リハーサル2
「ところで僕の出番は何番目なの?」
「ライブのフライヤーもらってきました」
手渡されたフライヤーに目を通す。
「出番は後半ですね」
「ん?これって出演者の名前が50音順に書いてあるだけだよね?」
「え?そうなんですか?」
「あ、こっちにタイムテーブル書いてある。T28の出番は…2番目やん!」
「Base Areaは?」
「後半…」
これだとサプライズ要素が薄まることになるのだが…。
「よく考えたら乱入してBase Areaの曲を演奏するだけじゃなく、T28としての持ち曲もやらなきゃならないよね?」
「それならさっきの私の曲を覚えてやってもらえば問題ないです」
「いやいや、今から覚えなきゃならないから充分問題あるでしょ?」
「…無理そうですか?」
「ここまできたらやるしかないけども」
お互いに意思疎通が出来ていなかったから浅倉だけの責任じゃない。
あと2曲だけなら何とかなるだろ。
「でも、こういうライブってオーディションみたいなのあるよね?それはどうやってパスしたの?」
「今回、素人チャレンジ枠?みたいなものがあって、簡単なプロフィールと音源さえ送ればOKだったので、楽に通りました」
「プロフィールってどんなふうに書いたの?」
「見ますか?」
浅倉はプロフィールのコピーを僕に渡した。
「なんじゃこりゃ…?」
アーティスト名 or バンド名:T28
年齢:永遠の17歳
プロフィール:幼少期よりピアノの英才教育を受け、数々のコンテストで優勝をかっさらい、海外留学を蹴ってまで腑抜けた日本の音楽シーンに風穴を開けるべく闇の地下バトルで腕を磨き名を馳せる。
通り名は鍵盤の魔術師
モットーはKilling is my business
「よくこれで通ったよね…」
何か変なところでも?と言いたそうな顔をしたが、いやはや浅倉のセンスはぶっ飛んでるというか、常人とは違うというか。
「それと衣装も必要ですね。私が用意しておきます」
「私服じゃダメなの?」
「ダメじゃないですけどせっかくの晴れの舞台だし」
「別に誰かに見てもらうわけじゃないけどな」
「見た目もインパクトあると思われたほうがいいですから」
浅倉のセンスを信じていいのか?
年頃の女の子だし、僕よりはいいよね?
曲覚えるのに集中したいしここは任せよう。
当日の流れをまとめると、
①2番目にT28として出演。
②持ち時間は約15分。
③2曲演奏。
④Base Areaの出番が来るまで待機。
⑤演奏中に乱入
⑥メンバーから楽屋に呼ばれる
⑦乱入の経緯説明
⑧メンバー加入を直訴
このようになる。
胆になるのは③と⑤だ。
繰り返すがここでメンバーの心を掴むような演奏が出来なければ⑥以降はない。
計画のすべてが頓挫してしまう。
プランBは存在しない。
「当日浅倉はどうするの?」
「私は機材のセッティングを担当します」
「そんなことまで出来るの?」
「この日のために勉強しましたから」
「それじゃあ頼むね」
「その日は私も観に行くから」
「それじゃ先生にチケット渡さないと」
「どうぞ」
浅倉が差し出した。
「あ、ありがとう」
「いえ」
「それじゃライブ前にもう一度集まって最終確認ってことでいいよね?」
「そうですね」
「あ、よかったらここ使ってもいいわよ。空いてる時間あとで送っておくから」
「先生ありがとうございます」
この日はこれにて解散。
宿題がまた一つできたな。
忙しくなりそうだ。
でも、毎日が充実してる。
好きな人に告白するのがこんなに大変なことになるとは思ってなかったが、知らなかった世界にまで足を踏み込めることになりそうだし、浅倉との出会いも刺激をもらってる。
同じ歳なのに凄いやつだなと。
ちょっと抜けてるところもあるが、そこは御愛嬌ってところだろうか。
まだ謎な部分もあるが、それは付き合いの中で徐々に判っていくだろう。
今は余計な詮索はしないでおこう。
ファミレスで飯でも食ってくか。
「いらっしゃいませ。空いてる座席にどうぞー」
「よっこいしょっと」
ん?あそこにどこかで見かけた顔が。
Base Areaだ!
リハーサルの帰りか?
「当日のセトリこれでいいよね?」
「うん、いいんじゃない」
「まぁ、いつも通りだよね」
「OK,Gyuhhh!」
いつも通り?いつも通りって言った?
いつも通りのセットリストっていつもライブに通ってるファンに聞けば分かるよね?
そのとき頭に浮かんだのが久保の顔だった。
バンギャの彼女なら絶対に知ってるはず。
しかし、どうやって聞き出す?
未だに話したことないよそのクラスの男子なのに。
ん?浅倉は彼女と同じクラスだ。
浅倉に頼むか!
セットリストが分かれば当日の乱入もスムーズに出来るし。
そうと決まれば浅倉に連絡だ。




