3人での打ち上げ
「業務連絡です。今後のことについて打ち合わせしましょう。18時にエレクトーン教室で待ってます」
浅倉にメールを送った。
「了解です」
返信は早かった。
「先生こんばんは」
「こんばんは、こないだのライブよかったわよ」
「観に来てくれてたんですか?」
「だって誘われたから。で、今日は反省会なの?」
「いや、今後のことで浅倉と打ち合わせを」
ギーッ、バタン。
浅倉も到着した。
「こんばんは」
「いらっしゃい」
「待ってたよ」
「で、どうでした?」
「上手くいったよ」
「ということはバンドに加入できた?」
「そのとーり!」
僕の言葉で浅倉は安堵した表情を浮かべた。
浅倉にとってのスタートラインに立てたからだ。
「ナニナニ?あのバンドのメンバーになったってこと?」
「そうです」
「あれがオーディションだったの?」
「結果的にはそうですね」
先生には細かいところまで話してなかったからな。
不思議がるのも無理はない。
「バンドとしての今後の予定は聞きました?」
「しばらくライブはやらずに曲作りの期間に入るって言ってた」
「近々レコーディングするんですか?」
「いや、まだそこまでは。メンバーからは新曲のアイデアあれば持ってきてと言われたけど」
「新曲ですか…」
「で、どうするの?ここからは浅倉の出番でしょ?」
「いや、アナタがいてこその私ですから。そうですね…新しい曲は断片的にですが作ってはいます。レコーディングに入るまでにはカタチにしておきますね」
「それまで僕はどうすればいい?」
「特に何も。強いて言うなら久保さんに嫌われないようにしてればいいんじゃないですかね?」
「わかったよ、気を遣ってくれてありがとね」
「え?松本くん、彼女できたの?」
「え?いや、まだ付き合ってるわけじゃなく、友達になったばかりです」
「また私に紹介してよ」
「…じゃあ、そのうち」
「何よその間は。嫌なの?(笑)」
「間なんてなかったですよ(笑)」
「ここに連れてきてよね」
先生がそう言うと浅倉は若干気まずそうな顔をした。
「じゃあ、今日のところはこれで」
「あ、ちょっと待って」
浅倉が席を立とうとした瞬間、僕は声を掛けた。
「まだ、ライブの打ち上げやってなかったでしょ?今からやろうよ」
「今からですか?」
「このあと何か予定あるの?」
「早く帰って寝ないと」
「明日の朝から何か予定あるの?」
「いえ、単に眠たいだけです」
「若いんだから眠気なんて何とかなるでしょ?」
「じゃあ、退屈させない巧みな話術で楽しませてくださいね」
「前向きに善処するよ」
ピンポ~ン。
「こんばんは、ピザの配達にきました」
「丁度いいタイミングできた」
「コッチの部屋で食べましょう」
先生が隣の部屋に案内してくれた。
「それじゃ、ライブの成功とバンド加入を祝ってカンパーイ!」
「ところで、浅倉ってここの生徒だったの?」
飲み食いしてしばらく経ってから僕がそう切り出した。
先生にそのことを聞いてから気になっていたことだが、ライブが成功してバンド加入が決まるまでは聞くのは控えていた。
満を持してこのタイミングで聞いてみた。
「知ってたんですか?」
「ごめん、加里ちゃん、私が教えたの」
「うん、先生に聞くまでは知らなかった。ていうか昔のこと覚えてなかった」
「…黙ってるつもりはなかったんですけど、言い出すタイミングを逃したというか、まずは目的達成を優先したくて、それで…」
「別に謝らなくてもいいよ。むしろ謝るのは僕のほうだし。一緒に授業受けたこともあるのに覚えてなかったって、ホントごめん」
「謝らなくても大丈夫ですよ、通ってた期間も短かったし、そんなにたくさん一緒に授業受けたわけでもないので」
「でも、こうやって2人がまた会えたんだからよかったわよ。私も会えて嬉しいし」
なんか気まずい雰囲気になってきた。
「あれからエレクトーンは続けてたの?」
「いえ、ここを辞めてからはやってなくて。私下手くそだったから向いてないかなと。でも、今作曲するときはあのときの経験が少しは役に立ってて、プレイヤーより裏方のほうが性格的に私に合ってると思うんです」
「確かに。とてもじゃないけど人間では弾けないフレーズとかたまにあるし」
「え?そんなに難しいですか?」
「阿修羅にならないと弾けない(笑)」
「あ、そこまで考えてなかったです。単に気持ちいい音を選んで作ってたから」
「浅倉鬼軍曹のせいで何度辞めようかと思ったか(笑)」
「じゃあ、今度からもっと厳しくしますね」
ようやく場の空気が和んだ。
「じゃあ、改めて、加里ちゃんおかえり」
「おかえりなさい」
「えっ?ただいまでいいのかな?」
「実家みたいなものでしょ?」
「ってことは私がママなの?」
「ヤンママですよねw」
「じゃあ、松本くんがパバ?」
「何でそうなるかな?(笑)」
こんな感じで打ち上げというか、途中から同窓会のようなものにもなったが、楽しい時間があっという間に終わった。
何かしらのわだかまりのようなものがあったが、これで次に進める気がしてきた。
浅倉の作る新曲に良い影響を与えていたらそれはそれでよいなと思う。




