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第13話

「『後悔』……、でございますか?」

「そう、『後悔』」


 ケティはイリスにドレスを着せながら首を傾げた。

「なんだか気色悪さが倍増でございますねぇ」

「そうでしょう?」

 イリスは昨夜起こった出来事を、朝部屋に入ってきたケティにすぐに語った。

「陛下が出て行かれたおかげでゆっくり眠れたのは良かったのだけど、ちょっと気になる言葉よね」

「イリス様が後悔する……、という意味でございますよねぇ」

 ケティは背中の紐をギュッと縛り、前に回ってイリスの全身を眺めた。

「後悔なら、もうとっくにしているのだけど」

 規則を忘れ、出てはいけない時間に部屋から出てしまった事は、悔やんでも悔やみきれない。

「そうでございますよねぇ」

 ケティはイリスの手を引き、ドレッサーまで行く。

 イリスがそこにある椅子に座ると、ケティは器用に髪を結い始めた。

「これはやはり……」

 二人は鏡越しに視線を合わせる。

「私がこうして陛下の言葉を気にして悩むのを、楽しんでおられるのかしら」

 ケティはイリスの髪をピンでとめながら、「うーん」と考えた。

「そうかもしれませんね。嫌がらせの一種なのでしょう。畏れながら、いやらしい性格ですね」

「いやらしいわ」

 薄く化粧も施してケティが満足げに頷くと、それを合図にイリスが立ち上がり、二人はテーブルセットに向かう。

「イリス様がどんな様子か、今夜にでも見に来られるかもしれませんね」

 イリスは椅子に座りながら溜息を吐く。

「もう来ないで欲しいのだけど……」


 しかし、その夜ヴェリオルがイリスの部屋を訪れる事はなく、それどころか二日経っても三日経ってもヴェリオルは来なかった。

 五日目には、『ついに陛下に飽きられた』と二人は喜び、気になっていた『後悔』という言葉もすっかり忘れてしまっていた。

 そして、一週間後――。





 バターン!!


 勢いよく開いたドアに、イリスは驚いた。

「な、なに? ケティ。どうしたの?」

 朝食を後宮の厨房に取りに行った筈のケティが、ドアを全開にして、肩で息をしている。

「ケティ、朝食は?」

「それどころではありません!」

 ケティがイリスの元に走り、その後ろでドアがバタンと閉まった。

「イリス様イリス様イリス様!」

「落ち着いて、ケティ。なにがあったの?」

 イリスが迫ってくるケティ胸に手を置くと、その手をケティが掴んだ。

「ケティ?」

「新しい側室です!」

「――え?」

 ケティは手に力を込め、もう一度叫んだ。


「新しい側室が後宮に入るのです!」


「まあ……」

 イリスは首を傾げた。

 新しい側室が入る事など今までも何度かあったのに、ケティは何故こんなに興奮状態なのか。

「それがどうかしたの?」

「聞いて下さい!」

「ええ。ちょっとそこに座ったら?」

 イリスに言われ、ケティは向かいの椅子に座る。

 そして、テーブルの上のグラスに入っていた水を一口飲んで話を続けた。

「その新しい側室というのが、あのロント家のお嬢様で……」

「まあ、ロント家の」

 エルラグド国の貴族は、『一位』から『十位』までの階級に分けられている。

 ロント家は、一位貴族の中でも特に名門と言われる貴族であった。

 ちなみにイリスの実家アードン家は二位貴族である。

「それはそれは、若くて可愛らしいお嬢様だそうです。しかも……」

「しかも?」

 ケティはグッと身を乗り出し、イリスに顔を近付ける。

「王妃候補として、陛下が自ら選ばれたらしいのです!」

「え……!」

 イリスは目を見開き、口を手で覆った。

「王妃、候補!?」

「王妃候補です!」

 イリスはそのまま暫く固まり、それからゆっくりと立ち上がって両手を広げた。


「まあぁぁあ! 素晴らしいわ!」


「素晴らしいです!」

 ケティがイリスの胸に飛び込み、二人はガッチリと抱き合った。

 今まで一度も、王妃どころか王妃候補の話も出た事が無かったのだ。

 これはもう王妃決定と言っても過言ではないと、イリスはホッと息を吐く。

「そう。陛下が自らが選ば……」

 そこでイリスはハッとした。


 若く可愛らしい……。


「ああ! そうだわ」

 ケティが一歩下がり、首を傾げる。

「どうされました?」

「私、若く美しい側室を入れたらどうかと陛下にお話したわ」

 イリスは胸の前で手を組み、輝く笑顔をケティに向けた。

「まあ。それではイリス様の助言を陛下が聞き入れられたのですね」

 ケティはイリスの手を握り、目を潤ませた。

「後はロント家のお嬢様が無事王妃になり、飽きられすっかり忘れ去られたイリス様は――」

 イリスも目を潤ませ頷く。

「ええ。家に帰れるわ!」

「はい!」

 二人は見つめ合い、そしてもう一度ガッチリ抱き合ったのだった。


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