1 プロローグ
初めての作品投稿でかなり緊張してます、ありきたりな話ですが、よろしくお願いします。
強靭な歯が規則的に上下し、リズミカルな咀嚼音が俺の耳をたたく。
口角から赤い液体と共にこぼれる白い欠片が、岩肌を転がり落ちていくが、そんなものに目を向ける余裕は今の俺にはまったくない。
(見つかったようじゃな)
頭の中に響く相棒の声に視線を向けると、闇の中に魔物の目が無数に光っているのが見え、そこへ相棒が鑑定した結果が浮かび上がる、ほんと便利だな鑑定スキル。
ゴブリン LV(5~8)×24
20匹ちょっとか、苦戦する量じゃないとおもうけど、これは時間がかかりそうだな~
(いやいや、まだ居るようじゃぞ)
なぜか楽しそうな声と共に情報がどんどん追加されるのは、こいつなりに気を使っているんだろうけど、視界が文字でいっぱいになるのだけは、どうにかして欲しいんだけどな。
ゴブリン・ファイター LV9
技能スキル 両手剣
身体スキル 腕力上昇
ゴブリン・ナイト LV9
技能スキル 長剣 小型盾
戦闘スキル 強斬撃
「三つ、ゴブリンなのに三つもスキルついてるのかよ」
(珍しくもあるまい、新兵や駆け出しの冒険者でも、三月もすればスキルの一つや二つは覚えるものじゃ)
「それは俺への嫌味か、おい」
知っていて言ってくる声に、声を荒げるけれど相棒は気にした風もない。
(そらそら、いつまでも食べておらんで早く構えんと仕掛けてくるぞ)
仕方ない、ため息をつきながら食べかけのトマトとカブを捨てる俺に、ゴブリンが殺到してくる、うわ、ちょっと怖いんだけどこれ。
(突進系のスキルがあれば、この程度なら一気に突破できるのじゃがの、もしくは放出系のスキルを、密集しているところにたたき込めれば大半はのう)
「ない物ねだりをしてもしょうがないだろうが」
腰の片手剣を抜きざまに一匹目の首筋を薙ぐ。
血しぶきを駆け抜けると、目の前に数匹が並ぶ。
二匹目三匹目の腹部を水平に切り裂き、二体の間を駆け抜ける。
(やれやれ、ゴブリンごとき豪快に叩き切れんものかのう、ちまちまと急所狙いというのはなんとも)
この戦い方を仕込んだのは誰だか忘れてるんじゃないか、スキル無しで、ステータスも低い状態でどうしろっていうんだよ。
目、喉、脇、腹、刃を当てればそれほど力を籠めずに切り刻める急所を徹底的にねらう。
薙ぐ、避ける、薙ぐ、走る。
目の前に一匹が立ちはだかる。
そのままの速度で肩から突っ込んで弾いて振り向き、後ろから追いついてきた一匹の喉を切り裂く。
(む、レベルが上がったようじゃ)
よし待ってた、これで少しは楽になるといいな~
「ステータスはどうだ」
駆け抜ける足と、切り裂く手を止めることなく、次の言葉に耳を傾ける。
(最大MP、魔力、魔法耐性、魔力制御が上がったようだの)
使えね~、マシなのは最大MPぐらいか、腕力や体力が欲しかったんだけど。
(それでもスキルは覚えたようじゃぞ)
よし来た、覚えるのは無理だと思ってたのにこれで少しは楽に。
(生活スキル、野菜鑑定じゃな)
は?
手元が狂い、ゴブリンの上腕を半ばまで切った刃が骨に当たり止る。
まずい。
次に倒す予定だったゴブリンの剣が光る。
胸に受けた一撃を耐えて、動きの止まったゴブリンを一撃で仕留めて距離をとる。
「なんだ、その役に立たなそうなスキル名は」
(役に立たないじゃと、見ただけで野菜の鮮度、味、栄養価まで解る便利なスキルじゃぞ、農夫や、料理人、農業商人でもなかなか持っておらぬ貴重スキルなのじゃぞ)
感心したような声が響くが、まったく感銘を受けない俺は、そのままゴブリンを仕留め続ける。
「今この場で役に立たないスキルはいらない、第一なんでそんなレアなスキルが俺にくるんだ」
(技能や戦闘、身体スキルを覚え難い分、生活スキルの伸びがいいのじゃろ。歴代の勇者でもよく有ったことでの、野菜鑑定になったのは、お主が野菜を食らう他に何もしてこなかったからじゃろうな)
急に視界を赤い光が埋め尽くし、全身を熱さと痛みが押し包む。
ゴブリンの耳障りな歓声が耳をたたくが、それが別な声にとって代わる。
まあそりゃ火傷が短時間で治っていくんじゃ、いくらゴブリンでも驚くよな。爆風で千切れかけた腕も戻ってるし、それよりも居た、あいつか。
ゴブリン・メイジ LV3
技能スキル 火魔法
戦闘スキル 火弾
身体スキル 魔力上昇
(物陰に隠れて居たようじゃな、儂の鑑定スキルはお主の視界に入る者にしか効かぬでな)
駆け抜けざまにゴブリン・メイジの喉を切り裂くと、唖然としているゴブリン達に背を向け、一気にその場から逃げだす。とりあえずどっかで休まないと、持たないよこれ。
(やれやれ、またかくれんぼかの)
あきれたような声が響くが、それどころじゃない、息が上がり出してるし、足の回転も鈍ってきてる、もうMPが……
大きな岩陰に飛び込み、そこでじっとして呼吸を整えていると、ゴブリン達が目の前を駆け抜けていく。これでしばらくは休めるか。
(MPが戻るまでしばらく休憩か、『子鬼の穴』踏破までの、歴代最長記録がまた伸びるのう、やれやれ低ランク迷宮でここまで手こずるとは)
小言を無視して、MP状況を確認するために俺に鑑定をかけさせる。
やっぱり、MPはほとんど残ってないか、右手にはめた腕輪をなぞり、ため息を吐く。
この腕輪の『超回復』効果は、即死状態からでも復活できるチート能力だけど、MPを大量に消費するしな、それなのに俺の運動能力の大半は、MPを使って強化しているから。
『超回復』一回やると村人A と大差ないんだもんな。そんなことを考えながら他のステータスに目をやる。
腕力、敏捷、HP、その他諸々の物理戦闘系の数値は、強化がなくなったせいで泣きたくなるほど低い、その逆に魔力等の魔術戦闘系だけはかなり高い。
次に視界に入ったスキル欄は全て無視する、どうせ見ても覚えきれないし、役に立たないスキルを延々数えても空しくなるだけだし……
さらに視界を進めると。
サカキ リョウ
魔法士 LV3
勇者 LV2
勇者、それが俺の不幸の始まりだったんだろうな、もう一月以上も前に思いをよせる。
二話はだいぶ行ってるので早めに行けると思いますが、その後は書くのが遅いので・・・
26年1月2日 句読点、段落、語尾等修正しました。
1月11日誤字修正
4月5日、句読点追加修正