【8話】リリーナの喜び
「『美味しかった。また作ってくれ』、そう言われたのよ!」
どうやら、作戦はうまくいったようだ。
リヒトはホッと胸を撫で下ろす。
「クロードと知り合ってからもう十年になるけど、褒められたのはこれが初めてなの! あーもう、最高の気分よ!!」
胸の前でガッツポーズをしたリリーナは、ずいっと身を乗り出す。
大いに喜んでいるのが、よく伝わってくる。
勢いに若干圧されながらも、よかったな、とリヒトは声をかけた。
「今回の件で私は確信したの! あんたとなら絶対うまくいくって!!」
自信に満ちたリリーナの視線が、リヒトをまっすぐに射貫く。
「これからは、放課後毎日ここに集合ね! バンバン恋愛相談して、ジャンジャン作戦を実行! とっととクロードとくっつくんだから!」
「……いや、そこまでする必要はないだろ」
信用してくれたこと、そしてやる気になってくれたことは嬉しい。
闇堕ちの回避へ、これでグッと近づいたことだろう。
しかし、毎日集まる必要はないような気がする。
必要なタイミングで、都度集まればいいだけの話だ。
「はあ? 元はと言えばあんたが、サポートさせろ、って脅してきたんじゃない。私、ものすごく怖かったんだからね!」
「嘘つけ。まったく怖がってなかっただろ」
「とにかく! 自分から言い出したことには、ちゃんと責任取りなさいよ!」
「……分かったよ」
そう言われてしまえば、何も言い返せない。
リリーナの強引な提案に、リヒトはしぶしぶ頷いた。
******
放課後、旧校舎の空き部屋に集まって、リリーナの一日の出来事を聞く。
そんな毎日が始まってから、二週間が経過していた。
リリーナは、それはもう毎日楽しそうに報告してきた。
クロードに話しかけても、以前のようにあしらわれることはもうないらしい。
むしろ、紳士的な優しい対応をしてくれるのだとか。
しかも最近では、クロードの方から話しかけてくることもあるらしい。
とてもいい傾向だ。
マイナスだった好感度が、手作り弁当の件を境に、プラスに転じ始めたのだろう。
「よし、次の作戦だ」
丸テーブルに座るリヒトがそう告げると、向かいのリリーナは含みのある笑みを浮かべた。
待ってました、と言わんばかりだ。
「次は食事に誘ってみよう。好きな人と一緒に食事をするっていうのは、ド定番のシチュエーションだからな。今のお前の好感度なら、クロードも誘いに応じてくれるはずだ」
「なるほどね」
「手料理は前にやったし、今度は外食に挑戦してみるか」
「分かったわ。それで、どこの店にいけばいいの?」
「……それはまだだ。少し時間をくれ」
どこで外食すればクロードの好感度が上がるか――そんな情報は、マジカルラブ・シンフォニックには出てこなかった。
ゲームの知識が使えないとなれば、手探りで見つける必要がある。
翌日、正午。
中庭のベンチで、リヒトはステラお手製の弁当を味わっていた。
「うん、今日の弁当も最高だ!」
「ありがとうございます」
リヒトの隣に座っているステラが、楽しそうに笑う。
見ていて気持ちの良い笑顔だ。
これを見るだけで、元気がモリモリ湧いてくる。
「ステラ、明日って予定は空いているか?」
明日は、週に一日だけ設けられた学園の週休日。
遊びや、はたまたデートにでも誘うような口火の切り方をしたリヒトだったが、そうではない。
「いえ、特に決まってません」
「頼みがあるんだけどさ。俺と一緒に飲食店をいくつか回ってくれないかな? ステラの感想を聞きたいんだ。俺の……友達から、初デートにおすすめの店はないか、って相談されちまってな」
クロードの好感度を上げられるような外食店を探しているリヒトは、ステラの協力を仰ぐことにした。
こういうことを決めるときは自分だけでなく、他の人の意見も取り入れた方がいいのでは。
そう思っての行動だ。
けど、理由はそれだけじゃない。
食べることが大好き、という可愛らしい設定がステラにはある。
色々な場所で食事できるとなれば、喜んでくれるかもしれない。
日頃、美味しい昼食を作って貰っている感謝を、リヒトは少しでも返したいのだ。
「もしよかったらどうかな?」
「私でよければ、ぜひ!」
ステラは笑顔で快諾してくれた。
大いに喜んでいるようなその眩しい笑みは、純朴で可愛らしい。
リヒトはやはりドキッとしてしまう。