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君がいてよかった  作者: どらさん


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それはラブレターから始まった

高校2年生の松本哲哉は同じ学校に通う久保みつ子に恋をしていた。

高校の入学式で偶然彼女を見かけて、それから早1年経つ。

彼女は小学生時代の同級生で彼は彼女のことをずっと好きだったが、彼女は中学生になってから転校してしまった。

淡い初恋は終わってしまったのだが、まさかの再会が訪れたわけだ。

ただ未だに話すことも声を掛けることも出来ずにいる。

クラスも違うし彼女は部活にも入ってないので、接点がまるで無い。

同級生に彼女の知り合いもいない。

残された手段は3年生に進級したときに同じクラスになることを祈るのみ…そんな消極的な方法しか思いつかないシャイボーイである。

そんな彼が一世一代の勝負に出る。


ラブレターだ。


古典的な方法だが、もうこれしかない。

面と向かって言わない分、気持ち的には楽かもしれない。

しかし、失敗したときのダメージはデカい。

周りの友達に言いふらされて残りの高校生活を送ることになるかもしれない。

彼女のことをよく知らないので悪いイメージで考えてしまう。

彼女に限ってそんなことはないだろうと思いたい。

そうと決まれば善は急げだ!

まずはネットでラブレターの書き方を調べるところから始める。


うーん、どれも参考にならない。

回りくどい文章より簡潔な方が良いのか?


『好きです、付き合ってください』

いきなりこれはないか。


『まずは友達から始めませんか?』

これもありきたりだ。


便箋とにらめっこしながら格闘すること3時間。

「よし!これだ!」

ようやく納得する文章が書けた。


『今度の日曜日にデートしませんか?』

さんざん悩んでこれかよ…。

(これだからシャイボーイは)


さて、これをどうやって渡すか。

住所が分からないから郵便は無理だし、下駄箱はフタがないから他人に見つかる可能性がある…。ここは教室の机の中だな。

しかし、彼女とはクラスが別々なので、彼女がいないときを見計らって(誰もいないのが望ましいが)教室に侵入、そして机の中へ。

よし、これでいこう。



そして翌朝、昨晩は眠りにつく前に何度もシュミレーションした。

彼女のクラスの時間割も確認済みだ。

視聴覚室に移動する3限目の休み時間、この僅かな時間に勝負をかける。

授業中にも何度も念入りにシュミレーションしておこう。


作戦決行の時間だ。

怪しまれないように廊下の前をウロウロして、誰もいなくなったことを確認。


「よし、今だ!」

足早に教室に入る。

彼女の机は確か窓際だったな。


「あれ、どっちだっけ?」

荷物からするとコッチだと思うが。


「ん?誰か来る」

とっさに隠れるが、通り過ぎていったので別のクラスの生徒のようだ。


あ、机の中に彼女の名前が書かれたノートが!

ここで間違いない!


「よし、ミッション完了」

足早に教室から出ようとした矢先に人とぶつかってしまう。


「いてて、あ、ごめんなさい」

逃げるようにしてその場から立ち去った。

女生徒だということは確認できたが、顔まではしっかり見てなかった。

それくらい逃げるのに必死だった。

女生徒はそんな彼を見えなくなるまでずっと見つめていた。





ラブレターを渡してから早5日。

未だに彼女からは何も返事はない。

ラブレターには自分の連絡先も書いた。

こちらとしてはただ待つしかない。

直接聞きに行く方法もあるが、シャイボーイにそれは無理なことだ。

たまに偶然を装って彼女のクラスの様子を廊下から覗いてみるが、特段変わった様子はない。普通に友達と話してる。

スルーされてるのか?

知らない男からのラブレターだし、それもあり得るけども。

モヤモヤする日々。

もうダメかと諦めていた6日目の夜に知らないアドレスからメールが届いた。


『こんばんは、明日18時に駅前の公園で会えますか?』


いきなりの展開に驚いてるが返事は勿論YESだ。断る理由などない。


『勿論大丈夫です。よろしくお願いします』


『明日お待ちしてます』


モヤモヤしていたがすっかり気分が晴れた。

しかし、いきなりデートの誘いを受けてくれるとは。

よし、初デートはどこが良いかネットで検索検索っと。

ウキウキしながら寝床に着いた。



待ち合わせの時間10分前に到着。

彼女はまだ来てないな。

初デートなのでカジュアルな格好してきたが、大丈夫だろ。

デートプランも一応考えてきた。

楽しんでくれるといいな。


「お待たせしました」

「いや、こちらこそ…?」


振り向くと見知らぬ女性が立っていた。

黒髪のロングヘアの女性だ。


「あの、どちら様ですか?」

「私は彼女の代理で来ました」

「代理…って…?は?」

「彼女がいる場所までお連れします」


彼女の知り合い?

もしかして怪しい勧誘か何か?

しかし、嘘をついてるようには見えない。

言われるがままに彼女について行くことにした。


「着きました」

連れて行かれた場所はライブハウス。


「彼女はここにいます」

そう言うと彼女はチケットを渡してくれた。


演者として出てるのだろうか?

それともアルバイトスタッフ?

具体的なことは何も教えてもらえないままライブが行われるフロアに入った。


19時開演。

見知らぬバンドの演奏が始まった。

どうやら今日はアマチュアバンドが複数出演するイベントらしい。

みんなお目当てのバンドがいるのだろうか。

このようなイベントに来るのは初めてだ。

ライブハウス特有のノリというのもよく分からないが、音楽自体は普段聴いてはいるので、けっこう楽しめてる。

そうこうしてるうちに二組目のバンドが登場した。


「あそこ見てください」

代理の女性が耳打ちした。

そういや、まだ彼女の名前すら聞いてない。

どこかで見覚えある顔が前方にいた。


「(久保だ、久保みつ子だ)」

そう、ラブレターを送った相手だ。


「彼女はこのバンドBase Areaのファンなんです。追っかけ、いわゆるバンギャです」


「(え?バンギャ?何それ?!)」

と謎のワードを聞かされたが、バンドは演奏を止めてはくれない。


「うっしゃらぁぁぁぁ!」

ボーカルの強烈なシャウトから始まると、ドラムが激しいビートを叩き出す。

いきなりのドラムソロだ。

そしてなだれ込むようにベースが入り、切れ味鋭いギターリフが刻まれる。

長髪で金色の髪をなびかせる中性的なルックスのボーカル、リズムとリードを的確に弾きこなすギター、黙々と仕事をこなしてるかのようなベース、安定感のあるドラムの4人組だ。

ビートロック系の音楽といったところか。

多くのファンが頭を振ったり声を挙げ始めた。

久保もその一人だ。

代理の女性もステージをずっと見つめている。

僕は久保とステージのバンドを交互に見ていた。

彼らの出番はあっという間に過ぎた感じがした。


彼らの出番が終わると代理の女性は一旦外に出ようと僕を連れ出した。

彼女がここに連れてきた目的は何なんだろうか?


「ライブどうでしたか?」

「初めてにしては楽しめました」

「それはよかったです」

「ところで、ここに僕を連れてきた目的は何ですか?」

「ええ、その前にまだ名乗ってなかったですね。私は浅倉と申します」

聞いたことがない名だ。


「手紙、出しましたよね?」

「はい、でもそれはさっき前の方にいた彼女、久保さんに、です」

「実はその手紙なんですが、間違って私の机に入ってまして…いけないと分かってはいたのですが、開封して読まさせていただきました」

「(ハァッ?!)」

「(ん?てことは久保と同じクラスの人?)」

「(それにしては大人っぽいな)」

「あなたが久保さんを好きなことも以前から存じてました」

「(周りにバレるほど好き好きオーラ出してたか?)」

「勝手に手紙を読んでごめんなさい」

「(いま謝るところかよ!)」

思わず声に出そうだった。


「手紙を読んでここに連れてきたということは何か目的があるんですよね?それは何ですか?」

「はい。1つは彼女がバンドBase Areaのファンであること、もう1つは私がBase Areaが好きなこと、この2つを伝えるためです」

「(前者は解るとしても後者は僕に必要なくね?)」

理解不能な顔をしていると彼女は続けてこう言った。


「松本さん、Base Areaのメンバーになってくれませんか?」

「えっ???」

僕はさらに理解不能な顔になった。

どうしてそんな流れになるの?


「あの、メンバーになってとはどういうことですか?もしかしてあなたはバンドの関係者の方ですか?」

「いえ、私は【今は】バンドとは無関係です」

「今とはどういう意味ですか?」

「これから関係を築きたいと思っています」

ますます意味が解らない。

すると彼女は続けてこう言った。


「松本さん、楽器の経験ありますよね?鍵盤の」

確かに経験はあるが、何故それを知ってるの?経験があるといっても幼少期から中学入るまでだからブランクがある。

「(僕の過去を知ってる人なのか?)」

「一応経験はありますが」

「あなたにはキーボード奏者としてバンドに加入してもらいたいのです」

「バンドはメンバー募集してるのですか?」

「いいえ」

「…。じゃあ、僕は不要ですよね?」

「なので、バンドに必要だと思ってもらうようにこれからなってもらいます」

何だろ?この人。

ひょっとして危ない人なのだろうか?


「あの、もう帰っていいですか?手紙は改めて久保さんに送りますから」

そう言って帰ろうとした。

「待ってください!」

彼女は僕の手を強く掴んで離さなかった。

「言葉足らずでした。もう少し具体的に話します」

そして彼女は静かに計画を語り始めた。


彼女の計画はこのような内容だ。

・久保みつ子はBase Areaのファンで、特にギタリストの尚登(ナオ)を推している

・ナオに憧れている以上、松本が交際を申し込んでも付き合うのは難しい

・そこで松本にはキーボード奏者としてバンドに加入してもらい、メンバーになったことで久保との距離を縮めてもらう

・浅倉はバンドのボーカルU2(ウツ)の才能に惚れ込んでいる

・浅倉は楽器の演奏が出来ないのでバンドメンバーにはなれない

・しかし、PCを使っての作曲は得意

・キーボード奏者として加入した松本に浅倉が作った曲をバンドに持ち込んでもらい、ウツに歌ってもらう


松本は久保との距離を縮めて上手く行けば交際に発展、浅倉は自身の曲をウツという最高のボーカリストに歌ってもらえて大満足、というお互いがWin-Winになる算段のようだ。

こんなに上手く行くのだろうか?


「メンバー募集してないのにメンバーになるって、相当難しいと思いますけど」

「それは考えがあります」

ウルトラC級のアイデアじゃなければ断るつもりだった。


「来月にこのライブハウスで今日と同じようなイベントがあります。そこに松本さんの名前で出演できるようにしておくので、彼らの出番のときに飛び入りしてください」

「いやいやいや、そんなの無茶でしょ」

「ショルダーキーボード用意しておくので大丈夫です」

「そうではなくて、その計画自体が無茶だと」

「チケットノルマなら私のツテで何とかします」

ダメだ、こうと決めたら真っ直ぐな人だ。

もうやるしかないのか…。


「1日考えさせてくれませんか?」

「分かりました、明日伺います」

そう言って彼女はライブハウスを後にした。


バンドか、やれるのか僕に…?




















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