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神として転生したけどなんか違う!  作者: ミスター栗
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第二話

意識が覚醒した。

いつの間にか寝てしまったようだ。

最後に話した記憶は神に転生すると決めた瞬間だった。


どうして記憶がないのだろうか、本当に転生したのだろうか?

俺は頭を回転させ、次々と出る答えの無い疑問に悶々と思案しながらも目を開ける。

しかしそんな考えは目の前の光景によって霧散することになる。


ただ、目の前には何もかもが白一色の空間が広がっている。

俺はその中で体が浮いているわけでもなく、重力を感じるわけでもない。

しかし確かに地に足を付けている感触だけは感じる不思議な感覚を感じていた。

俺はその空間に深く包まれているような錯覚を覚えた。


「……う、うーん……」


まるで目を覚ましたばかりの夢の中のような、ぼんやりとした感覚。

しかし思考は至ってクリアである。


おそらくこの真っ白な空間がそんな感覚にしてしまうのだろう。


自分がどこにいるのか、何が起きたのか、全く分からない。


考えても仕方ない。

その考えに至った俺は最初の一歩を踏み出す。


いや、踏み出そうとした。

進もうとした先に何かが置いてあり、足を強打したのである。


思わず「痛っ!」と言ってしまった、が口癖で出てしまっただけで神経は全然痛みを訴えていなかった。

これは神になったからなのか、そこまで強く打っていなかったのか。


そんな考えを一旦隅に置き、足元を確認した。


そこには、物が二つ置かれていた。

それは、CDラジカセと、手のひらサイズの本だ。


「俺のラジカセ……?」


一目見ただけで確信した。

それはかつて俺が生前最後に唯一持っていた娯楽用品のラジカセだった。

と言ってもこれは中古用品店で歌手もわからない古いCD1枚とセットになって売られていた物だ。

確かしばらく聴いた後、ボタンが戻らなくなったり、スピーカー内部の丸い部品が取れて音が出なくなって押入れに仕舞っていた。

そのはずなのに、今そこにあるラジカセは買った当時のようになんの違和感もなく、きちんと置かれている。


「まさか直ってるのか……?」


信じられない気持ちでラジカセを見つめていると、横に置いてある本にも目が行った。

その本は、表紙に何の文字もなく、ただ無機質な表面をしている。それでも、この空間に存在しているのだから何かしらの意味があるだろう。そう考えて俺は本を手に取った。


本を開くと、そこに書かれていたのは、この場所――つまり、神の部屋に関する情報だった。

それは何も知らされていない俺にとっては非常に重要な内容だった。


「……神の部屋、か」


どうやら、ここは神々がそれぞれの役割を果たすための空間でもあり、各神が自分の部屋を持って生活をする場所でもあるらしい。ただし、神格が小さい……つまり目立たない存在であっても、その部屋は存在し、個々の神が自由に使って良いようだ。

しかし、ここに書かれている内容はそれ以上でもそれ以下でもなく、まるで最低限の情報だけが書き記されているだけのようだ。


「……役割って、どうやって確認するんだ?」


そう口にしながらも本を読み直したり、逆さまにしてみたり、脳内でイメージしたり、様々な試みをして俺の役割を探してみるが答えが得られることはなかった。


「……もしかして特にないのか?」


俺の頭の中で、混乱と興奮が交錯する。


もしかするとこれもお詫びの内なのだろうか?

それとも自分は神格が小さく、役割がまだ無いだけなのだろうか?


ともかくまさかの転生先が神とはいえ、何も特別な仕事などはなさそうで一安心だ。


ただここに居るだけで良い。

自由に暮らせるっていうけど、役割……仕事が存在するのに自分には無いと知ると何か落ち着かない。

それとも、本当に何もすることがないのか?


これがワーカーホリックと言う奴なのだろうか?


「まぁ……でも、少なくとも食事の心配とか、金の心配はなさそうだよな」


そう呟きながら、目を再びラジカセに向ける。

壊れていたはずのラジカセが直っているという不思議な出来事が、どこか不安を感じさせる一方で、少し安心感を与えてくれる。


とりあえず、今はどうしても確かめたかった。

ラジカセを手に取り、ボタンを押すと、驚いたことに本当に直っているようだった。

変な話だが、俺の知らない聞き馴染んだ音楽が流れ始めた。

生前、あの音が流れる瞬間だけは、自分を取り戻せる気がしていた。

今、まさにその音楽が俺を包み込んでいく。


「……これが、神の部屋か」


音楽を聴きながら、俺はしばらくその空間で落ち着こうと思った。

やるべきことは何も分からないし、焦ることもないだろう。

ただ、この異空間の中で、少しでも自分のペースを取り戻すことが大切だ。


そして、ラジカセの音が俺の耳を包み込んで、静かな時間が流れていく…。


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