブリンなど」
キッシュの指揮のもとで陣形を組んで、ゴブリンの群れを抑え込んでるな。
「カンソウ、手柄を急いて飛び出すでないぞ、未熟者だからと言って魔物は手加減してくれぬぞ」
「シンク様こそ、もう御年齢が御年齢なのですから、無理はなさらずに」
軽口を叩きあうくらいの余裕が有るなら、大丈夫なのかな。
一定の距離間隔で並んで、お互いにサポートし合ってるのか、一人が遠隔攻撃スキルでゴブリンを削って、その隙を突こうと肉薄してきたのを、右隣りの騎士が盾と剣で防ぎ、左隣が近接範囲スキルで仕留める。うーん息が合ってるな、まあ倒すペースはミムズ達に比べて遅いけど。
(地方の小貴族の家臣ならば、こんなものじゃろう。王族の近臣や、『迷宮討伐』を主任務とする僧兵等と比べる方が酷じゃろうからのう)
そう言うもんですか、しかしまいったな、このまま付き纏われちゃ宝物庫に行けないよ。
「ラッド、後どのくらいで着くんだ」
「思った以上に短時間で魔物を排除できたので、おそらくあと一区画程度かと」
だよね、どうするかな、もうゴブリンは全滅しそうだし、わざと回り道して隙を狙うかな。
でも俺等だけならともかく、僧兵連中も入れると結構な人数になるから、難しいかも。
「グガアアア」
あれ、この叫び声はゴブリンにしてはデカい気が。
「オーガだ、オーガが出たぞ」
騎士連中の指差す方を見ると、確かにオーガが集団で向かってきてる。
(変異種は居ないようじゃのう、どうするのじゃ)
オーガか、角はそれなりに金になるけど、倒すまでの労力や時間を考えると、ゴブリン狩ってた方が利益率が良いんだよね。
どうするかな、ん、まてよ。
「ミムズ、俺達はこの先の状況を確認してくる。この場は任せたぞ」
うん、ミムズ達に任せれば、戦わなくて済むし、こいつらを引き離せるし一石二鳥だな。
「ま、待たれよリョー殿、自分達と共に戦わぬのか、リョー殿」
「リョー殿、我らは出来る事ならば、トーウ様の警護を……」
まあ、普通はそう言う反応するよな。
「確かにオーガの相手は危険だ、だが『大規模討伐』のこれからを考えるなら、この先の状況確認は必要だ、なあラッド殿」
必死に目配せをして、ラッドに同意を求める。
「う、うむ、確かにそうだ、我ら僧兵だけでは見落としも有るかもしれないので、冒険者のリョー殿にも同行願いたい」
よしよし。
「というわけだ、先行する友軍の後背を守ると言う、危険だが名誉ある役目は誰にふさわしいのか」
ミムズの事だから、こう言えば。
「その役目がふさわしいのは騎士に決まって居るではないか」
よし釣れた。
「プテック、ディフィー、サーレン、恐れることは無い、我らが力を合わせればこの程度の数のオーガなど。リョー殿この場は自分達にまかせて、安んじて先に行かれよ」
チョロイ、こんな簡単な挑発に乗るなんて、チョロすぎるぞミムズ、これからはチョロインって呼ぼうかな。
「ラッテルの騎士達よ、我ら自身が犯した罪を濯ぎ、捨てた名誉を取り戻すは、今この時この場所ぞ。命よりも名を惜しめ、ほんの僅かでもよいリョー殿への恩義を返す事を考えるのだ」
何だろう、キッシュ達の物言いが、かなり物騒な感じがするんだけど。なんか自爆攻撃までしそうなセリフだよな。
まあでも、ミムズ達がというか、ディフィーさんがいれば、あのくらいのオーガは何とかなるよね。うんそれよりもお宝お宝。
すいません上手いタイトルが思いつきませんでした。
しかも、今回で武具の回収が終わってるはずだったのに、まだたどり着いてすらいない。このままだと大規模討伐の話数が予定よりも多くなりそうな気が……
H27年9月18日 誤字修正しました。




