第1話
・作中、予告なく残酷描写があります。苦手な方はご注意下さい。
・登場人物の言動には相手に対する敬意がみられません。肉体的・精神的に残酷な場面があり不快に思われる可能性がありますので苦手な方は回避をお願いいたします。
女が、本を読みながら静かにお茶を飲んでいる。
しかし集中出来ていないようで、先程から同じページをずっと開いたままだ。
「……はぁ」
そして読む事を諦めたのか、溜息を吐いて本を閉じた。
「まだでしょうかねぇ、イリス様」
そわそわと部屋の中を歩き回る侍女ケティに、女――イリスは苦笑する。
「本当、もう夕方だと言うのに。早くしてくれないと落ち着かないわよね」
「私、聞いて参りましょうか?」
「そうねえ……」
その時、
コンコンコン――。
聞こえたノックの音。
イリスとケティが弾かれたようにドアを見る。
「イリス様……」
「ええ。ついに来たのね。ケティ、開けてちょうだい」
「……はい!」
ケティは目を閉じて数回深呼吸をすると、ドアに向かう。
カチャ……。
ドアを開けると、そこには予想通り、後宮を取り仕切っている女官長が居た。
女官長は頭を軽く下げ、イリスに向かって告げた。
「長きに渡るお勤め、大変お疲れ様でございました」
「……はい」
その会話だけで、双方理解出来た。
もう一度女官長は軽く頭を下げて去っていく。
「…………」
「…………」
イリスは深く息を吐くと、天井を仰いだ。
帰れるのだ。
「良かったですわ、イリス様」
「ええ」
溢れる涙を指で拭いながら、イリスはケティに微笑んだ。