【短編】愛することはないと、嫁ぎ先で塔に閉じ込められた。さあ。飛ぼう!
「ハハハ。この婚姻同盟によって両国とも平和になりますな!」
王子と私の結婚披露宴は壮大。
すっかり母国の宰相も、安心したようでした。
十年も続いた戦争の終わりを喜び、王都もお祭りのよう。
久しぶりに笑顔で賑わう町を見て、私も嬉しくなりました。
「姫様。どうか。どうかお幸せに」
「心配しないで。今までありがとう」
乳母も宰相も、帰国していきました。
さみしいですが、結婚とはそういうもの。
ところが宮殿内の、私への態度が豹変します────
「あんたのせいで夫は死んだッ!!」
召し使いは泣きながら、私に水をかけました。
「きゃっ」
廊下を歩けば、後ろから蹴られ、見下ろされる。
「はあ。姫様。またスープに毒が────」
「しかたないわ。恨む気持ちもわかるもの」
母国から連れきた唯一の侍女ソシエはため息。
「姫様。ドレスが汚されていますっ!!」
「これは困ったわね」
「無視では飽き足らず、嫌がらせを許して。なんて酷い結婚相手!」
「あら。放置される方がいいわ。怖いもの」
「殺戮王子ですもんね。ですがこのままでは───」
王子が怖いわけではありません。
覚悟して嫁いでも、やっぱり初夜は怖いのです。
そして、ソシエは守りたい。
「そうね。危険ね。ソシエだけでも帰国して」
「姫様を置いて!?」
「和平の証の私は殺されない。でもソシエは何をされるか」
「ですが!」
「私なら大丈夫。知ってるでしょ?」
「───では、城下町で待機します」
侍女ソシエを宮殿から逃がすと、食事も出なくなりました。
部屋に王子がいらっしゃいました。
「殿下。お久しぶりにございます」
「ああ。そうか。結婚式以来だな」
「本日はどういったご用件で?」
警戒してしまう────
「そなたを愛することはない」
「問題ありません」
「塔に移ってくれ」
「かしこまりました」
私は塔に閉じ込められました。
扉は内側から開きません。
ですが、窓があります!!
私は魔法が使えます。飛行、透明化の二つ。
ちなみにソシエの魔法は、無毒化。
毒入りスープも、おいしいスープに。
私は早速、ソシエのいる城下町に飛びました。
「姫様ぁ! ご無事で!」
「ええ。かわいいお家ね」
「いつでも姫様がいらっしゃれるよう、食事も用意しています」
「ありがとう。嬉しい。頂くわ」
温かいスープから、ソシエの思いやりが心に染みる。
こそ泥のように厨房で飲んだスープより、ずっと美味しい。
「宮殿でお化けがでると、町で噂になってます。なにか失敗しました?」
「この前、廊下で人にぶつかっちゃった」
私の透明化は、視覚、嗅覚、聴覚から消えるだけ。
触れるし、殺せます。
「姫様の状況を、本当に母国に伝えないでよいのでしょうか?」
「絶対に教えてはいけない。せっかく平和になったのだから」
「ですが、王子はいまだに姫様を放置してるのでしょう?」
「一度いらしたわ。『そなたを愛することはない』と伝えに」
「まあ! なんて、ひどい!」
「別に。私も愛してないし。王族の結婚なんてそんなものよ。そろそろ帰らなきゃ」
なんだか気になって、王子の部屋に寄ってみました。
透明化しても、扉を開けば見つかってしまいます。
ですから、廊下から覗きました。
服と同じで、私が触れれば壁も透明にできます。
すると王子は、結婚前に贈った私の肖像画を眺めている。
なぜかしら?
翌朝、王子を上から尾行してみました。
戦争で焼け野原になった町の、復興に尽力する王子。
母国も同じ状況なのでお互い様。
ですが罪悪感が膨れ上がり、とてもとても胸が痛む────
「あれ。風か?」
日暮れに、王子のテントの布の扉を開き、潜り込みました。
「ジェリィ。愛してる。一目でいい、会いたい────」
王子は私の名を呼び、愛をつぶやいた。
愛することはないとおっしゃったのに!?
でしたらなぜ放置して、塔に閉じ込めたの??
王子を毎日眺めます。
宮殿に戻る暇もないほど、王子はよく働く。
ドガ────ンッ!! ガラガラガラ────
復興作業中に壁が崩れ、王子は生死をさまよう大けがを!
なんてこと!!
私は母国にポーションを取りに飛ぶ。
「お願い。どうか間に合って────」
最速で戻ったのに、もう真夜中。
さあ。どうやってポーションを飲ませる?
寝てる人の口に流し込むのは危険。
しかもポーションは臭く苦い。
「うぅ。っううッ!」
王子は苦しみ悶える。
私は口移しで少しずつ飲ませることに。
透明化すれば、ポーションの臭さと苦さは消えるはず。
恥ずかしがってる場合じゃない!
ゴクッ。
王子が飲んだ後、目を見開いて上半身を起こす。
よし。今ならいっぱい飲める!
私はもう一度、口移し。
ゴクゴクゴク。
そして、王子は両腕で、透明な私を捕らえた。
────殺されるかしら。
ゾクッと背筋が凍る。
「ジェリィが助けてくれたんだね。ありがとう」
王子は私に頬ずりする。
へ?
私だとばれてる!?
つまり、私の魔法を知ってる!?
私は透明化を解いた。解かないと話せないから。
「なぜ私の魔法を知ってるのです?」
「俺の魔法は温度探知だ」
う。私と最も相性の悪い魔法────
透明になったところで、心臓は動き、血は流れる。
体温は隠せません。
「私をお嫌いでないのなら、なぜ放置したんです?」
「俺が嫌いだろ?」
「嫌いになるほど、殿下を存じ上げません」
「俺は殺戮王子だ。ジェリィも怖いと言った」
「だから、愛すことはないと言ったのですか!?」
「安心すると思ったんだ。実際、安心しただろ?」
確かに。
愛のない相手との初夜がなくなったと知って、ちょっと安心してしまった。
なのに、今、王子は逃がさないように、私を抱きしめたまま話すのです。
恥ずかしくて、鼓動が早くなり、体温が上がってしまう。
「殿下が怖いのではなく、初夜が怖いだけです」
私を見ないで。
つい、透明化してしまう。
でも……あれ?
なんで私とソシエの会話を知ってるのかしら?
透明化を解く。
「なぜ、怖いと言ったとご存じなのです?」
「俺のもう一つの魔法は聴覚強化。この二つの能力で勝利した。安心して。嫌がることはしない」
「なぜ塔に閉じ込めたのです?」
「留守中に何かされたら怖い。宮殿にいる間だって守り切れなかったんだ。もちろん悪事を働いた者は処罰した。本当にすまなかった」
「守ってくださってたの?」
「見張ってる間に、かわいくて、優しくて、凛々しいから。好きになってしまった」
屈強な王子が、怯えながら、ゆっくり愛を告白────
なんて不器用な人。
でも、こんなに褒められたら、恥ずかしくて透明になっちゃう。
ん。でも。あれ?
私が見てると気づいてたのよね?
また透明化を解く。
「私がいるとわかって、肖像画を眺め、愛をつぶやいたのですか?」
「そばにいて欲しくて。だけど怯えてるのに強制したくなくて」
「……」
意外とあざといのかしら。
「かわいいなあ。消えたり、恥ずかしそうに現れたりを繰り返すの」
「見ないでください」
「無理。かわいくて。少しは俺が気になった?」
「ええ。まあ。少しは」
本当は、少しではありません。
汗をかき、先頭きって働く王子は素敵で尊敬しました。
兵からの信頼も厚く、民にも愛されてました。
この優秀な王子を死なせたくないと、強く願ったのです。
「ずっとそばにいてくれる? そうすれば守れるから」
「はい」
「ジェリィに好かれるように努力する。少しずつ夫婦になっていこう」
「はい」
「キスはもう怖くない?」
頷くと、王子は私に優しくキスを。
恥ずかしくて、つい王子まで透明にしてしまいました。
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