イベントデビュー
イベントに向けてのリハも終わり、いよいよ明日が本番当日だ。
僕がBase Areaに正式加入して初のライブとなる。
ライブハウスでやるのとは勝手が違うと思うが、とにかく今のベストを尽くすだけ。
「松本くん、明日イベントあるんだから今日はバイト早上がりでいいよ。明日のために体調整えなきゃね」
店長が気を遣ってこのように言ってくれた。
「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて失礼させてもらいます」
「明日応援しに行くから」
「はい、お待ちしてます」
自宅に帰ってからは明日のイメージトレーニング。
必要以上に練習はしない。
練習しすぎるといろいろ考えてしまうので迷いが生じる。
何度も何度も大丈夫、やれると自己暗示をかける。
そして大事なのは睡眠。
ベストなコンディションで臨むため早めに就寝。
とにかく明日は楽しもう。
…が、夜中に突然目が覚める。
興奮と緊張が同時に襲ってきた。
こんな経験初めてだ。
眠れないので鍵盤に触れる。
真夜中なので音は出さずに。
少し落ち着いてきた。
時間にして30分程度だろうか。
気付いたらライブのセットリストを通しで演奏していた。
ここでようやくやれる自信が湧いてきた。
安心して二度寝。
そして翌朝を迎えた。
指先には夜中に触れた鍵盤の感覚が残っている。
今すぐにでも演奏したい気分だ。
本番が待ち切れない。
会場に到着すると珍しくウツさんが一番先に来ていた。
まさか、朝まで飲んでてそのまま来たのか?
「おはようございます」
「おはよう」
「昨日はよく眠れた?」
「はい、途中で目が覚めましたけど、その後はグッスリと」
「顔色もいいし、やれそうだね」
「ウツさんは相変わらず夜遅くまで飲んでたんですか?」
「だってこれがルーティンだから崩すとダメなの」
「ボーカリストって普通、喉大切にしません?」
「別に騒いで大声出してたわけじゃないし、充分労ってるよ」
「今日も最高の歌聴かせてくださいね」
「OK,Gyuhhh!」
今日のイベントだが、よくある地域活性化のために行われるもので、バンド演奏だけではなく、多種多様なイベントが予定されている。
当然集まる年齢層もバラバラ。
バンド目当てでやってくる人もいれば、通りすがりにちょっと見てみるかと思う人もいるだろう。
そういう人たちに少しでもバンドに目を向けてもらえたら、それだけでも大変意義がある。
SNSで一気に拡散する時代だから、これをきっかけにバズるかもしれない。
バンドとしてはそういう狙いもあって出演を受けたと思っている。
僕らの出番は午後2時からだ。
機材は公園内に組まれたステージの上にすでに配置されている。
野外なので当然だがリハーサルが丸見え状態だ。
僕ら楽器隊は当然音を出して確認するが、ボーカルのウツさんは基本リハでは歌わない。
体力温存と喉を休めるためもあるだろうが、すでに頭の中でイメージが固まっているのだろう。
楽器隊は各々自身の演奏と他メンバーの演奏を確認。
入念に練習したので、滞りなくリハは終了。
他のメンバーも問題なさそうだ。
「どう?緊張してる?」
アベさんが声を掛けてくれた。
彼はバンドのムードメーカーで、さりげなく声を掛けてリラックスさせてくれる。
「はい、良い緊張感を持ってやれそうです」
「おっ!大物だねぇ。その意気だよ。楽しんでいこうね」
「はい、頑張ります!」
「頑張るんじゃなくて楽しむの。肩の力抜いて、リラックスリラックス」
「あ、はい。楽しみます!」
「そう!それでよろしい」
ウツさんとナオさんは喫煙スペースでタバコを吹かしてる。
ウツさんはボーカリストだがお酒も強いしタバコも嗜んでいる。
それでもあの歌声を出せるのは持って生まれた天性のものなのか、それとも陰ながら努力してるのか、まだ僕には解らない。
いつもサラッとやってる感じがするからカッコいいとしか形容できない。
「差し入れあるから食べなよ」
スタッフの方が持ってきてくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
「おっ、美味そうなの食べてるじゃん」
いつの間にかウツさんが喫煙スペースから出てきた。
そして、僕が食べてる唐揚げをひとつつまんで口の中にパクっと入れた。
「おい、人のやつ横取りするなよ。こっちにもあるだろーに」
「だって、コッチのほうが美味しそうだったし」
いつものようにナオさんとウツさんとの絡みは漫才のようだ。
見てて微笑ましい。
僕が緊張しないように彼らなりにリラックスさせてくれてるのかもしれない。
いい先輩たちだ。
「じゃあ、コッチは俺が食うから」
ナオさんがそう言うと2秒で顔色が変わった。
「なんじゃこりゃ?めちゃくちゃ辛いんだけど。水どこ?水持ってきて!舌が焼ける!」
「だからコッチのほうが美味しそうって言ったのに」
もう笑うしかない。
この方たちがバンドメンバーでよかった。
「それじゃ、気を取り直して、新生Base Area1発目のライブです。いつものライブハウスじゃないから俺たちのことを知らない人もたくさん観に来るはず。まずは俺たちが楽しもう。そしてお客さんにも楽しんでもらって、俺たちの音楽を少しでも広めていこう!」
「熱いバンドだねぇ」
「嫌か?こんな熱いのは?」
「辛いの食べたから熱くなってるの?」
「そんな訳ないだろ!(笑)」
「ま、いつも通りやれば問題ないよ」
「Base Areaのみなさーん、そろそら出番です。準備してください」
「よっし、行きますか」




