「後宮の料理人 2」
「新しい料理長です」
女官長に紹介された大柄の女性が人なつっこい笑顔を見せる。
「よろしく」
後宮の料理人達がどよめいた。
異動により前料理長をはじめ数人の料理人が後宮を去り、新しい料理人が入って来た。
その中でも新しい料理長に皆の視線は釘付けになる。
城で働く女料理人ならば彼女を知らぬ者などいない。
女性では唯一の王専用料理人で、料理人達にとっては憧れの存在でもある人物なのだ。
そんな彼女がどうして後宮に配属されたのか、料理人達には不思議でならなかった。
「朝食の準備に取り掛かりましょうか」
料理長に指示を出され、自分の持ち場に付いた料理人達が調理をしながらチラチラと見ていると、料理長は自らが運んで来た食材を使い、他の料理人とは別の料理を作り始める。
誰の為の料理なのか……。
興味津々の視線に、料理長は先程とはガラリと違う厳しい表情で料理人達を一喝した。
「集中しなさい!」
どうやら新しい料理長は仕事に厳しい人物のようだ。
飛び上がる程驚いて、料理人達は目の前の食材に集中した。
「では私は行きますので後はお願いします」
暫く厨房の様子を見ていた女官長が立ち去る。
しかし、何故か女官が二人残ったままで、料理人達の様子を監視するようにじっと見ていた。
やりにくい。
急な異動といいこの女官達といい、何かあったと言うのか。
そしてすべての料理を作り終わる頃、女官長が再び現れた。
「こちらですね」
女官長は料理長が作った料理を少しずつ口にして、手近にあったワゴンにそれらを載せる。
暫くすると侍女達が朝食を取りに来て、いつもと違う厨房の様子を気にしながら料理を次々に運んでいった。
その中には王妃候補の侍女もいたが、料理長が作った料理ではなく通常の料理を持って行った。
ほとんどの料理が運ばれ、料理人達が後は誰が来ていないかと考えながら作業をしていると、一人の侍女が現れた。
ある出来事があってから、後宮の料理人をしている者達には苦手となっていた侍女である。
「ケティさん」
女官長が侍女に声を掛ける。
まさかこの侍女の主人に……?
「こちらの料理がイリス様の朝食です」
やはりそうなのか。
この侍女の主人である側室は、一時王のお気に入りになったものの王妃候補の後宮入りに伴い捨てられ、ところが最近また王妃候補から寵妃の座を奪い取ったという強者である。
あくどい手を使い他の側室を陥れたとか、奇跡の床上手だという噂があるが、真実かどうかは分からない。
ただこの状況から、王がその側室を特別扱いしているのは確かだろう。
侍女はワゴンを押して部屋へと戻っていく。
女官長も女官を連れて厨房を出て行った。
「ここで長く働きたいのなら――」
不意に料理長の声が聞こえ、料理人達が注目する。
「余計なお喋りも詮索もしない。そういう者は容赦なく切り捨てていくのでそのつもりでいるように。私達の仕事は喜んで食べてもらえる美味しい料理を作る事です」
固まる料理人達に、料理長は再び人なつっこい笑顔を見せる。
厳しく優しい料理長のもと、後宮の料理人達は統率のとれた集団となり、そして料理の腕も上がったのだった。