第5話
「フウ……。やっと終わったわね」
部屋に隅に積み上がった箱を見ながらイリスは満足気に微笑んだ。
「はい。疲れました」
「そうね」
グッタリと床に座り込むケティをクスクスと笑い、イリスはテーブルの上に置いてある水差しを手に取った。
「お水、飲む?」
「ありがとうございます」
本来なら主人にこのような事をさせてはいけないのだろうが、気さくなアードン家の人々は、細かい事にはこだわらない。
ケティは立ち上がり、イリスから渡された水を一気に飲み干した。
「はあ~。生き返ります」
「良かった。さあ、もう遅いから寝ましょう」
「はい」
ケティがテーブルにコップを置き、イリスの着替えを手伝おうとした時ーー。
コンコンコン。
「…………?」
「…………?」
イリスとケティは顔を見合わせた。
「誰かしら?」
「もう夜中ですのに……」
コンコンコンコン。
「…………」
「…………」
「……出た方がいいのかしら」
「そうでございますねぇ」
ゴンゴンゴンゴン。
「……怒っているのかしら?」
そこでハッとイリスは気付いた。
まさか朝の……。
「規則違反の処罰……」
「え!?」
ケティが驚き目を見開く。
「そんな! 数時間後には帰れるというのに。……聞こえ無かった振りをしますか?」
「出来ればそうしたいけど……、駄目よねぇ」
イリスは溜息を吐いて、肩を落とした。
「許されたと思っていたのだけど、違ったのかしら。仕方ないからドアを開けてちょうだい」
「……はい」
ケティはドアの所までノロノロと歩いていくと、深呼吸をして勢いよくドアを開けた。
「――――!」
「――――!」
全開にされたドアの向こうに、目を見開く女官長とそして……。
「へ、陛下……?」
驚くヴェリオルの姿があった。
「……随分、元気が良い侍女だな」
しかし、さすがに一国の王であるヴェリオルは直ぐに気持ちを立て直し、女官長を軽く手を振る事で下がらせて室内に入って来た。
「侍女も下がってよい」
「……え?」
ポカンと口を開けてヴェリオルを見ていたケティは、突然声を掛けられて戸惑った。
「下がってよいと言っている」
「え……、え……」
ケティが助けを求めてイリスを見る。
わざわざ王自らが罰を下す為に来たというのか。
イリスは驚きながらもヴェリオルに深く頭を下げた。
「朝には帰る事となっております。どうか、ご慈悲を!」
イリスはなんとか罰を免れようと、更に深く深く頭を下げた。
「ああ、分かっている。面を上げよ」
ホッとして頭を上げると、ヴェリオルはイリスの横を通り過ぎ、無駄に広いベッドに腰を下ろした。
「何をしている。早く来い」
「……え?」
どうして陛下はベッドに座っているのかしら?
イリスとケティは顔を見合せて首を傾げた。