表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/74

第8話

「う……ううう……、ひ、酷いですわ……」


 泣きじゃくるケティの背中を撫でながら、イリスは溜息を吐いた。

「ごめんなさい、ケティ。あと一年我慢してちょうだい」

「一年……! 本当なら今頃もうここを出て行けていたのに!」

 迎えに来た女官長と共にヴェリオルが部屋から出て行った直後、ケティは隣の自室から飛び出して、ベッドに横たわるイリスに縋りついて泣き始めた。

 そのあまりの泣きっぷりを前にイリス自身は泣き損ねてしまい、溜息を吐きながら、ひたすらケティを慰めていた。

「うう……、すみませんイリス様。イリス様の方が辛い思いをされたのに」

 散々泣いたケティはやっと涙を拭きながら顔を上げ、イリスにぎこちなく微笑む。

 イリスはホッとしてケティから手を離した。

「お腹が空いたわ。食事にしましょう」

「そうですね。準備いたします」

 ケティは部屋の隅に置かれた箱からドレスを取り出して、イリスに見せる。

「本日のお召し物は、こちらで宜しいですか?」

「いいわよ。……荷物も解かないといけないわねぇ」

「そうでございますね……」

 イリスとケティは積まれた箱を見て溜息を吐いた。

「折角頑張って荷造りしたのにね」

 イリスが立ち上がり、ケティはイリスにドレスを着せる。

 最後に乱れた髪を結い直し、ケティは満足気に微笑んだ。

「お食事取りに行ってきます」

「お願いね。私は荷解きをしておくわ」

 ケティがドアに向かい、イリスも積まれた箱の一つに手を掛ける。

 しかしその時、ドアを開けたケティが「あら?」と声を上げた。

「どうしたの?」

「それが……」

 振り向いたイリスに、ケティは綺麗にリボンがかけられた紙箱を見せる。

「ドアの前にあったのですが……」

 一見ケーキでも入っていそうな箱だが、そんなものを贈られる覚えはない。

「……怪しすぎるわね」

 ケティは眉を寄せ、首を傾げる。

「どうしますか?」

「そうねぇ……。開けてみましょうか」

「……いきなり爆発するとかありませんか?」

 え!?とイリスが目を見開く。

「…………」

「…………」

 ケティがそっと箱をテーブルに置き、二人はじっとそれを見つめた。

「まさかそこまでは……、無いと思うけど」

「そうですよねぇ」

「…………」

「…………」

 イリスは箱に手を伸ばし、リボンをそっと引っ張った。

 ケティが箱の蓋に指を添える。

 二人は顔を見合せ頷き、思い切って一気に箱を開けた。


「…………」

「…………」


 箱の中を覗き込み、二人は脱力する。

「なに? これは」

「芋虫、です」

 箱の中にはぎっちりと芋虫が詰まっていた。

 イリスが溜息を吐いて、持っていたリボンをテーブルの上に置く。

「緊張して損したわ」

「そうでございますねぇ」

 蠢く芋虫を、イリスは眉を寄せて見る。

「嫌がらせ……、よね」

「そうでしょうねぇ」

 溜息を吐いて、イリスは肩を落とした。

「芋虫自体より、これだけの数の芋虫を集めた努力に脅威を感じるわ。……捨ててちょうだい」

「はい」

 ケティは蓋を戻し、箱を持って窓際まで行く。

 そして窓を開けて「えいっ!」と気合いと共に箱を外に力いっぱい投げ飛ばした。

「はぁ……。朝から早速きたわね。折角今まで存在感無く過ごしてこられたのに、なんでこんな事に……」

 イリスは俯いて両手で顔を覆い、心の中でヴェリオルに罵詈雑言を浴びせたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ