第二話 痣だらけの手
第一話に繋がるようにしています。企画が好きなので、参加するために書きました!
片山修平は三十前になり、彼女もいない今を危惧する至って普通の会社員だった。
転勤のため引っ越す事となり、少し古いアパートを借り、引っ越し作業も飽きてきた今、休憩と称して漫画を読んでいる。つまりサボっているのだ。
「は~。再開っすかな……」
漫画を読む事にも飽き、重たい腰を上げる。その時「よっこらしょ」と言ってしまった修平は、改めて三十路前を確認し、少し気分が落ちた。最近はいつもこの調子だ。
段ボールを運び、荷物を整理する。もともとあまり物を買わない修平なので、そこまで重い物や量は無い。それに重い物は既に業者が運んでくれている。
基本的に作業は楽だった。夜には全ての作業が終わり、落ち着いた時間を取れる。
仕事の後に一服しながら寝そべってテレビを見る。それが修平にとっての至福だった。流れている番組は気にしない。ただ、この状況だけで心地良いのだ。
自販機で買ってきた缶ビールを開けると、それを豪快に飲む。喉仏が上下に動き、冷たい感覚が口を包む。修平は幸せそうな顔をしてそれを飲み干した。そして缶をテーブルに置く。
「くあ~!」
たまらず声を出す。その顔は満足そのもの。「一仕事した後のビールは美味いねえ!」と修平は独り言を呟くが、またそれに寂しさを感じ、修平はまた気分を落とした。だが、酔っているためすぐに機嫌が直る。
「ん?」
後ろを振り向くと、くすんだ色の押し入れが見えた。微妙に開いた戸が気になり、修平は立ち上がる。確かに閉めたはず、そう思いながら、修平は戸に手を掛けた。
その瞬間押し入れの中から小さな手が飛び出し、修平の手首を掴んだ。
「うわあっ」
情けない声を上げた修平。腰を抜かし、倒れそうになったが、手首を掴んでいる手はかなり強く握っており、離さないため、修平は引っ張られるようにして体勢を保った。冷たく白い手。その手は良く見ると痣だらけだ。
何か所にもある痣に、修平は驚く。
そして、気付いた。この手が何もしないことに。
ただ手首を掴んでいるだけで、何もない。ただ、不思議な状況が続く。修平は押し入れの中を確認しようとしたが、それは恐怖のため躊躇われた。
そしてどうしようかと修平が考えていた時。
「……お母さん…………助けてぇ……」
とてもか細く、消えそうな声が押し入れから聞こえた。何か助けを求めている。そう思った修平は、恐る恐る押し入れの中を見た。
そこには何も無かった。
正確には、修平の荷物が少し置いてあっただけ。それ以外何も無かった。
ただ、少しだけ、押し入れの中の隅が黒く変色している所があった。それは、人の形にも見えた。子供ぐらいの。
それからは何も起こらなかった。修平もそこで不自由なく暮らし、今も住んでいる。しかし、押し入れを使おうとすると、何か悲しい気持ちになり、使えなかった。大家に以前何かあったのか聞くことも出来たが、修平はそれをしなかった。お母さんと言う単語は気になったが、深入りしてはいけないと修平は感じたのだ。
最近になって家の中は綺麗に片付いたが、あの押し入れは、あの時の、開けたままの状態になっている。