最終打ち合わせ
放課後、エレクトーン教室に向かった。
Base Areaのセットリストも判明したので、練習と確認の為に。
浅倉にも体調良ければ来てねとメールしといたが、今日何かあったのかな?
「先生こんばんは」
「こんばんは。今日は1人?加里ちゃんは?」
「カリちゃん?」
「あれ?もしかして名前知らないの?」
「誰のことですか?」
「浅倉さんのこと」
「え?(…そういや名前聞いてなかったな)」
「知らないのね」
やれやれといった顔だ。
「でも、先生は何故名前知ってるのですか?僕がいないときに聞いたとか?」
「だって、彼女昔ここに通ってたし」
「生徒だったってことですか?」
「そうよ、10年くらい前かな」
勿論初耳だ。
普段の浅倉の様子からもそんな素振りは一切見せなかった。
バンドのことで一緒にいろいろやることになったが、彼女のこと何も知らない。
「松本くんも何度か会ってるはずだけど」
「え?全然記憶にない…」
「一緒に練習したこともあったけど覚えてないかな?」
「う~ん…」
「半年くらい通ってたのかな。ある日突然転校するから辞めさせてほしいって親御さんから連絡あって」
「彼女どんな生徒でした?」
「う~ん、お世辞にも上手かったわけではなかったかな。今と同じで人見知りだったし。でも、松本くんが練習してるときはじっと見てたの覚えてる」
「ダメだ全く記憶にない」
ということは、浅倉は僕が鍵盤楽器を弾けることを知ってて声掛けてきたのか?
そうなるとラブレターの件も偶然ではない気がしてきた。
ここまでいろいろと出来すぎてるし。
でも、セトリの件は僕発信だから浅倉は多分関係ないか。
しかし、結果的に浅倉に任せることになったからこれも計算のうち?
まさか、やる前からメンバーになることがすでに決まってる?
いや、さすがにそれはないか。
「先生、このことは浅倉には内緒でお願い出来ませんか?」
「このことって、彼女が昔ここに通っていたこと?」
「いや、僕に話したこと全てを」
「知らないフリをしておくの?」
「いくつか確認したいことがあるので、とりあえずはライブ終わってその後にどうなるかを見るまでは」
「了解。スッキリするといいね」
「はい」
それから数十分後、浅倉がやってきた。
見た感じ体調悪そうには見えなかった。
「こんばんは」
「おつかれー」
「それじゃ、早速打ち合わせ始めましょうか」
浅倉がゲットしてきたセットリスト。
直近のセトリは単独ライブのときもあれば複数のバンドが出演するイベント形式のものもあるが、事前に浅倉がリサーチした通り、予想した3曲は全て入っていた。
問題は曲順だが、3曲のうち2曲は直近全て続けて演っている。
その2曲とはバラードの“Just A Dream”とアップテンポの“Say You Love Me”で、この2曲は動かさないだろうと腹を括って、決め打ちすることにした。
この2曲で乱入する。
バラードだし、一旦場内の空気が静かになるタイミングで入るわけだから、よっぽどなこと(※乱入はよっぽどなことに含まない)がない限り演奏は止めないだろう。
この曲が上手くいけばライブに来たお客さんも味方に付けることが出来るだろうから、次の曲も勢いで続けていけると踏んだ。
「バラードのギターソロからユニゾンで入る形にしましょうか?」
「タイミング合わせるの難しくない?」
「でも、決まったらカッコいいと思います」
「確かに。曲の途中だから尚更演奏止められないし」
「試しにやってみましょう」
言われたようにやってみた。
うん、悪くない。
音にも厚みが出て迫力がある感じする。
浅倉も僕の顔を見てニッコリした。
これで行こう。
「間空けずに次の曲に入ってくれたらそのまま引き続き参加して、何だこれ?ってことになって問い詰められたりしたら、簡単な弁明というか、憧れてて一緒に演りたかったとか適当なアドリブで凌いでください」
「けっこうムズいこと言うよね…」
「バンド側もその場の空気が分かればそんなこと言わないと思いますけどね」
なるようになれだ。
「それと当日の衣装準備してきたので、試着してもらえませんか?」
「あ、こないだ言ってたやつね。どんなの持ってきたの?」
「これです」
「これって…?」
ツナギだよね?
何故にツナギ?
しかもオレンジ。
どのようなコンセプトですか?
「宇宙人といえば宇宙服なので、それに近い衣装を用意しました」
いつからT28は宇宙人設定になったの?
「地球に潜伏している宇宙人というイメージなので、姿形は人間のままで大丈夫です」
変身能力とかないし。
それとも特殊メイクでもすると思った??
人間のままでいさせてよ!
マジなのかボケなのかよく分からんな。
「身バレ防止にサングラスしたほうがいいんじゃない?」
先生からの助け舟だ。
ぜひそうしたい!
「サングラス採用しましょう」
これで当日の僕のいで立ちは完成した。
あとは本番に臨むだけ。




