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第一話 押し入れの中

終わります。

 暗く狭い押し入れの中。美奈はそこで膝を抱えて座っていた。静かで、家に誰もいない今は落ち着ける。

 十二月の半ばの寒い夜。美奈は厚着で押し入れの中に入った。隣の部屋に暖房器具があるのだが、美奈はそれを使わせてもらえない。使えば母の絵里に死ぬ直前まで殴られる。

 一度そんな体験をすれば、二度と使おうとは思わないだろう。美奈は賢いため、同じ過ちは繰り返さなかった。


 絵里は美奈に暴力を振るう。それは躾のためではなく、そこにいるから殴るのである。美奈が視界に入れば、気を失うまで殴り続けるのだ。時には刃物や金属で傷付けることもある。今までで受けた一番酷い虐待は、全身が腫れ、血だらけになった状態で冷水を被せられ、真冬のベランダに裸で放置された事だ。手足を縛り付け、猿轡を付けられていたため叫ぶ事も出来ず、ただ涙を流しながら、母の絵里を見ていた。

 だが、そんな理不尽な仕打ちを受けても、美奈は母を愛していた。好きだった。だからこそ、何故自分に酷い事をするのかが理解出来なかった。



 目を開けると、美奈は自分が寝てしまっていたことに気付く。

 久しぶりに得た安眠。どのくらい寝たのか、そう思い、美奈は押し入れから出ようとする。

 だが、


「美奈ちゃああ~~ん? おじさんだよお?」


 聞き覚えのない男の声。美奈は一瞬で固まった。戸にかけていた手をゆっくり離し、音を立てないようにする。

 高い上ずった気色の悪い声。何故、その声の主が自分の名前を知っているのか美奈は分からなかった。

 少し間を置き、冷静に考えられる状態になると、美奈は男が強盗か何かと考えた。しかし、それでは自分の名を知っているはずが無いし、声を出すわけもない。考えれば考える程に恐怖と疑問の念が強くなる。

 そして、この空間も、美奈の恐怖に拍車をかけていた。

 少しでも動けば布団の擦れる音や、木材の軋む音が押し入れの中に響く。そんな事になれば男に見つかってしまう。

 美奈は震える手を口に当て、体操座りのまま動かないようにした。早く男が去る事を願いつつ、必死に待った。

 そして暫くすると、何の音も聞こえなくなり、美奈は自分の心臓のしか聞こえないことに気付く。

 去ったのか――? そう考え、もう一度耳を澄ます。やはり何も聞こえない。それを確認すると、美奈の体から一気に力が抜けた。

 口から吐き出される息は微量だ。息を潜めている間ずっと、美奈は呼吸すらろくに出来ていなかった。そのため肺に入っていた空気は少ない。

 

 何か背中に感じたと思ったら、それは汗。とてつもない緊張に体中から汗が噴き出していた。それは服を湿らせ、美奈の感覚をくすぐる。


(出よう……)


 そう思った美奈は再び戸に手を掛ける。そして緩く開いた。

 美奈は何か違和感を感じた。向こう側に見えるのは見慣れた自分の家。母が使っている化粧水や口紅、鏡などだ。しかし、何処かにおかしさを覚えていた。

 そしてそれは視界の下部分が原因だと気付く。

 視界を移した先、そこには一つの眼球があった。

 丸く小さな目は血走っており、髪は短い。美奈と視線が合うと息遣いが荒くなり、乱雑に呼吸を繰り返している。それは、異常な光景だった。

 

 男に気付き、すぐに戸を閉めようとした美奈だったが、それは割り込んできた男の左手で遮られる。そして、力で劣る美奈は押し入れの中への侵入を許してしまった。

 小太りの中年ぐらいの男。全身毛むくじゃらで、髭は剃ってあるが、ぽつぽつと点で見える毛穴が気持ち悪さをより一層際立てる。薄着だというのに、全身汗まみれで、何度も垂れては落ちを繰り返す。

 美奈は吐き気を催すほどに芯から冷めた。

 後ずさるが、後ろには壁しかない。この時ほど、押し入れに入った自分を恨んだことは無い。戸を閉められ、密室の中で二人となる。暗闇でもよく分かる男の気持ち悪い目にを見た美奈は、そのまま白目を剥き、涙を流しながら気絶した。










 その後は誰も知らない。ただ、とあるアパートの一室の押し入れの中で、女の子の腐った死体が見つかったという。そしてそのアパートを借りていた女とその交際相手が逮捕された。

 女は虐待の事実が浮かび上がり、男は児童ポルノ違反が多々発見されたという。

 


 女の子は小学校六年生の優しい子で、母思いだった。笑顔を絶やさぬ子で、成績も優秀だった。その子は、十二月の半ばから学校に来なくなったらしい。

終わりです!

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