全て出し切ったあとの…
暗転してSEが流れる。
あの有名な映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーのテーマ』を使わせてもらった。
ツナギを着た宇宙人にはピッタリで、我ながらナイスな選曲だと思っている。
浅倉からは映画『ターミネーターのテーマ』を提案されたが全力で却下した。
暗闇の中、ステージ袖からオレンジのツナギに濃いめのサングラスを掛けた男がショルキーを抱えて登場。
SEが終わってそのまま1曲目の“Song A”になだれ込む。
ちなみにタイトルは仮なので2曲目は“Song B”だ。
ステージに現れたメンバーは1人で生演奏はキーボードのみ、他のパートは打ち込みで、ボーカルはボーカロイドを使用とかなり特殊な形態にお客さんも若干戸惑ってる様子だ。
しかし、サビは簡単な英語のフレーズを繰り返すキャッチーな作りにしてあるので、お客さんも段々とノリ始めてきた。
1曲目のつかみはOK!
そして最初のMC。
「こんばんは、T28です。メンバーはご覧の通り僕一人です。今はまだ一人ですが、これからもっと仲間を増やして、【僕ら】の音楽を世に響かせたいと思います」
このMCも事前に浅倉と打ち合わせて考えたものだ。
「最初のMCで匂わせしときましょう」
「何を匂わせるの?」
「このあとにサプライズありますよ的な意味でこんな感じのを」
そう言うと浅倉は紙に書いたMCの案を僕に見せてきた。
「今日が初ライブのヤツが言っても何言ってんだ?で終わるよね」
「あのときのMCはそうだったんだと思ってもらえたら成功です」
僕の予想通りお客さんの多くはポカーンとしている。
久保もそんな顔をしてる。
このあとに待ち受ける展開など客席の誰もが予想してないだろう。
「次で最後の曲になりますが、最後ですが、【始まりの曲】です。聴いてください」
鍵盤の音色をエレキギターに変えて速弾きのシンセソロから始まる“Song 2”。
この曲も1曲目同様にサビメロをボーカロイドに歌わせる形の未完成の曲だが、あえて余白を残して作ったと浅倉は僕に言った。
ここにハマるべきピースとなるボーカルは彼女の中ではイメージ出来てるのだろう。
語彙力なくて申し訳ないが、スペーシーで壮大なプログレッシブロックだ。
とてもじゃないが売れ線ではない。
シングル向けではなくアルバムにあってこそ映える曲だとも言える。
僕は浅倉の作ったメロディーを完璧に弾ききった。
汗が滴り落ちる。
客席の表情などまるで目に入らなかった。
それくらい集中していた。
演奏が終わると一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手が僕を包んだ。
ステージ袖にいた浅倉も小さくガッツポーズをした。
やりきった。
気持ちよかった。
「ありがとうございました、T28でした!」
「お疲れ様でした」
浅倉がタオルを持って出迎えてくれた。
「やりきったよ」
「ホントに素晴らしかったです」
「まだこれで終わりじゃないよな?」
「当然ですよ、これはまだ序の口」
「Base Areaに届いたかな?」
「きっと届いてますよ」
「そんじゃ、敵さんのお手並み拝見しますか」
「おい、今のパフォーマンス見た?」
「完全に持っていったよな」
「一般受けするような曲じゃないのに」
「…。」
楽屋に設置されてるモニターからステージの様子を観ていたBase Areaの面々がそれぞれ感想を言い合っていた。
「今日が初ライブなんだろ?」
「まだ未熟な部分はあるけど、何ていうか光るものはあるな」
「このスタイルでずっとやるのかな?」
「…。」
「やりたいことやってる感じがして俺は好きだな」
「俺は曲自体は好みじゃないかな」
「他の曲も聴いてみたいよね」
「…。」
「ウツ、さっきから黙ったまんまじゃん」
「あ、いや別に」
「そっか、俺たちも負けてらんねーな」
何か思う表情のウツだった。
楽屋に戻ると他の出演者が出迎えてくれた。
「君、なかなかスゴイね!」
「ホントに今日が初ライブなの?」
「見た目で舐めてたわ、ゴメン」
「ありがとうございます、緊張して何が何だか分からないまま終わりました」
向こうからBase Areaのメンバーもこちらに来てくれた。
「なかなかよかっ…」
ナオが最後まで言い切る前にウツが声を掛けてきた。
「このあと一緒に演らない?」
「えっ?!」
「ウツ!今何て?」
「一緒にステージに立たない?」
少し離れたところにいた浅倉の表情が一瞬強張った。
それと同時に目をキラキラとさせた。
そして早くOKの返事をしろと僕にアイコンタクトを送った。
「僕でいいんですか?」
「モチロン」
「ウツ!?」
「大丈夫、やれるよね?」
「はい!お願いします!」
「出番まで打ち合わせしようか」
ナンテコッタ。
当初の予定であった彼らのステージに乱入が、彼らに認められて最初から一緒にステージに立つことになるとは。
浅倉もこの展開は予想してなかっただろう。勿論、僕もだ。
しかし、これはまたとないチャンスだ。
一気に流れを引き寄せた。
やる、やってやる!




