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序章1 『終わりを感じる』

 冷たい秋の風が弱りきった俺の心を揺さぶるように吹き付ける。

 おもわずバランスを崩して落ちてしまいそうだ。いや、いっそのことそのほうが楽なのかもしれない。自分から飛び降りる(・・・・・)には余程の勇気と根性と決意がなければ不可能な話だからだ。

 口元をわずかに(ゆが)めて鼻で笑う。

 これから自殺をするために二十階建てビルの屋上から飛び降りようとするこの俺が勇気だの根性だの語るとは……。

 父親に言われるがままに勉強をし、そこそこいい高校に入った。幼い頃から塾や剣道、空手や水泳、サッカーや少林寺拳法などたくさんの習い事をさせられ、満足に友達と遊んだ記憶がない。いったいどこの英才教育だ? なんて思うかもしれない。だが俺の父親は大企業の社長でも政治家でもない。道庁に勤めるいたって普通の公務員だ。

 俺はそんな父親は大嫌いだった。単身赴任で普段は家にいないくせにたまに帰ってきては俺の全てを奪っていく。まずは俺の部屋からゲームが消えた。次にマンガ、雑誌、テレビ、音楽の順番で消えていった。あとに残ったのは机と参考書、わずかな筆記用具だけだった。無論、そんな俺の部屋に遊びにくる物好きなどいない。周囲の会話についていけない俺は徐々(じょじょ)に友人が減っていった。

 そして一人になった。

 全ては父親が悪いのだ。俺はなにも悪くない。だから最後くらい俺のやりたいようにやらせてもらう。あの厳格な性格の父親が俺の死体を見てどんな顔をするのか想像するだけでもワクワクしてくる! ただ心残りなのがその顔を(おが)むことができないってことだ。まぁ、あの父親が涙を流すところなんて予想もできないがな。もしかしたら俺ごときには流す涙もないかもしれない。

 それはそれで結構。もはやどうでもいい。この世界に未練はない。一分一秒でもこの世界に生きていることがおぞましく感じる。

 焼失は苦しみが長引きそうだ。窒息も一瞬だとは思うが、苦しむ自覚があるのは嫌だ。飛び降りなら痛みはないらしい。落下中に気を失うらしいからな。後片付けは大変だろうが俺には関係ないね。

 どこからかサイレンの音がする。俺に気付いた通行人が通報でもしたのだろうか? だがもう遅い。

 足下を見て高さを確認しながら舌なめずりをする。

 そろそろいこうか。高さ150メートルってところだ。これなら十分に死ねる。


「あばよ、このくそったれな世界! ……そして鷹嶺恵(たかみねけい)


 俺はニッと無理やり笑顔を作ると、夜の街に自分の名前を叫んだ。

 直立のまま前に倒れ、足下にあった地面の感覚がなくなった。そして俺はゆっくりと、だが確実に落下を開始した。

 行き先は天国か地獄か? どうにでもなれってんだ。この世界でなけりゃどこでもいってやるよ!

 そう強く心で思いながら目を閉じた。

 もう二度とこの目がなにかを見ることはないだろう。あったとしてもそこは――

 自分の意思とは裏腹に、俺の意識はふつりと途絶えた。

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