第6話
ヴェリオルは眉を寄せ、イリスを再度呼んだ。
「何をしている。早くこちらに来て脱げ」
「…………!」
「…………!」
イリスは驚愕に目を限界まで見開き、ケティは大きく口を開けてよろめいた。
「な、ななな、何をおっしゃりますか!? 私、朝には家に帰るのですが?」
「……? だから来てやったのだろう。手違いで、そなたの事が余に伝えられていなかったのだ。二年も辛かったであろう」
「いえいえいえ! とんでもございません!」
むしろ幸運と思っていたのに、今更相手をしろと言うのか。
「お気持ちだけいただきます! わざわざご足労くださり、ありがとうございました!!」
イリスはドレスの裾を摘んで膝を折った。
「…………」
「…………」
イリスとヴェリオルが見つめ合う。
「……待て、どういう事だ?」
帰れと言わんばかりのイリスの態度に、ヴェリオルは顎に手を当てて首を傾げた。
「何かおかしい。話が噛み合っておらんな。そなた朝のあれは、処罰覚悟の直訴では無かったのか?」
え!?
イリスは目を見開いて首を振った。
「直訴とは、何をでございますか? 帰れる事に浮かれて、規則を忘れていただけでございます」
「……まさか、家に帰りたいのか?」
「はい!!」
拳を握りしめ、前のめりで力強く言い切る。
「…………」
ヴェリオルは、そんなイリスをじっと見た後、俯いて目を瞑り額に手を当てた。
「それは……、済まなかった」
「いえ」
誤解が解けてホッとするイリス。
しかし、次の瞬間ヴェリオルが信じられない言葉を口にした。
「残念だが、そなたは帰れぬ」
「……はい?」
ヴェリオルは目を開け、ポカンと口を開けるイリスを真っ直ぐ見た。
「余がこの部屋に入った時点で、そなたは余の相手をしたとみなされる。たとえどんな理由があろうと、最低でも一年は後宮から出る事は叶わぬだろう」
「……は?」
「まさか帰りたいと思っているとはな。まあ良い、こちらに来い。折角だ、可愛がってやろう」
「……え?」
「可愛いがってやるから来い」
「…………」
イリスは言われている意味が分からなかった。
帰れない……?
それは。
帰れない。
誰が?
帰れない―――!!
「ええ!?」
何が、いったい、どうして、私が……!?
「じょ」
「じょ?」
イリスは大きく息を吸い込み、自分の立場も忘れて絶叫した。
「冗談じゃありません!!」
明るい未来を目の前に、絶望世界に叩き落とすつもりなのか。
イリスは身体をブルブル震わせヴェリオルを睨んだ。