2人の計画
「それじゃ、これからの計画についておさらいしますね」
浅倉は1枚の紙を用意してスラスラと箇条書きで書き出した。
・勘を取り戻すためにエレクトーンの練習(松本)
・Base Areaのレパートリーの練習(松本)
・さっき聴いてもらった曲のブラッシュアップ(浅倉)
・追加で新曲制作(浅倉)
・お互いの進捗報告(松本、浅倉)
「こんな感じかな」
「Base Areaのレパートリーって、何曲くらいあるの?
「今のところ20曲くらいです」
「え?そんなに覚えなきゃならないの?」
「あ、ライブで必ず演る曲は数曲だからそれだけ覚えてもらえば大丈夫です」
「数曲って何曲?」
「とりあえず3曲」
「リハビリには丁度いいくらいか」
1ヶ月強で勘を取り戻して3曲覚える、頑張れば何とかなるだろう。
ん?でもBase Areaの曲って…。
「Base Areaの曲ってキーボード入ってない曲あるんじゃないの?ライブだと同期音源使ってる曲もあるけど。それはどうするの?」
「それなら大丈夫、私がキーボードのパートを作って音源にしてますから」
随分用意がいいな。
キーボードのパートを作ったって、浅倉は演奏出来るの?それなら…。
「今さらだけど、キーボードのパート作ったのなら浅倉がメンバーになればいいんじゃない?」
「それは無理です。私は楽器が弾けないから。曲はPCで作ったんです」
なるほど、そういうことか。
「それに…私は人見知りなので、ステージに上がるのは無理…なんです」
頬を赤らめてそう言った。
そして思い出したかのように、
「彼らの音源もこちらで用意しました」
そう言って曲を再生した。
「歓声入ってるけどライブ音源なの?」
「あ、これ隠し録りです」
「(え???)」
「こないだのライブの物販でCD売ってなかったっけ?」
「だって、計画失敗したらCD買ったお金が無駄になるし」
人見知りなのにやることは大胆だわ。
「それとライブ当日のプランですが、彼らの演奏中に袖でスタンバイしてもらって、覚えてもらった曲のイントロが鳴ったらステージに乱入してもらいます」
「それもなかなか難しいよね。即座に反応出来るかどうか。アレンジ変えられたら入れないし」
「そこは賭けですね」
「メンバーが演奏止める可能性だってあるし」
「そこも賭けですね」
「賭け事好きなの?」
「負けるギャンブルはしないですけど(笑)」
勝機があるから僕を誘ったのだろうか?
こうなったら勝ち馬に乗るしかないか。
「他に何か質問ありますか?」
「いや、大丈夫」
「あ、それと、学校内ではなるべく2人で会わないようにしませんか?仲を怪しまれたらマズいし」
頻繁に会って久保にも誤解されたくないからな。そもそも誤解されるような仲にもまだなってないが。
「うん、そうしよう」
「基本は電話とメールで」
「あ、1つ聞きたかったことあるんだけど」
「何ですか?」
「机を間違えてラブレター入れた件だけど、久保の名前が書かれたノートが君の机に入ってたのは何故?」
「それは…私が宿題忘れて困ってたら彼女がノートを貸してくれたんです。あとで写すつもりでした」
それは聞いてスミマセンでした。
苦笑いで返した。
「久保とは仲が良いの?」
「いえ、特に親しいわけではないです。さっきも言いましたが、私人見知りなので」
「よくノート貸してくれたね」
「あたふたしてたからですかね?」
ライブハウスで会ったときとは別人みたいだ。メイクと髪型で人格が変わるのだろうか?
「同じ歳だしタメ口でいいよ」
「そうですね…慣れるまでは今のままで。時間をかけて頑張ってみます」
真面目な子なんだな、そう思った。
こんな真面目な子があんな計画立てるとは。
兎にも角にもこの計画は僕が演奏上達してバンドメンバーに入らなけりゃ話にならない。
単に演奏が上手いだけでもダメだろう。
彼らにバンドに必要だと思われるような技術だけではなく、カリスマというかオーラというか、そういう目に見えないものもアピールしなきゃならないしな。
久保と付き合うには遠回りかと思われる計画だけど、約1ヶ月先には答えが出るんだと思えば、近道かもしれない。
仮に計画が失敗しても僕には大きなダメージはない。
ん?
でもライブ当日には久保も観に来るよね?
バンギャなら当然そうするよね?
見知らぬ男が推しのライブに乱入してきて、ステージめちゃくちゃな空気にしたら一気に嫌われるんじゃないの??
そうなったら近道どころか道が完全に塞がれてしまう。友達にすらなれない。
それはマズい。
絶対に失敗出来ない。
失敗したら残りの高校生活ジ・エンド。
浅倉はノーダメージだけど、表に出る僕は瀕死の重傷を負ってしまう。
治療不可。
Difficult to Cure.
「失敗しても見捨てないで…ね?」
浅倉はキョトンとした目でこちらを見て固まった。




