表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/74

第4話

「イリス様です。アードン家の」

 女官長の言葉に、ヴェリオルは首を傾げた。

「アードン家? 侍女……、ではないな。まさか側室なのか?」

「そうでございます。陛下」

 どうやらイリスは、存在自体をヴェリオルに忘れられていたようだ。

 その上そこそこ重要な職務に就いているイリスの父親も、記憶の片隅にさえ置かれていないようだった。

「それで? 何をしている」

 訊かれたイリスは、慌ててドレスの裾を摘んで膝を折った。

「荷造りをしておりました。規則違反をしてしまい、申し訳ございません」

「荷造り……?」

「はい。お世話になりました」

「…………」

 ヴェリオルは女官長の方を見て、そしてまたイリスに視線を戻した。

「そなた……、何年ここに居る?」

 イリスは首を傾げた。

 家に帰されるのだから、決まっているではないか。

「二年間居りました」

「……二年?」

「はい」

「…………」

 ヴェリオルは眉を寄せ、女官長を振り返った。

 二年もの間、後宮にひっそりと住まう側室が居るなど聞いた事が無かったのだ。

「女官長、何故言わなかった?」

「どの側室をお相手に選ばれるかは陛下のご自由ですので、私が口出しして良い事ではありません」

「それにしても二年だろう。一言声を掛けるくらいは出来た筈だ」

「はい。申し訳ございません」

 深く頭を下げる女官長に、ヴェリオルは溜息を吐く。

 真面目だが融通がきかないのがこの女官長の欠点であった。

「まあ良い。そなた、あー……、名は何と言ったか」

「イリスでございます」

「そうか、イリス。事情は分かった。部屋に戻るがよい」

「はい。ありがとうございます」

 ヴェリオルの口調からお咎め無しと判断し、イリスはホッとして頭を下げて逃げるようにその場を去った。

 小走りで部屋まで戻り、ノックも無く勢いよくドアを開ける。

「イ、イリス様!? どうされたのですか?」

 突然開いたドアから息を切らしたイリスが飛び込んで来た事に、ケティは驚いた。

「陛下に偶然お会いして……」

「え? あ……!」

 ケティも規則の事を思い出し、口を手で覆った。

「申し訳ございません。私、すっかり忘れておりました」

「いいのよ。私も忘れていたのだから」

 フウ……っと息を吐き、イリスは微笑んだ。

「偶然とはいえ最後に陛下にもご挨拶出来たのだし、もう思い残す事も無いわ。さあ、荷造りの続きをしましょうか」

「はい!」

 そして二人はせっせと部屋の中にある物を、大きな家具以外全て箱に詰めたのだった。


 この時イリスは、この偶然のヴェリオルとの出会いを後に激しく後悔するとは思ってもいなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ