新曲完成
「新曲完成しました。お二人に聴いてもらいたいので、明日の放課後にいつもの場所で」
浅倉からのメール。
いつもの場所ってどこだよ?二人って誰と誰だよ?とあえてツッコミはしなかった。
以前と比べて随分と砕けた感じになってきたな。
オッケー。
「先生こんばんは」
「いらっしゃい。新曲出来たんだって?」
「はい、僕ら二人に聴いてほしいらしくて」
「それは楽しみねぇ」
山田はこの間浅倉が来たことは松本には言わずニヤニヤした。
「こんばんは」
少し遅れて浅倉も到着。
「新曲の熟れ具合どうよ?」
「完熟マンゴーです」
全くもって意味不明だが自信ありげな顔だ。
浅倉は出来た新曲をスマホから流した。
T28に書いた曲とは随分テイストが違う。
どちらかと言えばロック寄りのサウンドだったBase Areaにないタイプのポップな曲だ。
キーボードがサウンドの中心になってはいるが、各楽器パートもそれぞれ躍動感があるように思える。
もう1曲はパワーバラード系の曲だろうか。
ピアノのイントロから始まりギターソロが入ってからバンドの演奏が加わる曲だ。
どちらの曲も鍵盤楽器の強みを存分に活かした作りになっている。
「…どうでしょう?」
「今までにない感じがした」
「私は凄く良いと思うよ」
「せっかくキーボードが加入したんだから今までと違う色を出したくて」
「バンドに持って行くのはけっこう勇気いるよね」
「でも、そういうのを求められてるんじゃないのかな?」
「そうだと良いんですけど」
浅倉なりにBAに新しい風を吹かせたいと思っての今回の曲だと言うことは充分理解できた。
良い意味で置きに行ってない曲だと思う。
これを採用するかどうかはバンドの判断だ。
浅倉がベストを尽くして作った曲。
これで勝負しよう。
「これでいこう」
「ありがとうございます」
「加里ちゃんよかったねぇ」
「先生のアドバイスのおかげです」
「ん?何?アドバイスって」
「内緒よ内緒」
「???」
何か知らないうちに仲良くなってるようで、若干仲間外れにされてる感じもするが。
とりあえずバンドに持って行く曲の準備は出来た。
ナオさんたちの進捗状況はどうなってるんだろ?
「あれからバンドメンバーから連絡ありましたか?」
「うん、ナオさんが予定していたより曲数少なくなりそうだからウチらが2曲作って丁度いい感じだと思う」
「スランプってことですかね?」
「いや、仕上げに時間かけてるだけだと思う」
「BAはナオさんが全曲作ってますからね。ウツさんは曲書かないみたいですし」
「そういう意味でも曲書けるメンバーの加入は大きいよね」
「書いてるのはワタシですけどね」
「はいはい、分かってますよ。でも楽器はほとんど弾けないのによく曲書けるよね」
「極端なこと言えば鼻歌でも作曲は出来るし、加里ちゃんはそんな感覚で曲書いてるんじゃないかな?」
「そうですね、それに近いと思います」
「曲のストックみたいなものはあるの?」
「断片的なアイデアはいくつかありますが、曲としてのストックはないです。アイデアを組み合わせて作ってる感じですね」
「なるほど」
「準備だけはきっちりしておくので心配しないでくださいね」
「うん、頼むよ」
そんな話をしてるとナオさんからメールがきた。
噂をすればなんとやら、ってやつだ。
「おつかれー!今度の日曜日にメンバー全員集まって新曲聴いてもらうことにするから予定空けといてね。あ、新曲のアイデア持ち込みウェルカムよ。絶賛募集中だから。もしかして曲出来てる?遠慮しなくていいからね」
すんげーたくさんアイデア持ってこいアピールしてるのだが(笑)
これは曲出来たことは黙っておいて当日驚かせるほうがよいのかな?
「お疲れ様です。日曜日の件、了解しました。今のところ何も浮かばないですが、当日までに曲のアイデア捻り出して持っていけるように頑張ります」
これてよし。
アイデアどころか2曲も出来てまーす!
ウチの浅倉がやりました!
「いいんですか?そんな嘘ついて」
メールを覗き見した浅倉が言った。
「僕がアイデア浮かんでないのは嘘じゃないから」
「じゃあ、これから捻り出すんですね?」
「捻って出せれば」
「私の曲のデータ破棄しましょうか?」
「いやいや、アナタとワタシは一心同体ですから」
「曲は捧げますが身は捧げないです」
「そんなつれない」
「松本くんも作曲出来たらバンドに3人ソングライターいることになるよね」
「いやいや、浅倉のこんな素晴らしい曲聴かされたら僕の出番なんて必要ないですよ。安心してプレイヤーに徹せれます」
「アナタに求めてるのはそこですから余計なことはしなくていいですよ」
「いつもの浅倉に戻った(笑)」
そんなこんなで今夜の集まりは終了。
本人の前ではあまり大きく言わなかったけど、浅倉のソングライティングは素人の自分から見ても聴いても素晴らしいものがあると思う。
いつ頃から曲を書くことを始めたのか分からないが、この先の成長を見るのが非常に楽しみだ。
しかも一番の特等席でそれが見れる。
楽しみがひとつ増えたそんな気がした。




