「後宮の扉番 2」
「何故あのブサイクが……」
聞こえてくる噂話に、騎士は微かに眉をひそめた。
以前この扉の前で会った側室は王に情けを掛けてもらい、驚く事に寵妃となったようだ。
最近王はあの側室の元にばかり通い、他の側室は不満が溜まっているようで、こうして周囲に聞こえる声でよく悪口を言っている。
その上先日医者が部屋に呼ばれたらしく、体調不良と言いつつ本当は懐妊ではないのかと側室達は焦りを募らせていた。
もし懐妊なら、そして男子ならば、王はどうするのか。
ブサイクな二位貴族の娘が王妃になるなど、一位貴族や他国の王女にしてみれば屈辱以外のなにものでもないだろう。
特に王妃候補と言われている側室にとって、この状況は耐え難いに違いない。
そんな事を考えながら立っていると、角を曲がって来た騎士の姿が見えた。
数日前、やっと後宮の警備の見直しが行われ、建物内や庭園を騎士が見回るようになった。
追加された騎士は四人。
そしてこの警備の見直しが懐妊説に更に拍車を掛けているような感じもした。
「異常なし」
見回りの騎士の言葉に敬礼で応える。
何も起こらなければ良い。
だが……そう、もう『何か』は起こっているのだろう。
『イリス・アードンの警護を優先させるように』
騎士団長から秘密裏に伝えられた言葉。
もし彼女が部屋から出た時は、必ず、しかしあからさまにならぬように護衛に付く事と命じられていた。
そして……。
王には王の事情があるのだろう。
だがこれで良いのだろうか?
踵を返し歩いて行く騎士の背中を見つめながら、あの側室がこの先無事に過ごせるようにと扉番は心の中で祈った。