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軍人エルフと喫茶店  作者: かんひこ
第四章 冬、戦い
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三十六品目 カフェオレと決別―中編

「……ルートヴィヒ?」


 思わずそう声に出し、エルフリーデは目の前に引き立てられ、膝立ちにさせられた男をまじまじと見た。

 両手を後ろ手に縛られ、目隠しをされ、口にはタオルのような物を噛まされているが、そこにいたのはオフィスで待っているはずの後輩、ルートヴィヒ・オーベルトに違いない。

 エルフリーデの一言が聞こえたのだろうか。俯いていたルートヴィヒは驚いたように顔を上げると、こちらへ向いた。


「知り合いかい?」


 不意に、歩み出てきたアルノーがそう声をかけてきた――瞬間、エルフリーデは己の浅はかさを呪った。

 動揺から、思わず名を口走ってしまった。だが、もう後戻りはできない。

 エルフリーデはぐっと歯を食いしばりながら、頷いた。


「私の、部下だ。後をつけてきたらしい」


 アルノーは、眉根を寄せて呟いた。


「なら軍人か。……厄介だね」

「どうします? 始末しますか?」


 アルノーの仲間の一人が拳銃を手にして近づいてくる。

 アルノーは静かに頷くと、彼の銃に手を伸ばした。その、直後のことだった。


「アルノーさんが手を下す必要はないのでは?」


 奥の部屋から、そんな言葉と共に一人の男が現れた。

 まだ随分若い、少年のエルフ。その声を聞き、顔を見て、エルフリーデは息を呑んだ。


「エアハルト君、もう具合は良くなったのかい?」


 アルノーにそう声をかけられたエアハルトは「ええ、もう大丈夫です」とにっこり笑って頷くと、目線をエルフリーデに向けた。


「お久しぶりです、エルフリーデさん。それに、レオナさんも」


 久しぶりだな、と返事をする気は全く起きなかった。


(……ハメられた、か)


 エアハルトが、傲慢だが切れ者であることは、以前の一件でよく知っていた。

 この倉庫を拠点とすることも、今の状況を作り出したのも、もしかすると彼の策略の内なのかも知れない。そう思うと、寒気がした。


「それで、僕が手を下す必要がないというのは、どういうことかな?」


 アルノーの言葉に、エアハルトは不気味な笑みを浮かべて頷くと、


「エルフリーデさん。彼女に処刑していただけば良いんですよ」


 そう、大仰な身振りを加えて言い放った。


(小僧、よく考えたな)


 エルフリーデは奥歯を噛み締めた。

 自分の部下だった男を皆の前で殺せば、“組織”への忠誠を証明させられるし、それが無理なら裏切り者としてすぐにこちらを抹殺できる。

 エアハルトからすれば、またとない復讐の機会だろう。

 アルノーも、彼の提案に別段反対する様子もなく、頷いた。


「エリー、やってくれるかい?」


 言って、アルノーはエルフリーデに拳銃を差し出した。

 不安げな顔で、レオナがエルフリーデとルートヴィヒを交互に見る。


(……でもな、小僧。私には、仲間がいるんだ)


 エルフリーデはレオナの肩を二度、ぽんぽんと叩くと、アルノーに言った。


「拳銃は要らない。音でバレる」

「なら、どうするんだい?」

「魔法でやる。先人たちが、やってきたように」


 エルフリーデは椅子から立つと、ルートヴィヒの方へ数歩歩み出、右手を伸ばした。


(もう、後戻りは出来ない)


 いや、もう随分前に、復讐鬼に戻れる地点は過ぎていたのだ。

 脳裏に、上に集まっていたエルフ達の姿がよぎる。

 傷つき、疲れ果て、それでも現状を変えるために集まった大勢の同胞たち。


(この選択で、あの人達を救えるか……)


 でも、復讐では、きっと彼ら彼女らを救えない。そんな確信が、湧水のように胸の奥から湧き上がってきた。

 覚悟が、定まった。


 エルフリーデは、魔法を放った。


 瞬間、辺りが白い煙に包まれた。

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