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軍人エルフと喫茶店  作者: かんひこ
第二章 夏、深まり
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十四品目 レモンシャーベットと事件の後

 連邦国内最大のエルフ族武装勢力だったゲッツ一派解散は、一週間もの時をかけて彼らの主戦場であった西部地域やその他地方に伝わった。

 情報化社会の現代にそれほどの時間が掛かったのは、連邦法によりエルフのインターネットや携帯電話などの契約や使用が厳しく制限されているからと言うのが、大きな理由だろう。

 また、武装勢力が軍や警察に通信を傍受されるのを恐れて、アナログな情報伝達を主としているのも、要因の一つかもしれない。

 電撃解散ということもあり、反骨精神の旺盛な若者や強硬派、西部で戦う者達は激しく動揺したようだが、手荒い手段や主張を繰り返す一派を煙たがっていたエルフ達も大勢いたようで、彼らは大いに喜んでいるようだ、と、エルフリーデはレオナ伝いに聞いた。


 ゲッツは、もとより強硬で過激な行動を好む人物だったが、彼以上に、彼の息子エアハルトやその仲間達は凶暴だったらしい。

 リヒテンベルク大佐の襲撃許可に関する返答が中々来ないことに業を煮やした息子達に背かれて、しばらくの間監禁されていたようだった。

 エルフリーデに助けられ、さすがに頭が冷えたのだろう。


「あまりにも過激すぎる方針は、かえって民族全体を滅ぼしかねないですね……そうなれば、貴女のお父上に申し訳が立ちません」


 と、真っ青な顔をしながら一派の解散を宣言し、正式な文書にしたためてくれた。

 情けないところを見せたとは言え、地獄の大虐殺を生き延び、連邦軍と長きに渡って抗争を続けたカリスマ的指導者だ。

 時間は掛かるだろうが、きっと各地の部下達を上手く説得し、解散を実現してくれることだろう。


 解散宣言によって軍内部も大いに揺れ、その対応に追われた。

 リヒテンベルクの代わりを任されているエルフリーデも今まで以上に業務に忙殺され、一時は休日返上を覚悟したが、幸運にも、彼女には一人の大きな味方がいた……。


「いやぁそれにしても、今週は本当に大変でしたね、先輩」


 ルートヴィヒである。何かと優秀な彼は、副官として今回も大いに頑張ってくれた。

 今日はそのお礼と、前回の埋め合わせも兼ねて、いつもの喫茶店に二人で来ていた。


「ああ、本当にな。お前がいてくれなかったら相当まずかったと思う。ありがとうな」


 エルフリーデに礼を言われて、ルートヴィヒは嬉しそうに笑う。中型犬の様な人懐っこい笑みだ。

 そんなやり取りを交わしていると、店の奥から老店主がやってきた。お盆の上には、注文したレモンシャーベットが乗っている。


「ごゆっくり、おくつろぎください」


 いつもの決まり文句を言って、店主はいつもの如く席から離れていく。

 今日は少し暑さが和らいでいるので、店内には客が多い。夏が終わり、またいつもの静けさが戻ってくるのが待ち遠しかった。


(だが、客足が少ないのは、それはそれで問題か)


 ふっと、心中で苦笑して、エルフリーデは目の前に置かれたシャーベットに目をやった。

 カーテン越しに射し込む陽の光に、表面の小さな氷の粒がキラキラとガラスのように輝いている。

 黄色いドーム状の本体は、どこかヒヨコかカルガモの子の頭のように見えて可愛らしく、スプーンを入れるのを少し躊躇(ちゅうちょ)する。

 だが、この暑さには敵わない。

 エルフリーデは喉を鳴らすと、意を決してスプーンですくい、一口食べた。


 直後、エルフリーデは目を見開いた。

 パッと、弾けるようなレモンの爽やかな酸味と香りが、同時に口の中に広がっていく。

 シャクシャクとした冷たい氷の歯触りが心地良く、サラリと溶けて滑り込んでいく喉越しも、この酷暑には堪らない。

 暑さをかき消すような爽快感。

 他の客が良く頼んでいるのを見て、夏のメニューとしても丁度良さそうだと思い注文してみたのだが、その判断に間違いはなかった。

 シンプルだが、かえって雑味やくどさがなく、スプーンを動かす手が止まらない。

 だが、やはり冷たい物を食べるときの宿命か、パフェのときにもやったような、稲妻のごとき頭痛がキーンと脳を貫いた。

 思わず歯を食いしばり、片目を閉じて顔を上げる。

 と、向かい合うルートヴィヒも、まったく同じ表情をして、頭痛に悶え天井を仰ぎ見ているのが見えた。


「なんだ、お前もか」

「そういう先輩も同じじゃないですか」


 言いながら笑いあい、また爽やかさを味わう為に、スプーンを動かした。



 豪雨のような激しい日々が何とか過ぎ去った後の穏やかさを享受しながら、エルフリーデは帰り際、レオナの分のシャーベットを一つテイクアウトし、ルートヴィヒと別れて家路についた。

 西の空に、入道雲が一つ見える。

 夕立でも降るかもしれない。エルフリーデはやや歩調を速め、家の中へと駆け込んだ。

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