バンドアレンジ
ナオさんから連絡があり、新曲のレコーディングは見送ることになった。
これはマイナスな意味ではなく、ウツさんいわく、まずはライブで繰り返してやることで楽曲を成長させて、熟した状態でレコーディングに入りたいらしい。
今後のバンドの方向性も定めていきたい狙いもあるのだろう。
今日は本格的にアレンジを詰めて、ライブで演奏できる状態にまで持っていくことを目的とした集まりがある。
あれから各自それぞれのパートを練りに練って作ってきているはずだ。
勿論僕も。
いざ、ナオさん宅へ。
「よっし、みんな集まったから始めるか」
「とりあえず譜面通りで一回通しで演奏してみよう。それから意見交換していこ」
まずはナオさんの曲から。
これまでのBase Areaの楽曲は全てナオさんの作曲。
言うなればいつもの感じでやれば問題ない曲たちだからメンバーもやりやすい。
歌詞に関しては現時点では仮のものしかないので、ウツさんはところどころラララで軽く歌っていく。
キーボードに関してはこれまでの楽曲ではあったりなかったりなので、パーマネントなメンバーが加わったことによりキーボードパートは必須となるのだが、そこは僕なりのセンスが問われる。
♪ジャーン(演奏が終わる)
「うん、悪くないね。もう少しベース動いてもいいんじゃない?」
「少し遊ぶ形でいいのかな?」
「そっちも試してみようか。いくつかバージョン違いがあるのも面白いし」
「ドラムの頭は抑えめじゃなくてラウドな感じがいいかな?」
「イントロはそのままでいいと思うよ。徐々に盛り上がる感じでいこうか」
メンバーそれぞれ意見交換が繰り広げられる。
こうやってみんなで一つの曲を作っていくんだ。
「キーボードは…ちょっと前に出過ぎかなぁ。ウツはどう思う?」
「確かにギターのリフのバッキングとしては弾きすぎてる感じかな。せっかくの良いリフが埋もれてしまう」
「すいません…。他は何か問題点ありますか?」
「ギターソロとの掛け合いが欲しいよね。どう?やれる?」
「はい、頑張ってみます」
「OK!それじゃもう一回通しでやろう」
♪ジャーン(演奏が終わる)
「うーん、まだ何か違うよね」
「音色かな?」
「もう少しブライトな感じがいいよね」
「ちょっと音色変えてみて」
「これですかね?」
「いや、もう少し上かな」
「じゃあ、これは?」
「これだね!よし、もう一回通しで」
♪ジャーン(演奏が終わる)
「最初に比べたら随分良くなったよね」
「とりあえず仮でOKにしておくか」
「録音してあるからこれを現時点でのバージョン1に」
そんなこんなでナオさんの作った3曲のアレンジ作業が一通り終わった。
こんなこと言ったらアレだが僕だけがかなりのダメ出しを喰らった。
ダメ出しと言っても責められるような言い方ではなく、この方がいいんじゃない?的なニュアンスなので、パワハラ会議のような居心地の悪さを感じることはないのだが、明らかに経験不足を露呈した形になった。
そりゃそうだ。
最初のライブで演奏した曲は浅倉が作ったもの。演出も浅倉だ。
僕は浅倉が作った曲を完コピしたまでで、自分なりのアイデアはほとんど入れてない。
ある意味やらされてた感があった。
しかし、バンドに加入した以上はいい加減な気持ちではやれない。
浅倉の目的でもあるバンドへの楽曲提供を行うには僕自身も成長する必要があるからだ。
「それじゃ最後にテツヤくんの曲やってみよう」
「みなさんお願いします!」
♪ジャーン(演奏が終わる)
「テツヤくんどう?何か気になるところは?」
「え?あ、はい。いいと思います」
「ベースライン問題ないかな?」
「問題ありません」
「ドラムは?」
「大丈夫です」
「ギターはどう?」
「バッチリです」
一通り問題ないと答えたが、正直言うとこれが浅倉のイメージ通りかどうかが分からなかった。
アレンジに関しては浅倉から特に何も言われなかったが、バンドでやる以上は作曲者の意図とは外れたアレンジになる可能性もある。
そのあたりはお任せだったのか、明確にこうして欲しい、ああして欲しいとかあったのだろうか?
浅倉とその辺りの意思疎通が出来てなかった。
「テツヤくん、ホントに問題ない?」
ウツさんが何かを察したのか、このように聞いてきた。
「あの、これも録音してますよね?家に持ち帰ってじっくり聴き直しても大丈夫ですか?」
慌ててそう返した。
やはり浅倉にも聴いてもらって、それから判断しよう。
「大丈夫だよ。妥協するのが一番良くないからね」
「ありがとうございます!」
「一緒にいいもの作っていこうよ」
ウツさんのこの言葉に救われた気がした。
「じゃあ、みんなに録音した音源渡すから個人練習と手直ししたい部分があれば、次回にでも発表してね」
「それじゃ今日はお疲れさま」
「お疲れっしたー」
「ナオは作詞もあるから頑張ってね」
「俺だけ仕事多くない?」
「仕事ないと困るでしょ?」
「アナタもたまには歌詞書いてもいいのよ?」
「それじゃ、おやすみー」
「あっ、逃げたコノヤロー!」




