星の子と鬼の子【2000文字】
明るい里に、星の子が暮らしていました。
周りを明るく照らす星の子は、いつもみんなに囲まれて楽しく過ごしていました。
星の子は誕生日になると、たくさんの人からお祝いされます。
いつもより豪勢な料理、数々の贈り物、賑わう声。
そして、心からの「おめでとう」という言葉をもらえて、星の子は1年で誕生日が1番好きでした。
森の奥には、鬼の子がひっそりと暮らしていました。
みんなに煙たがられ、人里に降りることが怖かった鬼の子は、森の中で1人でいました。
時々、森の入り口まで下りていっては、里の明かりを見るのが好きでした。
森には恐ろしい生き物がいるから入ってはいけません。
昔から里に伝わる教えの1つです。
ところがある日、星の子はその生き物を一目見たくて、森の中に入っていきます。
最初は里と変わらない明るさの森に、星の子はひょいひょいと進んでいきます。
次第に森全体の色が黒くなっていき、進めば進むほど、道が狭くなっていきます。
星の子はとぼとぼ進み、のろのろ進み、とうとう立ち止まってしまいました。
意気揚々と入ってきたものの、暗くて、寒くて、ひとりぼっちなことにどんどん寂しくなっていくのでした。
帰りたい。
そう思った時には、ここがどこだかわかりませんでした。
きょろきょろ周りを見渡しても、草、草、草。
左を見ても右を見ても、木、木、木。
それはまるで森の中に閉じ込められたみたいでした。
ここにいるのに、ここにいるよと誰にも言えなくて、自分の居場所があやふやです。
いよいよ泣きそうになった時でした。
「誰かいるの?鹿さん?」
か細くて、静かな、ころころした声がしました。
「鹿じゃないよ、ぼくだよ」
星の子が返事をすると、草むらの向こうでざわざわと音がしました。
風の音もざわざわしています。
それから、怯えるように鬼の子が草むらからそっと顔を出しました。
「君は里の子?どうしてここにいるの?」
「恐ろしい生き物を見たくて、森に入ってきたんだ。でも迷子になっちゃったみたい」
星の子は、助けてほしくてそう言いました。
鬼の子は、草むらの向こうから出てこようとしません。
「君は里までの道を知っている?ぼくのことを連れていってほしいんだ」
星の子は道案内を頼みました。
いつも里のみんなが親切にしてくれるように、鬼の子にもお願いしました。
「それに、みんなが心配するから帰らなきゃ」
星の子がそう言うと、鬼の子は震える声で答えました。
「知っているけど、森の入り口までしか案内できないよ」
「いいけど、どうして?」
「おいらは、里に行ってはいけないことになっているんだ」
「よくわからないけど、案内してくれるんだね!ありがとう!」
星の子の笑顔に鬼の子は驚いた様子でしたが、こくりと頷きました。
「こっちだよ」
鬼の子はゆっくり歩き始めます。
星の子はすぐに隣に行くと、手を差し出しました。
「また迷子になったら困るから、手を繋いでくれる?」
鬼の子は、またびっくりしました。
「おいらのこと、気味悪くはないの?」
「気味悪い?頭の角がぼくと違うなって思うだけだよ」
鬼の子は目をぱちぱちさせて、それから自分の手をそろりと差し出しました。
星の子はその手を握りました。
「これで安心だ」
星の子につられて、鬼の子も少し笑いました。
「君は森の中で暮らしているの?じゃあ恐ろしい生き物も見たことがある?」
「動物しか見たことないよ」
鬼の子が案内してくれるうちに、森はどんどん明るくなっていきます。
「いつも1人でいるの?」
「いつも1人でいるよ」
「寂しくはないの?」
「たまに里の明かりを見ると寂しくないよ。それが1番好きなんだ」
「ぼくは、誕生日が1番好きだよ。君の誕生日はいつ?」
「今日だよ」
星の子は繋いでいた手を、空に向かって上げました。
「今日が誕生日なの?じゃあ、お祝いしなくっちゃ!」
「お祝いするの?」
「そうだよ、誕生日はお祝いするんだよ」
ようやく森の入り口まで来て、里の明かりが見えました。
「待ってて。ぼく、お祝いの用意をしてくるから」
星の子は走って里に戻り、いつもの料理と、もう読まなくなった絵本と、道端の花を摘んでまた走って戻りました。
「これが誕生日なの?」
「そうだよ。料理と贈り物でお祝いするんだよ」
里の明かりがすぐそばで見えるところで、2人きりの誕生日会が始まりました。
「誕生日おめでとう」
一緒に料理を食べて、絵本と花を手渡され、そして星空の下で笑う星の子の笑顔が、鬼の子には何よりの贈り物に見えました。
「おいら、うれしい」
「だったら来年もお祝いしなくちゃね」
「来年も誕生日があるの?」
「誕生日は毎年あるんだよ」
翌年、鬼の子は自分の誕生日に森の入り口までやってきました。
ですが、星の子はきませんでした。
それでも鬼の子は、誕生日にはお祝いすることをもう知っていました。
いつもより多めの木の実と、鹿肉と、花を摘んで、里の明かりを見ながらお祝いしました。
その日は、一番星が一等輝いていました。
了
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