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軍人エルフと喫茶店  作者: かんひこ
第三章 秋、迫りて
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十九品目 臨時休業と思わぬ繋がり―前編

 レオナは普段、日のある内は街に出ている。

 彼女が担っている役割柄というのもあるのだが、最大の理由は別にあった。

 酒だ。

 家にいては、エルフリーデの目もあって以前のように浴びるような飲酒をすることは出来ないが、首都の複雑で難解な路地の中ならば話は違う。

 そういう趣味と実益も兼ねて、レオナは特別な予定さえ無ければ日が沈むまでの間、ふらふらと外をほっつき歩いていた。


 今日もまた、レオナは朝のごく早いうちから家を出ており、エルフリーデが目を覚ます頃には簡単な朝食と“行ってきます♡”の書き置きだけがリビングのテーブルに置かれてあった。


(まったく、一体どこからあんなに酒代が出てるんだろうな)


 レオナの収入の大部分は、エルフ族の各団体から支払われる謝礼や軍内部の親エルフ派将校達からの協力金だ。

 以前ならそれを酒に使っていたと言うのは納得できるが、今は収入の多くを生活費として納めてくれている。

 前のように“浴びるよう”な飲酒が出来るほど手元に残ってはいないはずだ。


(……まぁ、そこまで深く首を突っ込むのも良くないか)


 最近はエルフリーデの方も、身体を壊すような飲み方さえしていなければそれでいいではないかと、考えを改めるようになってきた。

 自分がそうであるように、レオナにも、エルフリーデには言えぬ悩みというものがある。

 それを多少の酒で和らげられるのなら良いではないか、と。


(さて、それじゃあそろそろ行くか)


 朝食を終え、支度を済ませると、エルフリーデは家を出て、いつものトレーニングに向かった。

 それが終われば、喫茶店だ。



 *



「……なん、だと」


 店先に置かれた『本日勝手ながらお休みさせて頂きます』の看板を見て、エルフリーデは思わずそう言葉を漏らした。

 店の窓にはカーテンが掛けられ、隙間からのぞく中は暗い。


(まぁ、店主も見たところかなり高齢だったからな。こういうことも、あるか)


 致し方ないとは言え、少し残念だ。そう思いつつ踵を返そうとして、ふと、玄関扉のすぐ脇に見慣れぬ木箱が置かれていることに気がついた。

 中に、何か入ってある。覗いてみて、エルフリーデはほう、と息をついた。


(……じゃがいもか)


 ゴロゴロと大きく、まだ土のついたままのじゃがいもが、『ご自由にお取りください』のメモ書きと共に大量に入れられていた。

 店主なりのお詫び、ということなのだろうか。それにしても、見るからに美味そうだ。


(ふか)してサラダにしても美味そうだし、スライスして揚げても良さそうだ。お言葉に甘えて、幾らか持ち帰らせてもらおう)


 幸い、いつも手提げ袋は何枚か持ち合わせてある。

 鞄から取り出して、いざ頂こうかと思ったとき、不意に背後から声を掛けられた。


「あれ、少――いや、先輩じゃないですか」


 振り返らずとも、声で分かった。ルートヴィヒだ。


「おう。なんだ、お前も来たのか」


 すぐ横まで駆け足でやってきたルートヴィヒに、エルフリーデはすっと立ち上がってそう言った。


「だが、残念だったな。今日は休みらしい」

「あれ、ほんとだ……まぁ、そういう日もありますよねぇ。

 それで、そのじゃがいも達は一体何です?」

「店主のご厚意みたいだ。袋、持ってないなら貸してやろうか?」

「ありがとうございます! また今度、洗ってお返しします!」


 ルートヴィヒは元気に言ってエルフリーデから袋を受け取ると、二人揃って屈んで、じゃがいもを幾つか中に拾い入れた。


「いやぁ、これでツマミを買っていく手間が省けたな……」


 必要最低限の量を取り終わり、立ち上がったルートヴィヒが背伸びついでにそう漏らす。


「お、晩酌のアテにするのか。あんまり飲みすぎるなよ?」


 ニッと笑いながら言ったエルフリーデに、ルートヴィヒは一瞬きょとんとした表情を見せるや、「あぁ、いえ。オレのじゃないですよ」と返事して、続けた。


「実はこの先の路地に、酒とツマミを持っていくとタダで珍しい魔法の技術を教えてくれる兄さんがいましてね。

 もしお暇でしたら、先輩も一緒にいかがです? もしかしたら、何かの役に立つかも知れませんよ」


 路地で酒とツマミを求める、魔法に長けた兄さん。

 一瞬、心当たりがあるようにも思われたが、エルフリーデはすぐに早合点だなと思い直した。


(確かにあいつは若い男に見えなくもないが、そもそも魔法が苦手なタチだ。人に教えられるほどの腕を持ってはいない)


 軍の魔法規制が緩和されたこともあり、最近は術者の数も増えた。

 そんな人々の中に、そういう風変わりなことをする者がいたと言うだけの話だろう。


(そうとは言え、面白い話ではあるな)


 大方、軍の採用規程からあぶれた、にわか術者のたぐいなのだろう。暇つぶしに、そんな奴の鼻を明かしてやるのも悪くない。


「そうだな。ぜひ、そこに連れて行ってくれよ」

「分かりました! ささ、どうぞこちらへ」


 そう言いながら路地の方へ入っていくルートヴィヒの背を追って、エルフリーデも歩き始める。

 “にわか術者”の正体が誰であるかなど、まったく知る由もなく……。

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