第11話
部屋のドアを開けたケティは、そこに置いてあったモノを鷲掴みにして中に戻った。
「イリス様、今日は鳥でした」
イリスはケティが手に持ってブラブラとさせているモノを見て溜息を吐いた。
「また生首ね」
「どうせなら、首から下を置いて行ってくれれば美味しく調理いたしますのに」
「そうねぇ。捨てて頂戴」
「はい!」
ケティは窓を全開にすると、少し後ろに下がり、両手で生首を持って身体を捻る。
「いぃぃぃー……ほやぁぁぁあ!!!」
気合いと共に投げた生首は、後宮の庭園の上を滑るように遠くに飛んで行った。
「やったあ! 新記録です!」
目を凝らして生首の行方を追っていたケティが歓声をあげる。
「掛け声がどんどん本格的になっていくわね」
「はい! 私、『生首投げ大会』があったら優勝する自信があります」
ケティは力こぶしを作ってエヘヘと笑った。
あれからヴェリオルは度々イリスの元を訪れ、そして嫌がらせは日常と化した。
「はぁ……。本当に、嫌になるわね」
良い事といえば、女官長の態度がほんの少し柔らかくなったという事ぐらいである。
「そうでございますねぇ。何故陛下は、ここに何度も来るのでしょうか」
窓を閉めながら、ケティは首を傾げた。
「もしかすると……」
イリスはグラスに水を注ぎ、手をはたきながら戻ってきたケティに手渡す。
「陛下は他人が嫌がる姿を見ると、興奮するのではないのかしら」
「興奮……、ですか?」
水を飲もうとしていたケティが動きを止めた。
「そう。興奮。だから私に嫌がらせをしているのかもしれないわ」
「え……。それは」
ケティは眉を顰める。
「変態……、でございますねぇ」
「変態ね」
「気色悪いですねぇ」
「気色悪いわ」
水を一気に飲み干し、ケティはグラスをテーブルに置いた。
「でも国王陛下ともあろう御方が、本当にそんな趣味をお持ちなのでしょうか?」
「国王陛下だからこそ……かしら」
「だからこそ?」
イリスが頷く。
「満ち足りているからこそ、普通では満足出来なくなっているのよ」
「うーん。そう言われれば、そんな気もいたしますねぇ」
「きっとそうよ」
ケティは頬に手を当て、溜息を吐く。
「困りましたねぇ」
「困ったわねぇ。早く私に飽きて下さると良いのだけど……」
「……はぁ」
ヴェリオルは、イリスを引き寄せて胸に抱いた。
「俺が来てやっているというのに、溜息を吐くな」
「……頼んでいませんわ」
イリスはもう一度、深い溜息を吐いた。