2枚のニュー・アルバム
今日はニュー・アルバム制作に向けてのバンドミーティングの日。
約1カ月ぶりのミーティングだが、課題であった新曲を持ち寄る日でもある。
浅倉は驚異的なスピードで新曲を書き上げた。
出来上がった曲をいち早く聴けるのが今の僕の特権でもあるのだが、あの日浅倉宅のリビングで聴いたレコードと同じような雰囲気の曲が出揃った。
こんなタイプの曲も書けるのかと感心した。
あの後浅倉から聞いたのだが、組曲を作っているバンドの多くはプログレッシブロックというジャンルに属しているらしい。
直訳すると難解なロックになるのだが、基本となるメロディーはキャッチーなので、取っつきにくいことはないと思う。
ただし、これはかなりの演奏力を求められる。
ライブでやるには時間をかけてリハーサルをやる必要があるだろう。
僕はデモ音源を持っていつものようにナオさん宅へ向かった。
「それじゃ、ミーティング始めます。今日は新曲提出日ということで、みんなに聴いてもらっても意見を頂戴したいと思います。まずは俺の曲から聴いてもらうね」
ナオさんはテープを再生した。
アップテンポ2曲、ミディアムテンポ2曲、バラード1曲とバランスよく作ってきた。
アップテンポの曲はライブ受けするようなコール&レスポンスも入ってる。
現時点でのファンに喜んでもらえそうな新曲が多くあるという印象だ。
他のメンバーもウンウンと頷きながら聴いていた。
「なかなかの力作だね。気合感じる」
「ライブ映えしそうな曲もあるし」
「よし、次はテッチャンの曲お願い」
「分かりました」
僕は持ってきたデモ音源を再生した。
みんな静かに聴き入ってるが、始まって数分で異変に気付いた。
「これって、もしかして曲続いてるの?」
そう、5曲作ったのだが曲間がほぼなく、5曲で1つの曲として仕上げてきた。
今後のライブのことも考えて1つの曲を単体で演っても成立するような作りにはなっている。
「組曲という形で作ってきました」
「組曲か。ウチではまだやったことないね」
「思い切ったことしてきたね」
曲が終わると誰もひと言も発せずに黙り込んだ。
そりゃそうだ。
好きなようにしていいとは言われていたが、まさか組曲作ってくるとは誰しも思わなかっただろう。
このままアルバムに収録すると明らかに前半と後半とでは別物になってしまう。
「ちょっとビックリだよね」
ウツさんの第一声。
そりゃそうだ。
浅倉やり過ぎだろと僕ですら思いましたから。
こりゃダメかな。
「アルバムじゃなくてミニアルバムとして2枚続けて出す方向にしない?」
え?採用なの?
「一つのアルバムとして出すには統一感がないからそのほうがいいかも」
「予算は掛かるけどやってみる価値はあるんじゃない?」
何だ何だ?
もしかしてもしかするのか?
「ボツにするにはもったいないよね」
ナオさんからも賛成の意見が。
一番怒られるのを覚悟した人からも批判めいた意見が出てこない。
なんて度量が広いんだ。
「これって最初にライブハウスで演奏してた曲の発展型だよね?」
え?そうなの?
浅倉そんなこと言ってなかったけど。
そう言われるとそんなような気もしてきた。
ここは適当に言ってごまかすしかない。
「覚えててくれて光栄です。未完成だったあのときの曲を組曲という形で仕上げてきました」
あとから浅倉に詳しく聞いておこう。
「だいぶプログレ寄りだけど、俺たちに演奏できるかな?」
「プログレはちょこっとは聴いたりするけど、のめり込むほどは通ってないしね」
リズム隊のお二人の正直な意見だ。
「そこはみんなの努力次第じゃない?やってマイナスになることは決してないし」
「とりあえずはナオの曲をみんなで仕上げてレコーディングに入ろうか。その後にテッチャンの曲もみんなで仕上げてレコーディング。問題はリリースの間隔をどうするかだね」
一番インパクトがあるのは同発だろう。
2枚同日発売だ。
しかし、全く異なる内容の同発はかなりリスクがある。
下手したら共倒れになりかねない。
安全策を取るならナオさんのアルバムを先に出して、数ヶ月後に僕のアルバムを出すのが一番無難だと思うが。
「さっきも話題に出たけど、2枚出すとなると予算の都合もあるから、そんな簡単にポンポンと出せないよね」
ナオさんからごもっともな意見が出た。
「作ってから出す、作ってから出すじゃなくて、2枚続けて作って出すのはあとから決めればいいんじゃない?」
「そうだね。2枚と言っても実質1枚分の曲数だし。それでいこうか」
「テッチャンもそれでいける?」
「はい、僕ももう少しこだわってアレンジし直したいし」
こんな感じでニュー・アルバムの方向性というか、それぞれのソングライターが作った曲を2枚に分けて出すことになった。
ナオさんの書いたいわゆるこれまでのBase Areaの路線を踏襲したアルバム、僕の書いたプログレサイドのアルバム。
バンドにとってはかなりチャレンジングなことになるであろうニュー・アルバム。
バンドにとって新たな第一歩となるべく、僕は期待に胸を膨らませた。




