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序章2 『導かれるままに』

 雷と豪雨が降り注ぐ夜の森を一人の少女が裸足(はだし)で駆けていた。

 彼女の名はジャンヌ・ダルク。今年で十三歳になる若い女の子だ。

 ジャンヌは豪雨に打たれながらもその歩みを止めようとはしなかった。なにが彼女をそこまで駆り立てるのかは誰にも分からない。

 森の中には熊や狼が数多く生息するため危険な場所となっているが、不思議なことに彼ら肉食獣はジャンヌを見つけてもとって食おうとするのではなく、ただ見過ごすだけであった。まるで通ることをあらかじめ知っていたかのように、誰かに命じられたようにおとなしかった。

 無我夢中に走るジャンヌはうわ言のように「私を呼んでる……私を……呼んでる」と(つぶや)いていた。彼女は決して頭の弱い女の子ではない。同年代の女の子と何ら変わらぬ健気な少女だ。

 日が暮れ、祈りを済ませ、いつも通りふかふかのシーツに身をゆだねながら月を眺めて夜を過ごしていた。それから眠りにおちて夢を見た。激しく降る雨、廃墟となった教会、すっかり古ぼけた彫像。そして目を覚まし、頭に響く鈴の音のように澄んだ美しい声に導かれるまま家を出た。

 やがて彼女の前には夢で見た教会が現れる。

 壁は剥がれ落ちかけている。気のドアも半分朽ちている。中は山賊や獣の根城になっているかもしれない。だがジャンヌはためらうことなく入っていく。

 無人のため中には明かりが灯っていない。時折、窓から射し込む雷の光が辺りを少しの間だけ見せる。明かりといえばその程度だ。

「あなたはどこにいるの? 姿をお見せください」

 ジャンヌは祭壇の前でひざまづくと静かに目を閉じて哀願した。

 声だけでここまで誘導したのだ、いまさら姿を見せるとも思えない。

『よく来ましたね、ジャンヌ。私の声が聞こえたようでなによりです』

「誰? どうして私を呼んだの?」

『私の名前はミカエル。わけあって姿はお見せできません。もうしわけありません』

「ミカエル……もしかして大天使ミカエル様!」

『人はそう呼びます。この国には魔の手が迫っているのを我々は感じています。それはイギリス軍ではありません。もっと邪悪なもの……ジャンヌ、あなたが追い払うのです』

「あぁ、ミカエル様。私は小さな村の一少女でしかありません。剣も魔法も使えない無力な子供です。そんな私にどうすれと(おっしゃ)るのですか?」

『私が力を貸しましょう。私たちの意志を継ぐ者を使わします。その者たちと協力してこの国に平和をもたらすのです』

 突如、まぶしい閃光と共に激しい雷鳴がこだまする。

 おもわず目をつぶったジャンヌは、雨の音すら聞こえなくなったことに違和感を覚えながら恐る恐る目を開けた。

 自分の耳が聞こえなくなったのではないのかと思うぐらい静かだった。それは一種の恐怖にも似た感覚だった。

 祭壇の脇にあった彫像の姿はすでになく、代わりにあったもの……いや、そこにいた(・・)のは――

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