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10 黒の娘

お待たせしました、女の子登場です。

 王の部屋の背後、下り階段を進んだ先にそれはあった。


「『社核』とよく似ているな、どこもこうなのか」


(多少の違いはあるが、大体は同じじゃな)


 目の前には浅い泉の上に浮かぶ半透明の『迷宮核』、これに触るだけでいいのかな。


(後は『迷宮核』に触れればよい、必要なことは儂がやろう)


 よしそれじゃ、その前にやるか、アイテムボックスのここらへんに入れたはず、後はリュックの水筒の中に。


(何じゃそれは)


「最後の晩餐だよ」


 禁欲まみれの神殿で手に入った唯一の物、小さな干し肉と数口分の酒。


 質、量ともに不十分だけど、これから数年は口にすることができなくなることを考えればさ、どんな食物よりも贅沢に見えるよな、ゆっくりと味わって食べないとね。


 干し肉を小さく千切ってかじる、む、これはかなりしょっぱいな、でも噛むたびに脂の旨味が口の中に広がっていく、ああ久々のお肉だ、出来れば焼き肉がよかったけどこれもいい、しかしこれだけしょっぱいと、酒が欲しくなるよな。


 水筒を振る、やっぱりちょっとだけだな、一口分流し込む。


「クー、効くー」


 蒸留酒かな、こりゃ結構度数高いよな、日本でいえばウィスキーみたいな感じか。


 水で割って、チビチビやりゃだいぶ持つかも。いやいや、せっかくの酒だし原酒のまま楽しんだ方がいいよな。


 干し肉と酒を同時に一口ずつ。


「うーん、たまらん」


 もう一口、ああ最高、一月ぶりの酒盛り、もう一口。


「いやー、苦労の後の一杯は最高だな」


 もう一……


「あれ、あれ、あれ、うそだろ」


 もう残っていない……こ、これだけか、まだ水筒の中に一滴か二滴くらい、指にも肉の味が残ってるはず。


(のう、いい加減にしてもらえぬかの)


 呆れたようなラクナの言葉に、我に返る。はあ、短い晩餐だったな、もうちょっとあってもよかったのに。


(早く始めぬか、早くせねば上層より新たなゴブリンが降りてくるぞ)


 それを早く言ってくれ、キングや鎧達の装備にゴブリンの爪だって出来るだけ回収したいんだから。


 泉に入っていき、深呼吸ひとつ、やっぱりまた痛いのかな、やだな。


 だいじょうぶ、これで二回目だ、なれたなれた、きっと、たぶん。


 ゆっくり右手を伸ばす、指先に痛みとしびれが走る。


「痛っ」


 あれ、これで終わり、なのかな。


(フム、予想よりも霊気がなかったの、これでは魔道具はできぬか。お主の回路もわずかしか書けぬのう。いや危うかったのう、もっと少なければこの部屋に立ち入る事すら、出来なかったところじゃ)


 まあ、ゴブリンしかいないダンジョンだしそんなものなのかな~


「よし、それじゃあ、帰るか」


(どこにじゃ)


「それは……神殿だろう、とりあえずは」


 うん他に帰るところはないよな、家には帰れないし。


(それはできぬぞ)


 はあ、マジですか。


(僧兵以外の男が男子禁制の神殿へ頻繁に出入りすればどうなる、諸国にお主が勇者だと言っておるようなものじゃろう)


 まあ、そうかもしれないな。


(それでお主が弱小だと知られてみい、どうなると思う)


 またお約束の刺客がってやつか、殺されるのだけは嫌だよなあ。


「わかった、俺はここを出たらどうすればいい」


(馬車にて七日も移動すれば手頃な街があるの、冒険者もそれなりに居るし、レベル上げに最適な迷宮も近くにあるでの)


 そりゃいいな、そこで仲間を見つけてパーティーでダンジョン攻略だな。まずは魔法使いを絶対に仲間にしないと、後は前衛とシーフ役、回復役なんかかな、よしよし次の目標ができたぞ、でもその前に。


「回収だな」


 ボスの部屋に戻ると、ゴブリンキングや鎧の死体の装備を外しにかかる、前なら死体に近づくなんて考えられなかったけど、これもこっちに慣れたってことなのかな。


(お主、やることがせこいのう)


「ふん死人に武器は必要ない物だろう、ここに放置してもゴブリンの装備になるか、どこかの冒険者が回収するかだろうが。それなら換金して勇者が役立てた方がよっぽど有効活用だ」


 ごめんなさい、ごめんなさい、そう言う事なので祟らないでくださいね。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、ん、そういえば全員同じ装備だ、どこかの軍隊か何かかな。


 同じものが三つまでしか保管できないんじゃ、ほとんど回収できないか。ゴブリンの爪だけはできるだけ回収しないと、って。


 鎧の兜を脱がすと、とんでもなく整った顔だった。色素の薄い髪と浅黒い肌、頬が少しこけている事と、死体であることを除けば相当なイケメンさんだな。


(珍しいの、ダークエルフがこのような所にいるとは)


「エルフ、確かに耳がとがっているな。そんなに珍しいのか」


 ファンタジーじゃ常連さんだよな、まったく珍しくない。


(ダークエルフを含む魔族は人の諸国から見れば敵対者じゃからのう、この辺りに来るなどよほどの事じゃ)


「ダークエルフは魔族の括りか、エルフやドワーフはどうだ」


(一応は人の同盟者じゃな)


 まあお約束か、エルフとダークエルフが敵対してて、人間はエルフ側ってか、ゲームなんかでもたまに敵で出てくるよな、あれおかしくね。


「なあ、ダークエルフって強いよな」


 中盤のボスだったりするよな、なのにどの鎧を剥いでも出てくるのはダークエルフの死体だけだ。


(確かにのう、剣、弓、魔法どれをとっても優秀な種族じゃな、腕力は低めじゃがそれを補って余りある素早さと魔力があるの)


 だよなあ、じゃあやっぱりおかしいよな。


「それがフル装備してて十数人でパーティー組んでるのに、ゴブリン相手に全滅か」


 俺でも、何とか一人でクリアできるレベルのダンジョンだぞ。


(フム、おそらくは衰弱していたのじゃろう、どれも少し痩せておる、ダークエルフばかりでは食料を買うことも出来なかったのではないかの)


 確かに、金は結構残ってるのに荷物袋に入ってる食料は木の実や山菜など、自分たちで取ったと思わしき物だけだ。


 ボス部屋を後にし、出口に向かいながら回収を続ける、いやー大量大量。


(フムおかしいの)


「なにがだ、説明は短くな」


 今は、収集で忙しいんだからな、相手はしてらんないぞ。


(装備や鍛え方を見るに練度が高そうなのじゃが、逃げ出そうとしておるものが何名かおる)


「それは、解るものなのか」


(倒れ方からの推察なので、間違いもあるかもしれんが、出口方向へ向かっているように見えるのじゃ)


「で、それがどうした」


 別にどうでもよくねそんな事は、ん、この死体ずいぶん変な格好で倒れてるな。


(まるで何かを抱え込んでいるようじゃな)


「装備は他と同じか、なら財布の回収だな、ひっくり返すか」


(お主は遺体の尊厳をなんと心得ておるのじゃ、む、この娘生きておるの)


 ひっくり返した死体の下には唯一の生存者がいた。


 やや暗めの金髪はフワフワしていて、指を入れると気持ちよさそうだな。

 まっすぐにこちらを見つめてくる大きな赤色の瞳の間からは、キレイに整った鼻梁が真紅の唇へと延びている。

 うーん、これは十人に聞けば十人がかわいらしいって言うんだろうな。この容姿で成人すれば、もう誰もが見とれるような絶世の美女になるかもしれないな。

 そして、他のダークエルフよりも色の薄い褐色の肌を隠すものは何もない、だがそれ以上に……


「なんでこんなところにこんな子を連れてきたんだ」


 どう考えてもおかしいだろ、命がけの現場に連れてくるはずがないだろ。


(ふむ、この肌の色はハーフのようじゃの)


 いやそんなのはどうでもいいだろ、それよりも。


「なんで、なんでこんな幼児が『迷宮』にいるんだ」


 無警戒な笑顔をこちらに向ける女児は。どう考えても三歳か四歳ぐらいだよな。


 普通こういう所で出てくるのは、いくら幼くても二桁は行ってるもんじゃないか。


「きゃは」


 あ、かわいい、でも見なかったことに……


「さて次に行くか」


(お主、自分が何を言っておるかわかっておるのか)


「連れて行っても戦力にはならないだろ、移動速度も落ちるし食料も消費する、隠れてる時に泣き出したらどうする」


(それはそうじゃが、本気で置いて行くつもりではあるまいな)


 いや、でもさ、視線を幼女に向ける。


「えへへ」


 あ~癒されるな~いかんいかん。


「抱いて行けば剣が振れ無くなるだろ、だが歩かせたらどれだけ時間がかかるか」


(ここに置いて行けば確実にゴブリンの餌食じゃぞ)


 う、ちら、動かない鎧の表面をぺたぺた叩いてる、う、うーん。


「所詮他人だ、神殿側からすれば敵なんだろう」


(それはそうじゃが、心は痛まぬのか、無垢な幼子が生きたままゴブリンに貪り食われるのじゃぞ)


 いや、あの、えっと、う、イメージしちゃった。


 ああーもう、解ったよ解りましたよ、迷宮出るまでの辛抱だ、そしたら適当な孤児院にでも放り込めばいいんだ。


 幼女に近づき、しゃがみ込む。


「だえ、おにちゃん、だえ」


 舌っ足らずだな、あれ泣きそう、やめてくれゴブリンが寄ってくるんだから。


「だえ、だえ、あ」


 お、泣き止んだ、ん、視線が一点に、俺の首元に。


「これが気になるのか」


「そえ、そえ、おにちゃんの」


 ネックレスを摘まむとうれしそうにこっちを見てくる、まあ見た目はきれいな石だもんな、中身は爺だが。


(こら儂を子供のおもちゃと同列に扱うでない)


「おにちゃんだえ、わたしアラ」


「アラかいい名前だな、俺はリョーだ」


「りゃ」


 うーん、これでも発音が難しいのかな。


「リョー」


「りゃ」


「リョー」


「りゃー」


 もういいです、リョーでもりゃーでも好きに呼んでください、ん、隣に落ちてる包みは装備品か、細剣に弓矢、軽装鎧とりあえずしまっとこ。


 あとは一応アラを鑑定しておくか。


アラ・フォティ

ダークエルフ LV2

技能スキル 剣術 弓術 風魔術 闇魔術 植物魔法

身体スキル 聴力上昇 視力上昇

    

 おいおい、なんだよこのステータスは、戦闘スキルも剣や弓、魔法が結構あるし。


(生まれつきスキルを持っている天然ものかもしれんの、これは育てれば掘り出し物になるかもしれんぞ)


 ふーん、つってもさ。


「ダークエルフってどのくらいで大人になるんだ」


 長寿ってのがお約束だよな、てことは。


(そうじゃのう、人の五倍程度の寿命じゃから五、六十年もすれば多少は戦えるような体型になるのではないかの)


 やっぱりね……




ヒロインを期待された方がいたらごめんなさい。

次の投稿もできるだけ急ぎます。


H26年4月11日句読点、一部語尾、霊気に関するラクナのセリフを修正しました。

H26年10月29日誤字修正。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改めて見てみるとリョーは超合理主義者、冷徹で外見から感情を推し量るのは難しい、見の印象では真面目な堅物に見える、今のリャーは性格、雰囲気や言動が以前と比べて大きく変わったですよね。それで最…
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