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神として転生したけどなんか違う!  作者: ミスター栗
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第八話

「……存在を、感じさせる」


言うは易く行うは難し。

口にしてみたものの、それはあまりに曖昧で、不確かで、ふわふわした目標だった。


俺は“祈られた”わけでもなければ、“呼ばれた”わけでもない。

だというのに、SPを1得ていた。


つまり、人知れず、誰かの内面に何らかの形で影響を及ぼしたということだ。


――じゃあ、俺が何をしたか?


何もしていない。だが、それがヒントだった。


「……もしかして、“いるだけ”でも、わずかに影響は出せるのか?」


試しに意識を広げてみる。

外の世界――この神域の窓の向こう。

その先にいる、神達。意思も無い小さな命。生死を繰り返す無数の気配。


確かに感じられる気配の数々。

俺が神だからなのかもしれないが、意思無き神ですら気配を感じさせている。


なら俺に出来ない道理は無いだろう。


「今度は“誰かに見られよう”と意識してみるか……」


そう、“見られる”意識だ。

自分の存在を前に押し出すのではなく、“見つけてもらう”準備をする。


たとえば神社の境内に感じられる清浄な空気、天界で見た神様の後光の演出。

目に見えない存在を「なんとなく気配がした」と思わせるように。

あるいは、「ふと見上げた空に意味もなく手を合わせたくなる」ような。

――そんな“意味のない祈り”に近い、感覚のスキマを狙う。


「まずは……俺の神像(?)であるこの小石に、“何かいるような気配”を漂わせてみようか」


精神を一点に集中させる。

実際に干渉するわけじゃない。SPは使わない。

ただ“そこにいる気がする”と感じさせるよう、微細な“違和感”を刻むだけ。


誰かがジッと見ている視線の様な気配を…


意識を切り離して、何度か試す。

「……何かの気配がする……気がする」程度でいい。


それをひたすら続ける。


「まるでスパムだな」


そんなことをぼやきながらも、実際にそれでSPが増えるかもしれない可能性があるなら、やる価値はある。


他にも考える。


これが成功したなら自然の中に“印象に残る違和感”を紛れ込ませる。


同じ場所で何度も“気配”を残し続け、誰かに発見してもらう。

そして信仰されることを狙う。


「最終的には“名前”を付けて貰って、広めてくれるのが一番手っ取り早いんだろうけど……今はまだ種まきだな」


SPを消費することなく、信仰されるための土台作り。


それはとても地味で、手応えも感じない、何なら成功しているかすら分からない作業だったが――


「……こういうの、案外嫌いじゃないかもしれない」


あとは誰かに“見つけてもらう”だけだ。

その時を気長に待てば良い、そう思っていた。





タイムリミット【70:43:06】

――つまり残り、約3日。


あれから、何事もなかった。

たった一匹の虫さえ現れない静かな草原が、ただただ広がる。


「……この世界、本当に生物が存在してるのかよ」


そんな疑問が虚空に消えた。

しばらくこんな場所で生活していたおかげで、以前に比べかなり独り言が多くなっていた。


とはいえ、ただ何もせずに時間を浪費していたわけではない。


俺はこの間、ひたすらに“検証”をしていた。

自分の能力、特に《DP》の活用について、少しでも知っておくために。


正直、成果は少ない。だが、全く無駄だったとは思わない。


まず、DP。

元の世界のコーヒーや植物、そして交換所にラジカセがある時点で、少なくとも“現代日本の物”ならある程度交換可能なことはわかっていた。


そこで、試しに思考を変えてみる。

――「この世界」の物は交換できるのか?


手始めに、もはや恒例である欲しい物を”強く意識する”こと。

これによって部屋の空間に浮かぶDP交換用ウィンドウに検索欄を想像して創造する。


そこに、試しに【この世界の平均的な就寝具】と打ち込んでみる。

結果、画面に表示されたのは、木で組まれた枠の中に藁が詰められ、表面に皮が張られた簡素なベッド。


「……ちゃんと出た」


つまり、DPは“今この世界に存在する物”も対象になる。

対象範囲は想像以上に広いらしい。


さらに、気づいた点がもう一つ。


これまで俺は、DP1につき1つのアイテムしか交換できないと思っていた。

だが、よくよく比べてみるとおかしい。


500mlのペットボトル水と、1500mlのもの、どちらも1DP。

チョコレートも、1個売りと10個入りの箱売り、どちらも1DP。


「……意外と、ガバい」


この判定、かなり雑というか――こちらからすれば好都合すぎるほど甘い。


「ま、ありがたいけどな。バグ利用してるみたいでちょっと怖いけど」


だが今は、生き残るために使える手は全て使う。

誰に文句を言われる筋合いもない。



あと体が“神”になったとはいえ、集中力に限界がないわけではないようだ。

DPの検証に夢中になっていたが、時間が経つにつれ、徐々に精神的な疲労が蓄積していくのを感じていた。


身体的な疲労は一切ない。だが、頭がぼんやりと霞み、考えがまとまらなくなる。

神になったからといって、全能無敵な存在になったわけじゃないんだな――と、少しだけ安心した気持ちにもなった。


そんなわけで、合間合間に休憩を挟んでいた。

そして、その休憩中に、前々から言っていたことを実行にした。


今思うと必要最低限以下の情報しか書かれていなかった、あの無題名の本。

あれを、破いて折り紙をしたのだ。


だが、破いた瞬間、妙な違和感を覚えた。

しばらくして気づいた。


破いたはずのページが、次第に――いや、“勝手に”再生していく。

ただし元に戻るのではない。ちぎれた箇所が自然に修復されるのではなく、まるで“別のページ”が新しく生成されるかのように。


「……マジかよ。無限かよ、この本」


破いたページの内容も、元の文章そのままに再現されている。

しかも破いた部分には一切の痕跡も残らない。

完全な複製。しかも無限生成。


「……便利すぎだろ」


これなら、メモ用紙にも使える。

いや、むしろ使わない理由がない。


余白の多いページを選び、そこだけを破って、折り紙にしたり、メモ帳代わりに使ったり――。


「神様の持ち物ってのは、いちいちスケールが違ぇな……」


そんなふうに感心しつつも、俺は無言で本を数ページ破ってストックした。

検証記録、気づいたこと、SPの考察メモ……使い道はいくらでもある。


俺の“神としての知恵”も、こうして少しずつ積み重ねていくことにしよう。

幸いにもこの部屋は前世のとは違い、まだまだ場所だけはあるからな。



次に、SPだが――


……なにもない。


というか、何も“できなかった”と言うべきか。


現状、SPは“1”しか所持していない。

しかも、どうすれば増やせるのか、その方法自体は判明している。

判明しているものの、その手段はないのが現状である。


もちろん、SPについても検証をしたい気持ちはあった。

だが――


「なまじ、“何にでも使える”ってわかってるだけに、無駄に使える余裕はないんだよな……」


SPの用途は、あらゆる可能性に繋がっている。

創造?干渉?交流?――それら全てが、SPというリソースに依存している。

だからこそ、軽々しくは扱えなかった。


「……大事にするのは良いけど、大切に扱い過ぎて使いどころを失うのはやめたいな」


かといって今、無意味に試して消費してしまえば、取り返しがつかない。

いや、そもそも“次”があるかすら分からないのだ。


「……所謂ラストエリクサー症候群ってやつだな。ハハッ」


自嘲気味に笑ってみせるが、その笑いはすぐに溜息へと変わった。

結局、SPの項目は、“触れずに保留”という選択をする他なかったからだ。


まぁ、今はまだそれでいいだろう。


個人的には使って後悔するくらいなら、温存しておいた方がマシだ。

……少なくとも、このタイムリミットが尽きる直前までは。

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