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君がいてよかった  作者: どらさん


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15/25

夢を諦めてくれ

最後の曲が終わりメンバーがステージ袖へ戻っていった。

Base Areaのライブでは終演後に物販スタッフに混じってメンバーが即席の売り子となる。

そのことは事前に久保から聞いており、そのタイミングで声を掛けようと決めていた。


「早く早く!」

「待ってよ!」

久保が誰よりも先に物販ブースへ向かった。

今終わったばっかだからそんなすぐには出てこないだろうと僕は思っていた。

案の定、まだ誰もメンバーは出てきてなかった。


「早すぎたね」

「そりゃそうだ、楽屋で一息ついてるだろ」

「ダッシュしたら喉渇いちゃった」

「何か飲む?」

「じゃあブラックで」

「ブラックコーヒー飲むんだ?」

「コーラの」

「ブラック以外のコーラなんてあるかよ(笑)」

「透明のやつとかあるよ」

「炭酸ね、はいはいw」


くだらないこと言ってたらメンバーが出てきた。

ギターのナオだ。

バンドの広報部長だけあって、物販にも積極的だ。


「お買い上げありがとうございます!」

グッズを買ってくれたファン一人ひとりに丁寧な挨拶と握手をしてまわる。

グッズの売り上げはバンドにとって大きな収入源となるからな。


「ナオさーん!」

「おっ!久保ちゃん」

久保の呼びかけにさっそく反応してくれた。


「ライブ楽しかったです」

「ありがとう、いつもそう言ってくれるね。嘘でも嬉しいよ」

「私、悪いときはハッキリそう言いますから(笑)」

「そんときゃ凹むわ(笑)」

さすがに久保は何度もライブに通ってるだけあって、メンバーとの距離も近い。

自分は人見知りというわけではないが、久保のような存在が間にいると助かる。


「ナオさんお久しぶりです」

「おっ、テツヤくん久しぶり」

「ライブ良かったです」

「ありがとう。それはそうと、この間は楽しかったね」

「僕もとても貴重な経験させてもらいました。ありがとうございます」

「またライブやる予定はあるの?」

「いや、今のところは未定です」

「ふーん…そうなんだ」


『そうなんだ』とはどういった意味合いなんだ?

何か間があったけど。


「ちょっとウツも呼んでくるわ」

そう言うとナオは一旦物販ブースから楽屋へ引っ込んだ。

数分後、ウツを連れて戻ってきた。


「テツヤくん久しぶり」

タオルを肩にかけたウツが出てきた。

汗で髪が少し濡れてて妙に色気がある。


「この間は一緒に演奏させてもらってありがとうございました」

「あのときは即逃げだったからね。こちらこそろくに挨拶出来ずにゴメンね。楽しかったよ」

「(肝心なことを聞かないと…)」

「これからどうするの?」

「えっ?これからって…?」

「いや、この間MCでさ、これからもっと仲間を増やしてって言ってたから。あれからメンバー増えたの?」


思いもよらない質問をされてしまった。

マズい、何も考えてない。

あのときのMCは浅倉と考えて(ほぼ浅倉の案だが)決めたものだ。

仲間を増やすとはその後にBAと一緒に演ること(乱入の予定が結果として誘われて一緒に演ることになった)を想定して言ったまでであって、T28としての今後の活動予定として言ったものではない。

すなわち、あの日のライブでBAに加入すること前提での発言なのだ。

マズいぞこれは…。


「今のところメンバーはまだ…ですね」

当たり障りのない返答。


「そっか…」

可でも不可でもない返事。


ここは思い切って言うべきか…?

浅倉と事前に打ち合わせしておくべきだった。


「あのですね、」

「ウチのメンバーにならない?」

「?!」

誘われた?誘われたのか?バンドに??


「もしよかったらだけど」

やっぱり誘われてる!

やったぞ浅倉!見てるか?

あ、今いないのか。


「その場合、キミの夢は諦めることになるけどいいかな?」

「?!」


夢…。

僕らの音楽を世に響かせたい。

あのときそう言った。

バンドに加入するということは、夢を諦めることになる…?

僕らの音楽って何だ?

浅倉の作った曲を僕が演奏する、そしてBAとして演奏する。

それが夢じゃないのか?

それは浅倉の夢、すなわち僕の夢でもある。


「あの、僕は…バンドに加入したいです」

「ということは、夢は諦めるということでいいのかな?」

「いや、夢は諦めずに僕の作った曲をBAとして一緒に世の中に響かせたいです」

「それってつまり、BAがキミのバックバンドになるということ?」

「いえ、僕の力でBAをもっと大きくしたいです。それが僕の夢です」


かなりデカい口叩いてしまった。

オマエ何様のつもりだ、だろう。

頭で考えることなく自然に出てきた言葉だ。

誰からの入れ知恵でもない。

これでダメならバンドへの加入はここで潰える。


一瞬の沈黙が流れる。


「ハハハッ、いいね!」

ウツは顔をクシャクシャにしながら言った。


「実はさ、キミをバンドに加入させることは決めてたの。勿論キミの返事次第だけど」

え?どういうこと?


「ただ、単にバンドのファンだから加入したいです、何て返事だったらメンバー間で審議入ってただろうね」

まさか試されてたの?


「ここまでビッグマウスとはね」

ナオが口を開いた。

「どうする?これなら文句ないでしょ?」

ウツが他のメンバーに同意を求めた。

「いいんじゃない」

アベとカツラギも異議なしのようだ。


て、ことは…?


「これからヨロシク」

ウツが手を差し出した。

「はい!よろしくお願いします!」

僕は両手でガッチリと握り返した。

近くにいたファンも拍手してくれた。

勿論久保もだ。


この日からBase Areaは5人組となった。








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