表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

【短編】愛することはないと、嫁ぎ先で塔に閉じ込められた。さあ。飛ぼう!

作者: サバゴロ

「ハハハ。この婚姻同盟によって両国とも平和になりますな!」


 王子と私の結婚披露宴は壮大。

 すっかり母国の宰相も、安心したようでした。


 十年も続いた戦争の終わりを喜び、王都もお祭りのよう。

 久しぶりに笑顔で賑わう町を見て、私も嬉しくなりました。


「姫様。どうか。どうかお幸せに」

「心配しないで。今までありがとう」


 乳母も宰相も、帰国していきました。

 さみしいですが、結婚とはそういうもの。


 ところが宮殿内の、私への態度が豹変します────


「あんたのせいで夫は死んだッ!!」

 召し使いは泣きながら、私に水をかけました。


「きゃっ」

 廊下を歩けば、後ろから蹴られ、見下ろされる。


「はあ。姫様。またスープに毒が────」

「しかたないわ。恨む気持ちもわかるもの」


 母国から連れきた唯一の侍女ソシエはため息。




「姫様。ドレスが汚されていますっ!!」

()()()困ったわね」

「無視では飽き足らず、嫌がらせを許して。なんて酷い結婚相手!」

「あら。放置される方がいいわ。怖いもの」

「殺戮王子ですもんね。ですがこのままでは───」


 王子が怖いわけではありません。

 覚悟して嫁いでも、やっぱり初夜は怖いのです。

 そして、ソシエは守りたい。


「そうね。危険ね。ソシエだけでも帰国して」

「姫様を置いて!?」

「和平の証の私は殺されない。でもソシエは何をされるか」

「ですが!」

「私なら大丈夫。知ってるでしょ?」

「───では、城下町で待機します」


 侍女ソシエを宮殿から逃がすと、食事も出なくなりました。

 部屋に王子がいらっしゃいました。


「殿下。お久しぶりにございます」

「ああ。そうか。結婚式以来だな」

「本日はどういったご用件で?」


 警戒してしまう────


「そなたを愛することはない」

「問題ありません」

「塔に移ってくれ」

「かしこまりました」


 私は塔に閉じ込められました。

 扉は内側から開きません。

 ですが、窓があります!!


 私は魔法が使えます。飛行、透明化の二つ。

 ちなみにソシエの魔法は、無毒化。

 毒入りスープも、おいしいスープに。

 私は早速、ソシエのいる城下町に飛びました。


「姫様ぁ! ご無事で!」

「ええ。かわいいお家ね」

「いつでも姫様がいらっしゃれるよう、食事も用意しています」

「ありがとう。嬉しい。頂くわ」


 温かいスープから、ソシエの思いやりが心に染みる。

 こそ泥のように厨房で飲んだスープより、ずっと美味しい。


「宮殿でお化けがでると、町で噂になってます。なにか失敗しました?」

「この前、廊下で人にぶつかっちゃった」


 私の透明化は、視覚、嗅覚、聴覚から消えるだけ。

 触れるし、殺せます。


「姫様の状況を、本当に母国に伝えないでよいのでしょうか?」

「絶対に教えてはいけない。せっかく平和になったのだから」

「ですが、王子はいまだに姫様を放置してるのでしょう?」

「一度いらしたわ。『そなたを愛することはない』と伝えに」

「まあ! なんて、ひどい!」

「別に。私も愛してないし。王族の結婚なんてそんなものよ。そろそろ帰らなきゃ」



 なんだか気になって、王子の部屋に寄ってみました。

 透明化しても、扉を開けば見つかってしまいます。

 ですから、廊下から覗きました。

 服と同じで、私が触れれば壁も透明にできます。

 すると王子は、結婚前に贈った私の肖像画を眺めている。


 なぜかしら?


 翌朝、王子を上から尾行してみました。

 戦争で焼け野原になった町の、復興に尽力する王子。

 母国も同じ状況なのでお互い様。

 ですが罪悪感が膨れ上がり、とてもとても胸が痛む────


「あれ。風か?」


 日暮れに、王子のテントの布の扉を開き、潜り込みました。


「ジェリィ。愛してる。一目でいい、会いたい────」


 王子は私の名を呼び、愛をつぶやいた。

 愛することはないとおっしゃったのに!?

 でしたらなぜ放置して、塔に閉じ込めたの??


 王子を毎日眺めます。 

 宮殿に戻る暇もないほど、王子はよく働く。




 ドガ────ンッ!! ガラガラガラ────

 復興作業中に壁が崩れ、王子は生死をさまよう大けがを!

 なんてこと!!

 私は母国にポーションを取りに飛ぶ。


「お願い。どうか間に合って────」


 最速で戻ったのに、もう真夜中。

 さあ。どうやってポーションを飲ませる?

 寝てる人の口に流し込むのは危険。

 しかもポーションは臭く苦い。


「うぅ。っううッ!」


 王子は苦しみ悶える。

 私は口移しで少しずつ飲ませることに。

 透明化すれば、ポーションの臭さと苦さは消えるはず。

 恥ずかしがってる場合じゃない!

 ゴクッ。

 王子が飲んだ後、目を見開いて上半身を起こす。

 よし。今ならいっぱい飲める!

 私はもう一度、口移し。

 ゴクゴクゴク。

 そして、王子は両腕で、透明な私を捕らえた。

 ────殺されるかしら。

 ゾクッと背筋が凍る。


「ジェリィが助けてくれたんだね。ありがとう」


 王子は私に頬ずりする。

 へ?

 私だとばれてる!?

 つまり、私の魔法を知ってる!?

 私は透明化を解いた。解かないと話せないから。


「なぜ私の魔法を知ってるのです?」

「俺の魔法は温度探知だ」


 う。私と最も相性の悪い魔法────

 透明になったところで、心臓は動き、血は流れる。

 体温は隠せません。


「私をお嫌いでないのなら、なぜ放置したんです?」

「俺が嫌いだろ?」

「嫌いになるほど、殿下を存じ上げません」

「俺は殺戮王子だ。ジェリィも怖いと言った」

「だから、愛すことはないと言ったのですか!?」

「安心すると思ったんだ。実際、安心しただろ?」


 確かに。

 愛のない相手との初夜がなくなったと知って、ちょっと安心してしまった。

 なのに、今、王子は逃がさないように、私を抱きしめたまま話すのです。

 恥ずかしくて、鼓動が早くなり、体温が上がってしまう。


「殿下が怖いのではなく、初夜が怖いだけです」


 私を見ないで。

 つい、透明化してしまう。

 でも……あれ?

 なんで私とソシエの会話を知ってるのかしら?

 透明化を解く。


「なぜ、怖いと言ったとご存じなのです?」

「俺のもう一つの魔法は聴覚強化。この二つの能力で勝利した。安心して。嫌がることはしない」

「なぜ塔に閉じ込めたのです?」

「留守中に何かされたら怖い。宮殿にいる間だって守り切れなかったんだ。もちろん悪事を働いた者は処罰した。本当にすまなかった」

「守ってくださってたの?」

「見張ってる間に、かわいくて、優しくて、凛々しいから。好きになってしまった」


 屈強な王子が、怯えながら、ゆっくり愛を告白────

 なんて不器用な人。

 でも、こんなに褒められたら、恥ずかしくて透明になっちゃう。

 

 ん。でも。あれ?

 私が見てると気づいてたのよね?

 また透明化を解く。


「私がいるとわかって、肖像画を眺め、愛をつぶやいたのですか?」

「そばにいて欲しくて。だけど怯えてるのに強制したくなくて」

「……」


 意外とあざといのかしら。


「かわいいなあ。消えたり、恥ずかしそうに現れたりを繰り返すの」

「見ないでください」

「無理。かわいくて。少しは俺が気になった?」

「ええ。まあ。少しは」


 本当は、少しではありません。

 汗をかき、先頭きって働く王子は素敵で尊敬しました。

 兵からの信頼も厚く、民にも愛されてました。

 この優秀な王子を死なせたくないと、強く願ったのです。


「ずっとそばにいてくれる? そうすれば守れるから」

「はい」

「ジェリィに好かれるように努力する。少しずつ夫婦になっていこう」

「はい」

「キスはもう怖くない?」


 頷くと、王子は私に優しくキスを。

 恥ずかしくて、つい王子まで透明にしてしまいました。

お読み頂き、ありがとうございました!

とても嬉しいです!!

もし面白いと思って頂けましたら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願い致します。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直なご感想を頂けるとめちゃめちゃ喜びます!

ブックマークして頂けると励みになります!

どうぞ、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんだかほのぼのしました^_^。面白かったです。
また戦争が起きるかもしれないのに召使が好き放題やってるのを知ってて何もしない王子?
この後テントに入ってきた兵士が「うわあああ!!大変だ!!いなくなってる!!」って騒ぎ出した後しらーっと出てきてまた大騒ぎになるやつ…復興現場に幽霊が出る話と絡み合って「呪いか!?」ってなったりするんで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ