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第59話

「何をやっていますの!?」


 メアリアに怒鳴られ、イリスは顔を顰めた。

 ヴェリオルが帰った後、暗殺が悲惨な結果に終わったことを知った元革命団のメンバーは、イリスの部屋に集まっていた。

「焦って暗殺に失敗した上に、革命の計画がバレたですって? まったく使えない女ですこと」

 メアリアとフェルディーナの冷たい視線。ユインは苦い顔でイリスを見つめ、

ケティはオロオロとしている。

「もっと慎重にやれば、こんな結果にはならなかったでしょうに」

「だから……、私は暗殺なんて無理だと最初から言っていたではないの」

「その態度が失敗を招いたのですわ!」

 メアリアは溜息を吐いて、扇でイリスを指した。

「もういいです。お姉様、こうなったら王妃になっておしまいなさい。暗殺出来ないとは、すなわち多少なりとも好意があるということに他ならないのですから」

 イリスが眉を寄せ、小さく首を横に振る。

「好意なんて無いわ」

「黙らっしゃい!」

 メアリアは扇でテーブルを叩いた。

「では何故暗殺できなかったのですの?」

「それは――」

「言い訳は要りません。まあとにかく王妃になった暁には、すべてを台無しにした責任を取って、殿下を解放してください。そして陛下との愛はこれからゆっくり育んでいけばよろしいですわ。身体から始まる愛、それもまた乙女の王道ですから。ホホホホホ!」

「…………」

 何をメアリアは言っているのか。意味が分からないとイリスは額に手を当てる。


「……仕方がありません」


 背後から聞こえてくる深い溜息。振り向くとフェルディーナがイリスをじっと見ていた。

「女官長……」

「せっかくお膳立てをしたのに、失敗したのはイリス様です」

 イリスが目を見開いて抗議する。

「私が、私だけが悪いと言うの?」

「計画が漏れたのではどうしようもありません」

「それは私のせいではないわ! 陛下は既に知っていたのよ!」

 首を激しく振るイリス。

 メアリアが扇を口元に当てて首を傾げた。

「あら、じゃあ誰のせいだとおっしゃるの?」

 イリスが周りを見回す。

「誰って……」

「まさか私達の誰かが裏切ったとでも? 責任転嫁も甚だしいですわ、お姉様」

 鼻を鳴らすメアリア。イリスは唇を噛みしめた。

 どうしてヴェリオルは今回の計画を知っていたのか。どこから漏れたというのか。

 イリスが俯く。その時――。


「あ!」


 不意に聞こえた声に顔を上げると、ケティが大きく口を開けてメアリアを指差していた。

「ケティ?」

 ケティは上目遣いでメアリアに訊いた。

「メアリア様は、先日陛下と何か話しておられませんでしたか? たしか、殿下をどうするとか……」

 メアリアが片眉を上げて笑う。

「あら、ケティは私を疑っているのかしら? 私は殿下がお元気か陛下にお聞きしていただけですわ。それならフェルディーナだって、こそこそ女官達と話しをしていたでしょう?」

 扇で指され、フェルディーナが「ああ……」と頷いた。

「それならば、女官の仕事を少し手伝いながら情報収集していただけです。そんなことまで疑っていたら、陛下と談笑していたケティさんも怪しいということになってしまいますよ」

 イリスが「え!?」と驚きケティに視線を向ける。

 ケティは慌てて両手と首をブンブンと振った。

「え!? ち、違います! あれは陛下が『テラン戦記』の話をされて、今度騎士の鍛練場を案内してくださるとおっしゃったので、少しだけ喜んでしまっただけで……。でもそれだけです! 私が忠誠を誓ったイリス様を裏切るわけがありません!」

 叫ぶように言って、ケティが肩で息をする。

 メアリアが扇を頬に当てて、斜め上を見た。

「忠誠と言えば、ユインは陛下に忠誠を誓っていましたわよね」

 ユインがギョッとしてイリスに向かって敬礼をする。

「じ、自分は、今はイリス様の騎士であります!」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 互いに探り合うような視線と沈黙。

 いったい何がどうなっているのか、目の前の状況にイリスの頭がついていかない。

 知らぬところで、皆はヴェリオルと接触をしていたのか。そして誰かが――、本当に裏切っていたというのか。

 重苦しい空気の中、口を開いたのはフェルディーナだった。


「総合的に判断して……、やはりイリス様の態度から感づかれたと考えるのが妥当ですね」


 メアリアが大きく息を吐く。

「そうね。やはりお姉様からだわ」

 頷くユイン。

「イリス様、暗殺と革命が失敗して残念かも知れませんが、これからも自分がお守りします」

 力強く宣言され、イリスは唖然とした。


「え。ちょっと……」


 勝手なことを言って話を締め括ろうとしているのを、まざまざと感じる。

 こんな馬鹿なことがあっていいのか。

 待ってくれと、縋るように上げた右手。その右手をケティが握る。


「イリス様……。もう覚悟をなさいませ」


「――――!」

 可愛いい妹分からのまさかの言葉。

「ケ、ケティ……?」

 どうして。

 視界がにじむ。

 その時――、メアリアがパシッと扇を鳴らした。


「そうだわ! 王妃になって陛下を意のままに操り、この国の影の支配者になるというのはどうかしら?」

 フェルディーナが頷く。

「そうですね。逃亡も暗殺も革命もイリス様には無理そうですし、もうそれしか残された道は無いでしょう」

「自分もお手伝いします」

「イリス様ぁ! こうなったら贅沢三昧だけでもいたしましょう!」


 そうだそうだと盛り上がる者達。

 メアリアがイリスの肩に手を置いた。

「お姉様、明るい未来を掴み取りましょう!」


「……………」


 愛らしい笑顔。笑い声。

 明るい未来とは、いったいどんなものなのか。


「どうなっているのー!?」


 イリスの悲痛な叫びは、虚しく響くだけだった。


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