第六話
接続を切り、俺は視線を落とす。
「……案外、神様って孤独なもんなんだな」
――そう、思いかけて。
(……いや、違うな)
俺は眉をひそめて、再び窓の向こうに意識を向けた。
(なんで……誰も反応しなかったんだ?)
声をかけた。雑談もした。無視されたとは思えない。
まるで“そこに神がいない”みたいに、空気だった。
(本当に、そこに“誰か”いるのか? それとも……全員が俺みたいに様子見してるのか?)
そもそも、今の反応が“無視”だったのか、それすら判断できない。
無音、無応答、無感情――まるでこちらの存在すら認識されていないみたいだった。
(俺と同じように、“転生して間もない新米神”ばっかりだったとしたら……向こうもどうしていいかわかんねぇのか?)
あるいは、神の意識が完全に眠っている状態なのかもしれない。
神であるということにすら、まだ気づいていない可能性もある。
「……反応がない理由、思ったより根深いかもしれねぇな」
頭をかきながら、俺は立ち上がった。
静まり返った真っ白な空間――その沈黙が、さっきより少しだけ不気味に感じられた。
「……神様探知、条件指定とかソート機能はないのか?」
ふとした思いつきで意識すると案の定出来た。
早速「意思疎通の可能性がある」「意思を持っている」という条件に絞って探知する。
結果は――ほとんどいない。
ポツポツと、ごくわずかに存在しているが、それらも数秒と経たず消えて、またどこかに現れる。
そのサイクルには、何の規則性もない。ランダムで、気まぐれで、不可解。
「……なんだこれ」
俺は目を細め、しばらく考え込んだ。
(この現象、まるで……)
ここで、最悪な予想が脳裏をよぎる。
その嫌な予感を確信へと変えるべく、再度探知を実行。
今度は「1分以上存在している神」という条件を追加してみた。
――次の瞬間、視界に映っていた光の点が、すべて消え去った。
「やっぱり……そういうことか」
思わず声が漏れる。
俺の予想は、現実だった。
(恐ろしい速さで、神は生まれ……そして死んでいる)
ほとんどの神は、生まれた時点で意思がない。
意思が芽生えたとしても、すぐに消える。まるで間に合っていない。
「タイムリミット……か」
あの謎のカウントダウン。
俺だけが長い猶予を与えられているとしたら――これは“お詫び”なのだろう。
だとすれば、あの高速で生まれ消えていく神々の連鎖は――
「……まるでガチャ、だな」
そう呟いた俺は、ふとあの神を思い出した。
妙に軽い口調、どこか胡散臭い態度――そして唐突すぎる神への転生の提案。
(やっぱり、あの神……何か隠してやがる)
この“高速生成&破棄”のループこそが、あの神が俺に神転生を勧めた理由なのだろう。
神は多く居て、未だに増え続けている。
だからこそ俺みたいな、異物とも言える者が簡単に着席できる空席がある。
だが、「空席」とはつまり、誰も定着できなかった席だ。
自我を持った神が生き残れないほど厳しい、もしくは制限が多すぎる領域。
そう考えると、今こうして“生きてる”俺は、異常だ。
カウントダウンが長く与えられていること……お詫びかとも思ったが、もしかすると“実験”のような物の一環かもしれない。
「……つまり、このカウントダウンを止める方法が限られてるってことか」
空席が埋まらない理由、それがタイムリミット。
そこをどうにかしなければ、誰も“神”として定着できない。
そしてその“どうにかする方法”が、未だ不明である。
「方法が……無い可能性もある、ってか」
声に出すと、途端に背筋が冷えた。
それだけは考えたくない。考えたら負けだ。
白い空間の中、俺はもう一度、静かにカウントダウンを見上げた。
今までよりも、その数字が重く見えた。