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最終話

 まるで、あらかじめ決定していたかのように、凄まじい早さで式の日取りが決まった。

 そして国王に結婚に伴い、王弟ランドルフの恩赦、フェルディーナの祖国への援助、ユインの昇格が決定し、ケティには匿名の人物から『続・テラン戦記』が贈られた。


「どうしてこうなったのかしら……」


 純白のドレスを着たイリスが、椅子に座りじっと窓の外を見る。すっかり準備を終え、後は神殿での式を済ませさえすれば、イリスは王妃となる。

「イリス様ぁ、泣かないでください」

 イリスは自嘲してケティを見上げた。

「大丈夫よ。もう涙も涸れたから」

「イリス様……」

 その時、ノックの音がしてヴェリオルとフェルディーナが部屋に入ってきた。

 ヴェリオルは足早にイリスの元に行き、満面の笑みを浮かべる。


「イリス、決して美しくは無いが、素敵だ」


 イリスが溜息を吐いた。

「そこは素直に『素敵だ』だけで良いのではありませんか?」

「ああ、そうか。すまない」

 ボケているのか、それともわざとなのか。ヴェリオルはイリスの手を取り謝罪する。

「そろそろ行くぞ」

「どうしても行かなくてはいけませんか?」

「どうしても、だ」

 イリスは窓の外を見る。笑ってしまうほどの土砂降りの雨――。

 まるで自分の未来を暗示しているようだとイリスは思う。

「いきなり後宮に入れられ、しつこい男に付きまとわれ、挙句王妃なんて……。そもそも何故私のようなブサイクが後宮に入れられたのかしら?」

 今更すぎる疑問を口にするイリスに、ヴェリオルが片眉を上げた。

「お前が側室になった理由? 言ってなかったか?」

 イリスがヴェリオルに視線を向ける。

「聞いておりません」

 そうか、とヴェリオルはその理由を口にした。


「とんでもないブサイクな女を、見てみたかったからだ」


 さらりと言われた言葉に、イリスはポカンと口を開けた。

「は?」

「アードン家には、とんでもないブサイクな娘がいると大臣たちが噂をしていて、そんなにブサイクな女なら俺も見てみたいから呼べと命じたのだ。ところが宰相が『ブサイクという理由だけで呼びつけるのは良くない』と反対したので、それならば側室にでもしてやれと言った――らしい」

 イリスが首を傾げる。

「らしい?」

 ヴェリオルは頷いた。

「ああ。少々酔っていたので覚えていない」

「酔って……、いた?」

「その後、お前が後宮に入った知らせを受けたらしいのだが、忙しくて聞き流していたようだ」


「…………」


 何なのだ、その理由は。

 酒の席での戯言で、こんな目に遭ったのか。せめてもう少しましな理由を聞きたかった。

 イリスの身体から力が抜ける。

「どうした?」

 イリスは首を振り、深く長い溜息を吐いて立ち上がった。


「分かりました」


 プツン……と自分の中で何かが切れた気がして、イリスは笑う。

「私、決心いたしました。国庫が傾くくらい贅沢をいたします。そして――」

 イリスは真っ直ぐヴェリオルを見た。


「本物の『傾国のブサイク』になります!」


 力強く宣言され、ヴェリオルが首を傾げる。

「傾国のブサイク?」

「そうです。贅沢三昧をいたします。覚悟してください」

「お前が贅沢をしたくらいで国が傾くとは思えないが、まあ好きにしろ。それよりもう行くぞ」

 あっさりと言って、ヴェリオルはイリスの手を引き部屋を出る。

 そして辿り着いた神殿では、王太后とメアリアが満足気な笑みを浮かべていた。


「イリス、素敵ですよ」


 声を掛けてきた王太妃に、イリスは引きつった笑顔を見せる。

 少し離れた場所に立つ両親は、ただひたすら呆然としていて、その隣には何故か嬉しそうな兄の姿があった。


「愛している、イリス」

「はあ、そうですか」


 そんなことはどうでもいい、とばかりに神殿の天井に描かれた綺麗な絵を見上げるイリスの顎を、ヴェリオルは掴んだ。

 イリスが眉を寄せる。


「もう逃げられないぞ」


 ニヤリと笑われて一瞬背中に寒気を感じる。が、イリスは堪えて口角を上げた。

「ホ、ホホホホホ」

 ぎこちなく笑い、深呼吸をする。


「逃げませんわ」


 ヴェリオルとイリスの唇が重なる。

 周囲からパラパラと拍手が起こった。


ありがとうございました!

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