ミジンコから見た人間の時間
水のしずくに揺られながら、ミジンコのミジィは考えていた。
彼女の一生は、だいたい10日。長くても2週間。
生まれて、脱皮して、泳いで、食べて、命をつなぐ――そして、消える。
それが彼女の宇宙だった。
ある日、観察者――巨大な生き物、人間が現れた
◆ 時間のスケール:10日 vs 80年
「ねぇ人間、あなたたちの人生って、どれくらいあるの?」
ミジィの問いに、人間は答える。
「だいたい80年くらいだよ。」
ミジィは驚いた。
「80年? それって、ボクの一生の……約2900倍もあるじゃない!」
「それってつまり……あなたにとっての1日は、ボクにとっての10年くらいってこと?」
人間が何気なくスマホを見ている“1分間”は、
ミジィにとっての“半日”に相当する。
人間が「ちょっと昼寝する」2時間、それはミジィの一生の約1/5。
「あなたがまばたきしてる間に、ボクの恋が始まり、終わってしまうかもしれない。
◆ 空間のスケール:0.001メートル vs 宇宙の果て
そして、ミジィはさらにたずねた。
「じゃあ、あなたたちは、どこまで行けるの?」
「うーん……月までは行ったよ。火星を目指してる。で、アンドロメダ銀河を夢見てる。」
ミジィには、意味がわからなかった。
「ボクの宇宙は、この水滴の中なんだよ。
端から端まで泳ぐだけで、2日がかりだ。
それでも、“広い”って感じてるのに……」
ミジィの体長は1ミリ。水滴の直径はせいぜい数ミリ。
その中に、全世界と全人生が詰まっている
◆ 宇宙の“広さ”と“時間”の交差
人間が「アンドロメダ銀河まで250万光年」と聞いたときの絶望的な遠さ。
それは、ミジィが「水滴の外の水槽の端まで」泳ぐときの距離感に、実は近いのかもしれない。
けれど、ミジィは気づいた。
「あなたたちは、時間も空間も、とてつもなく“長くて広い”世界を生きてるのに、
どうしてそんなに、せかせかしてるの?」
「あなたにとっての“1年”は、ボクにとっての生まれて死ぬまでの時間だよ?
なのに、あなたはその“1年”を、“何もできなかった年”だなんて言うの?
◆ 存在の密度:短さ vs 重さ
時間は、長ければ偉いのか?
距離は、遠ければ価値があるのか?
「何かにならなきゃ意味がない」と人間は言う。
でも、ミジィの一生は、たった10日で完璧に“完結している”。
「私は小さいし、短いし、たどり着く先もない。
でも、“生きた”という実感なら、きっと、あなたにも負けないよ。
◆ 結語:ミジィの静かな告白
水滴の中で、ミジィはまばたきをしない目で、上を見上げる。
「あなたたちは、宇宙の果てを目指す。
私たちは、しずくの端を目指す。
けれど、その“旅の質”は、きっと同じもの。
時間がどれほどあろうと、“生きていること”の密度は、誰にも測れない。