コンテスト
ナオさんからコンテストを受けてみたいという提案があり、メンバー一同固まった。
若干1名を除いては。
そこから少し重たい空気が流れた。
「コンテストって良い想い出ないよな」
「最後に受けたの何年前だっけ?」
リズム隊の2人が記憶を辿っている。
バンド結成して間もない頃、自分たちの中ではそこそこ自信があったのだろう。
記念受験的な形でコンテストに応募したのだが、ボーカルに歌心がない、リズムはバラバラ、ギターの音がデカい、などと審査員から容赦ない言葉が飛び交った。
絶賛されないまでも、よく頑張ったねくらいの評価は貰えると暗に思っていたが、酷評の嵐で相当堪えたようだ。
そこからしばらくして前回の雪辱を晴らすべく再びコンテストに応募したのだが、結果は同じだった。
そこから練習に練習を重ねて、ライブハウスに地に足を着けるべく活動してきた。
それから何年か経って今がある。
そしてウツさんが静かに口を開いた。
「今回は何のコンテストなの?」
「レコード会社主催のコンテスト。上手く行けばメジャーデビューの道も拓けるかも?」
「テッチャンが入って間もないからもう少しライブ重ねたほうが良くない?」
いつも大胆なウツさんにしては慎重な発言だ。僕もウンウンと頷いた。
しかしナオさんは自信があるようにこう切り返した。
「やり過ぎも良くないと思うんだよね。小慣れた感じっていうの?俺達4人は数年前とは比べて間違いなく腕は上がった。そこにまだ下の毛も生え揃ってないテツヤくんが入った。この絶妙な距離感が見てる側としても面白いと思うんだよね」
「下の毛はボーボーですから(笑)
「あとで確認するわ(笑)とにかく一回やってみない?」
「コンテストの審査方法はどうなってんの?」
「まずは1次審査で書類と音源確認がある。もちろんオリジナル曲ね。それを通過したら2次審査で演奏動画の確認。最後が会場で審査員の目の前でライブ。こんな流れ」
「新曲で行くの?」
「そのつもりで考えてる」
「だそうですけど、他のみんなはどう?」
「俺達も腕は上がったし、やってみてもいいかな」
「僕もやってみたいです」
「賛成多数ってことでやりますか」
「よっし!それじゃエントリーしておくから。コンテスト自体はまだ先だから、それまではいつも通りの活動で行こう」
「コンテストまでにはニュー・アルバム作りたいよね」
「そうだね。ニュー・アルバムの曲をコンテストでやればいいし」
「ということで、テッチャンも新曲作ってきてよ」
「分かりました」
コンテストにニュー・アルバム、忙しくなりそうだ。
いつの間にか呼び方がテッチャンになってるし。
練習も一通り終わり、各自帰路についた。
僕は今日のことを浅倉にメールで伝えた。
相変わらず秒で返事が来た。
「新曲ならすでに5曲がラフな状態としてあります。とりあえず一回聴きに来てください」
あれからすでに5曲も出来てるとは、さすがに仕事が早い。
明日はバイトも練習も休みなので、早速明日にでも伺わせてもらうことにした。
1日の授業が終わり浅倉宅へと向かった。
あれ?玄関に誰かいるけど…浅倉だ。
何か挙動不審なのだがどうしたんだろ?
僕はゆっくりと彼女に近寄った。
「あ、松本さん。ごめんなさい、家の鍵忘れてしまって」
「家に誰かいないの?」
「あいにく外出中で夜まで帰らないんです」
てことは、今日は新曲音源聴くことは無理そうだな。
しかし、このままはいサヨナラって言うのもな。
浅倉は夜までどうするんだろ?
「よかったら僕の家に来る?」
「え?」
「いやいや、別に変なことするんじゃなくて、せっかくだから新曲のことじっくり聞きたいし。立ち話もなんだしさ」
「……分かりました。それじゃ伺わせてもらいます」
「それじゃ行こうか」
僕は浅倉を連れて自宅へと向かった。
短期間で女の子を2人連れてくるなんて、親に見られたら面倒なことになるぞ。
まぁ、今日のこの時間は誰もいないから大丈夫だろ。
「遠慮なく入ってよ」
「お…お邪魔します」
「飲み物持ってくるから部屋入ってて」
「はい、お構いなく」
飲み物を持って部屋に戻ると浅倉はキーボードに手を触れていた。
そして、何かしらのメロディを弾いていた。
「それって新曲のフレーズ?」
「はい、断片的ですけど」
「弾くのは今も難しい?」
「そうですね。人前で弾けるレベルではないです」
「スマホのリズムゲームとかも苦手な感じ?」
「からっきしダメですね。あれ上手い人尊敬します。目と指を同時に動かせるってスゴイと思います。私は運動神経ないから無理です」
「僕は結構上手いよ。ホラ見て」
僕は以前やってたリズムゲームのハイスコア画面を浅倉に見せた。
「何ですかこれ?神の領域じゃないですか。こんなスゴイ特技があったなんて」
「今から尊敬してもいいよ」
「尊敬してほしいんですか?」
「そりゃあしてほしいさ」
「頭下げてお願いすれば考えますよ」
「…いや、もういいです、すいません」
目が怖いってw
「このキーボードって最近買ったんですか?」
「うん、貯金叩いて買った」
「私に言ってくれたら貸したのに」
「それだと本気で取り組まないでしょ。それは浅倉に対して失礼だと思って」
「変なところで真面目ですよね」
「いつだって真面目だよ。それより新曲のことじっくり聞かせてよ」
浅倉は目を輝かせて僕に語った。
何か難しい専門用語もいっぱい使っていたのだが、表情から察するに自信ありげのようだった。
今度はスマホにでも録音しといてね。




